10 告白と 彼の告白
name change .
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
静まり返った∞の楽屋。
亮さんの告白を聞いて、
彼は今、
どんな顔をしてるんだろう…
言葉が何も見つからなくて、
私は、小刻みに震える亮さんの腕に
ただ顔をうずめていた。
しばらくして、
彼がゆっくりと口を開いた。
『…あ、
そう、なんや?
ははっ
あー、よかった、な、うんっ(苦笑)
で、なに?この空気っ、
みんなえらい暗いやん…?(笑)』
平然を、装っていたんだろう。
でも私は聞いてしまった。
彼が、私みたいなガキを、
こんなひどい女を、
好きでいてくれたこと。
言葉が、見つからない。
ううん、彼に言葉をかける資格なんて
私にはない。
雛[…すばる。]
『っなに?
あ、みんな、もしかして知ってたんや?!
なんやも~、あ、そやちい!
…とかももう呼ばんほうがええんかな?(汗)
如月っ、今日で最終やったよな?
もう、俺のイメージ大体伝えたし、
打ち合わせ、ええやろっ。
ええ詩作ってやっ(笑)』
雛[違う、すばるっ]
「あ…あの、あたしっ」
『っさっきの、
話ってゆーのも、
よー考えたらそんな大事なことちゃうかったし、
忘れて。
じゃ、そーゆーことでっ』
まくし立てるようにそう言い終わると、
彼は足早に、着替え室へと姿を消した。
“如月”…
ううん。
傷つく資格も、私にはもうない。
私の動揺を察してか、
亮さんの手が、そっと私の手を包み込む。
私は、この手を選んだ。
彼のはにかんだ横顔も、
身体の芯が麻痺するような
激しくて大人なあのキスも、
すべてを捨てて、私はこの手を選んだんだ。
後悔なんて、
しない。
ただ、
彼を傷つけたと思うと、
心の奥が張り裂けて、
涙が溢れそうになるけれど。
零れ落ちる涙に気づいて
拭ってくれたこの優しい手を、
振り払うことなんて、
できないから。
しばらく、
その場の誰もが、
言葉を見つけられずに立ち尽くしていると、
スタッフさんがみんなを呼びに来た。
<∞の皆さん、リハお願いしまーす>
雛[はいっすぐっ。
話はまた今度や、行くで!]
ヒナさんがみんなに声をかけ、
去り際に亮さんが、
楽屋を出ようとする私の耳元で、
錦[今夜、俺ん家来いよ。
OKなら、8時にこの局の前で。
…意味、わかるよな…?]
そう言い残して、
みんなはスタジオへと消えていった。
今夜…
ううん、大丈夫。
私は、
亮さんの彼女なんだから…
7時、
約束の時間より一時間早く、
私は再びテレビ局の前にいた。
少し、早く着きすぎたかな…
それにしても、
今夜は冷える、
「もう一枚、羽織って来ればよかったかなあ…」
誰にともなくそういって、
冷たい壁際にしゃがみこみ
日が落ちきった空を見上げていると、
ーフワッー
後ろから、誰かが上着をかけてくれた。
えっ…?
『…着とけよ。
今日寒いのに…』
「渋谷…さん…」
彼はそう言って、
私に上着を貸した分
服の袖を伸ばして手に息を吹きかけ、
私の横の壁に背中を預けた。
沈黙…
これといって言葉を交わすわけでもなく、
彼はしばらく、私の隣で、
雲ひとつない澄んだ夜空を見上げていた。
今、何時なんだろう…
「あの…」『亮と…』
『「あ…。」』
話を切り出すタイミングがかぶってしまい、
ふたり同時に、お互いの方を振り向いて、
一瞬だけど、
時計が止まった気がした…
『あ、悪い…
なに?』
「…あ、あのっ
詩がっ…
詩ができたので、ちょうど…」
すくっと立ち上がって、バックを探る
これを渡したら、
私と彼の関係は終わり。
『ああ、詩っ。
うん、さんきゅ。』
差し出した詩を手に取って、
すぐさま目を通し始めた。
こういう、
すぐスイッチを入れられるところ、
本当に尊敬してる。
「あの、
渋谷さんは…」
『ああ、
あの、亮のことっ
今日びっくりして、
ちゃんと言えてなかったから…
その、おめでとう、な。(苦笑)』
やだ…
そんな風に言わないで。
涙が…
だめだっ、泣いちゃ…っ
こぼれそうな涙を隠すようにうつむいて、
「あ…はい…」
それ以上は、
声が震えちゃうから、
何も言えずに、
ごまかすようにしゃがみこんで、
ただ足元のタイルを見つめていた。
『亮は、ええやつや。
たまに口悪いけど、
人一倍優しいし、
気ぃ使いぃやから…
亮のこと、頼んだで?』
「…っ。」
優しく、
諭すようにそういった彼。
目の前のタイルが歪んで、
彼の方を振り向けない。
彼は、いったいどんな顔で、
その言葉を言ったんだろう。
何一つ言葉を返せない私を、
彼は後ろからそっと抱きしめて
静かに、言った…
『ごめん、
これが最後やから。
振り向かんと聞いて。』
振り払うことも、
返事をすることもできないから、
うつむいたまま、小さくうなずいた。
『朝ゆーてた話なんやけど、
やっぱ…
ちゃんとゆーとこうと思って…
俺、
お前のことが好きやった。
もう、みっともないくらい…
ヤスにも、大倉にもっ…
誰にも触らせたくなくて、
くだらんエゴで、
お前にいっぱいひどいことした。
いっぱい泣かしたし、
キス…した。
でも、
ごめんとは言わへんから。
…
もし、もし亮がお前泣かしたらっ!
………いや。
詩、めっちゃよかった。
ありがとう。
…がんばれよ。』
そう告げると、
彼はそっと私から離れ、
静かに遠ざかっていった。
彼のぬくもりの残った上着を残して…
心が、引き裂かれていく…
もし今、
呼び止めて、抱きしめたら、
“あなたが好き”
たった一言、伝えることができたなら…
かすかに残る背中の熱を確かめるように、
私は彼の上着を抱きしめた。
錦[…ちい?
ごめん、遅れてっ(笑)]
「…あっ」
錦[…泣い、てる?
え、どーしたんっ?!
なにが…っ(汗)]
「ご、ごめんなさいっ(汗)
なんでもないの、あくびしてたら…」
錦[…ほんま?
まあ、ちいがそういうんなら。
それより、
来てくれたんやな…(笑)]
亮さん…
だめ、私は亮さんを裏切れない。
「…亮さんの家、
連れてってくれるんでしょ…?(笑)」
早く、早く
私の中を亮さんでいっぱいにしてほしい。
彼の熱なんて忘れるくらい、
亮さんの熱で、溺れさせて…
「ねぇ、行こ…?」
渋谷さんに抱きしめられて、
火照ったほほをごまかすように
甘えた素振りで亮さんの腕に絡みついた。
女って怖いな…
まるで第三者のように
思ったりもしたけれど…
今夜、
私は亮さんのものになる。
誰かが言ってた。
《恋愛なんてタイミングがすべて》
そんなありきたりな言葉さえ心にしみる
片想い
すれ違い
両想い
すべてを木枯らしが無情に攫う
18歳の冬。