08 あなたに会いたい。
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その日、あたしたちはそのままホテルの一室に泊まり、
朝まで隼人さんの体温に包まれていた。
もう、目を覚ましても隣にあるのは、
大好きな人の綺麗な寝顔じゃない。
それだけで、絶望するには十分すぎるくらいだった。
まだあたしの隣で寝息を立ててるその人の腕から出て
無造作に床に脱ぎ捨てられた、ドレスを身にまとう。
壁一面の大きな窓ガラスに映る不似合いなドレス姿に、
思わず失笑。
隼人さんが寝てるすきに、
没収されてたケータイを取り出して
亮に電話をかけた。
とりあえずは、昨日約束やぶったことを謝りたくて…
でも、
「…また、繋がらない…」
亮のケータイにはいくらかけても繋がらず、
あきらめて、メールを打っておいた。
今日は、ドラマの日だ…
また、あなたに会えない毎日が始まる。
しばらくして、隼人さんも目覚め、
二人で現場入りした。
≪ちゃっーす≫
スタッフ[隼人さん、おはようございます!
…あれ?如月さんも一緒ですか…?]
「…っあ(汗)」
あたしがうつむいていると、
隼人さんがあたしの肩を抱き寄せた。
≪実は、俺ら付き合ってんですよね(照)≫
スタッフ[えぇ?!(汗)]
わざとらしい照れ笑いを浮かべながら、
隼人さんが答える。
当然スタッフさん達はざわめきを隠せず、
みんながこっちを注目していた。
その中に、ヒナちゃんの姿を見た…
「…っ、隼人さ…っちょ…ん…っ」
ヒナちゃんに、昨日のことを謝りに行こうとして
隼人さんの腕をすり抜けようとした瞬間、
ぐっと引き寄せられ、くちびるを重ねられた。
『…っ!』
かすかに開いたまぶたの隙間から、
ヒナちゃんが去っていくのが見えた…
やめて…
行かないでっ
≪…っとまあ、こういうことなんで、
一つよろしく頼みます(妖笑)≫
スタッフ[(っ撮ったか?!これはスクープだ!!)]ザワザワ…
あちこちで、スタッフがざわめいていて、
かすかにシャッターを切る音も聞こえる…
待って…待って…っ
許してもらおうなんて思ってない、
でもせめて、あたしの口から亮に伝えたいの…っ
≪…っおい!!≫
あたしは隼人さんの腕を振り切って、
ヒナちゃんの楽屋に向かった。
「っヒナちゃん!!」
『!!…なんやねん…さっきの…っ』
怒って、るの…?
「…違うの、聞いて!」
『っわかってる!!』
ービクッ
聞き慣れないヒナちゃんの怒鳴り声に、
あたしはびっくりして固まった。
『…ちゃう、わかってんねん…っ
あいつの権力に脅されてるだけやって…
でも、お前、昨日どこで何してた…?』
こぶしを握りしめて、
あたしをまっすぐ見つめて聞いてくる。
…話すよ。
ヒナちゃんには隠し事しない…
「…昨日…ね…っ」
あたしはすべて話した。
涙は流さない。
ヒナちゃんは、床の一点を見つめて、
静かに、ふつふつと怒りをためてるみたいだった…
「…これで、全部…」
『なんっ…、やねんそれ!!(怒)』ッガン!!
目の前にあったテーブルを思いっきりたたいた。
「…ほんと、最低だよね…っ
亮以外に…求めちゃ、った…っ」
涙がほほを伝わないように
下を向いて話す。
『…未成年飲酒さして、薬まで使うやなんて…
…っ卑怯にもほどがある!!』
ありがと、あたしのためにそんなに怒ってくれて…
しばらくの沈黙の後、ヒナちゃんが
申し訳なさそうに口を開いた。
『…言いにくいんやけどさ、昨日、亮な、
ホテルのバーで…
見てたで…?』
「…どういう…こと…?(汗)」
あたしは、ヒナちゃんからぜんぶ聞いた。
「…だから、今朝電話に出てくれなかったのかなぁ?(苦笑)
見られてたなら、こんなメール…
送るんじゃなかったなぁ…」
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亮へ
昨日は連絡もなしに
約束やぶってごめんね(>_<)
ちょっと、おなか痛くなっちゃって…
また、近いうちに
必ず埋め合わせするね?
この前おいしかったお店、
また連れてってほしーな!♪
早く亮に会いたいよ。
ちい
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今朝送ったメールを広げて、
自分の愚かさに笑えてくるよ。
…あんなとこ見られた後でこんなメール、
最低な浮気女の言い訳にしか聞こえない…
自分で自分の首絞めてどーすんの…っ
『…早く、亮に会いに行った方がっ』
「…こうなった以上、さ…
もう、亮のとこには戻れないよ…」
『っなにゆーてんねん!
だってお前は、まだ、…っ!?』
自嘲気味に笑うあたしの肩をつかみ、
荒っぽい口調で問いかけるヒナちゃんに、
自ら着ていたブラウスの胸元をはだけさせ、
隠していた首筋を見せると、
ヒナちゃんは言葉を詰まらせた。
『…お、まえ…これっ』
そう、あたしの首筋、胸元、太ももにまで、
おびただしいほどの赤い華。
あの人に抱かれた、裏切り者の印…
「…一晩中、抱かれたんだよ?
こんな体で、…亮のもとになんて…っ」
我慢していた涙が、こぼれてしまう…
ヒナちゃんは、あたしをしっかりと抱きしめてくれた。
『っ大丈夫や…っ、こんなん、
時間経ったらきれいに消える!亮かって…』
「っ消えないの!!」
泣き叫ぶようなあたしの声に、
ヒナちゃんはあたしの濡れた瞳を見つめなおす。
「消えないんだよ?…あの人のにおい…っ
洗っても、洗ってもっ…
嫌なにおいが、体に染みついて…っ
…
あたしは、…きたない…っ(泣)」
崩れるように、その場に座り込む…
「…正直、昨日までは、
あの人に無理やり抱かれて、あたしは被害者なんだって、
早く亮に会いたいって、素直に思ってた。
でも…っ、昨日のあたしは被害者なんかじゃなかった!
薬のせいなんて…ただの言い訳っ
あたしが、求めて、
あたしが、あの人の上で腰振ってたのっ
…口でだって、したよ…?
こんな、醜い女…亮の隣にいる資格…ない…っ(泣)」
ごめんね、ヒナちゃん
こんな風に泣いて、困らせて…
でもね、一人じゃ抱えてられないの…
『…それで全部か…?』
「え…?」
思いもよらない言葉に、
思わずヒナちゃんの顔を見上げる。
するとヒナちゃんは、あたしのほほに手を添えて、
そっと、まるで壊れ物を扱うように抱きしめてくれた。
『溜めてたこと、全部吐け。
大丈夫、俺がおる。
亮にも言えへんことも、俺が聞く。
俺が、お前のすべて受け止めたる。』
明け方まで、乱暴に扱われ続けたこの体は、
ひさしぶりに感じる
温かい優しい手つきに、
優しく、諭すようなその言葉に、
自然と、流れ続けていた涙は止まり、
ヒナちゃんの胸で、あたしは懐かしい安堵感をおぼえた。
「…ごめんね、あたし、ヒナちゃんに頼ってばっか。」
『ええねん。俺がそーしたくてしてんねんから(笑)』
そういって、八重歯を見せて
ふわっと笑うヒナちゃん。
あたしが辛いとき、いつもそばにいてくれてありがとう。
『亮のこと、信じろよ。』
「…うん。」
受け止めて、くれるかな?
怖いけど、ヒナちゃんがついててくれるなら…
せめて、くだらない噂なんかで傷つける前に、
あたしの口から伝えたい。
亮…あなたに会いたいです…