22 悪役の登場
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「…なに…これ…?!」
何気なく開いた朝刊の見出しを見て、
あたしは思わず
食べていた食パンを落とした。
すぐに亮に連絡して、
亮の方でも何が起こってるのかわからないらしく、
とりあえず、他のメンバーも集まって
話しをすることになった。
『っちい!
ニュース見たか?!(汗)』
一番に待ち合わせ場所に来たのは
ヒナちゃんだった。
「ヒナちゃん…っ、
うん、でも、
何が起こってるのかあたしよく…っ(汗)」
章[ちいちゃん!
テレビ!今ニュースやってる!]
丸[早く!8ch!(汗)]
忠[ちょっ、音小さいって!聞こえん!]
横[おまえらうるさいねん!(汗)]
すぐ後にみんなやってきて、
流れるニュースを息をのんで見つめる。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
【人気俳優の隼人さんが、
なんと主演の決まっていた
映画を降板されるという大事件が起こりました!
今日はそんな話題の本人に、
直撃インタビューをしたいと思います!
隼人さん!今のお気持ちは!】
≪…まあ、
自業自得なんじゃないですかね?(笑)≫
【それは例の、
“新人女優を遊んでやった”という発言が
世間の反感を買ったことを
事実と認めるということでしょうか?!】
≪まあ、そうっすね。
大して面白くもなかったですけど(笑)≫
【と、言いますと?!】
≪あー、めんどくせぇな。
だぁから、もともと大好きな彼氏持ちで
浮かれてた新人をちょっと遊んでやったんですよ。
俺、視聴率王なんて呼ばれちゃって
現場では逆らえる奴なんていないからさ(笑)≫
【無理やり言うことを聞かせていた、
という風に聞こえますが…っ?!】
≪まぁ、その通りだからね(笑)
相当嫌われてましたよ~(笑)≫
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
[[………。(汗)]]
誰もが、言葉を忘れたかのように、
ただ茫然と、
あっけらかんと話すテレビ越しの彼を見つめていた。
章[……隼人…。]
そう呟いた章ちゃんの顔は、
心なしかさみしそうに見えた。
昴[…えらいキャラ変わったな。]
横[あんな言い方してもーて、
大丈夫なんかいな…(汗)]
みんな、今目の前で何が起こっているのか
よくわかっていなかった。
感じるのは、
世間の風潮が変わり始めている気配だけ。
たった一人の、悪役の登場によって…
『…そういえば、
亮どこいってん…?』
ヒナちゃんの言葉で、ようやく気付いた。
「あれ?
あたし、亮にここに来るように言われて…」
丸[俺らもやで…?]
ープルルルル…プルルルル…
沈黙を割いたのは、
あたしの携帯の着信音だった。
錦[…ちい?
俺。]
「亮?!
なにして…、今どこに…っ(汗)」
錦[…ニュースは俺も見てた。
下に車回す。
一緒に行こう。]
「行くって…、どこに…っ
あ!(汗)」
それだけ言って、電話は切られた。
『…行って来い。』
立ち尽くすあたしの背中を押す、
優しい声。
あたしは階段を駆け下りた。
下には既に、
見慣れたワンボックスが止まっていて、
黒塗りの窓を半分開けて
手招きをする愛しい人。
「っ亮!」
錦[…ちい、
乗って。]
車内は、音楽もかけず静まり返っていた。
しばらく走って、
大きなビルの前に付いた。
錦[あいつ、今日ここで収録やから、
楽屋におるはず。
行こう。]
「…っ、」
どうしてかわからない。
不安か、恐怖か、
あるいはその両方か、
降りなきゃと思うのに、
あたしの足は固まって動かなかった。
錦[…怖いか?]
そう言って、
亮はあたしの頭を自分の胸に引き寄せる。
大丈夫。
この人が隣にいてくれれば…
「…ううん、行こう。」
そう言って、
あたしたちは手をつないで
彼の楽屋の前まで歩いた。
ーートン、トン、
≪はーーい、どちらさま…
って、これは珍客(妖笑)≫
一週間ぶりに見る彼の顔は、
心なしかやつれて見えた。
≪…突っ立ってないで、入れば?≫
促されるまま、
私たちは楽屋に入って、
近くのソファに腰を下ろした。
錦[……ニュース…]
口火を切ったのは亮だった。
≪ああ、あれ?
なに、間違ったこと言ってる
つもりはないんだけど?≫
あたし、変なのかな?
淡々と話すその口調からは、
なぜかあたたかさが伝わった。
「…映画、
降板されたって聞きました。」
≪…まさか、
それで心配になって来てくれちゃったわけ?
そんなお人好しだから、
つけこまれるんだよ?(妖笑)≫
錦[っお前…!]
「どうして!!
今になって、こんなこと…っ」
≪…安心しなよ。
恩を振りかざすつもりなんて毛頭ないからさ。≫
そう静かに話す彼の姿に、
かすかに、さみしさが香る。
≪ただちょっと、
疲れただけだよ。≫
また沈黙、
誰もが言葉を探していた。
≪…じゃ、俺もう仕事だから、≫
錦[感謝なんて、
せんからな。]
≪……。≫
二人は静かに見つめあい、
お互い目をそらそうとしなかった。
錦[…ゆーたやろ。
俺はこの先何があっても、
お前を許すつもりなんざ1mmもない。
こんなことで、
お前のしたことが許されるなんて思うな。
それを言いに来たんや。
……行くで、ちい。]
「……ぁ、(汗)」
それだけ言うと、
亮はあたしの手を引っ張って
隼人さんを押しのけて楽屋を出た。
帰りの車でも、
亮は一言も話さなかった。
ー隼人side
疲れた…
最近ろくに休みも取れてない
生放送のインタビューに出た時、
ちいのことを
遊んでやったって発言してから、
映画が降板になったり
バラエティの仕事もバラシになったり、
暇になるもんかと思ったんだけど、
今度は連日ニュースに
雑誌インタビューにって、
むしろ前より忙しくない?(汗)
≪…あいつ、
元気かな……。≫
“ちい”。
ついこの前まで
俺の彼女だった女。
まぁ、無理やりだけど(笑)
芸能界に入りたて
初仕事が連ドラで緊張してて、
擦れてないとこが物珍しくて、
…可愛かったな。
でも、
錦戸が初めて現場に来たとき
空気感ですぐに
あーこいつらデキてんだな。
ってわかって、
どうでもよかったはずなのに、
ちいの純粋さが、
妙に昔の自分とダブっちまって、
≪泣いて、ばっかだったなー…。≫
初めは、
あんなことするつもりじゃなかった。
泣かせたかった、わけじゃなかった。
ただ、
あんまりにもあいつらが
幸せそうにするから、、
勝手に、
過去の自分のくそみたいな恋愛と重ねて、
そんなもん幻想だって、
思い知らせてやるつもりだったんだ。
…より深く、
傷つく前に…っ
ま、けっきょく、
あいつらの愛とやらは本物で、
傷つけたのは俺だったんだけどねー。
≪…あほくさ。≫
損な役だよね。
ま、どうせなら最後まで、
悪役くらいかってやりますよー。
ーートン、トン、
ったく、誰だよ。
あー気分乗らねぇー。
≪はーーい、どちらさま…
って、これは珍客(妖笑)≫
正直、予想だにしない来客に、
不覚にも動揺してしまった。
一週間ぶりに見るそいつの顔は
あの頃よりも晴れやかで、
なんだ、
元気そうじゃん。
≪…突っ立ってないで、入れば?≫
あの記者会見、まあまあだったじゃん。
って、
褒めてやってもいいかなって思った矢先、
錦[……ニュース…]
口火を切ったのは錦戸だった。
≪ああ、あれ?
なに、間違ったこと言ってる
つもりはないんだけど?≫
やっべー、
もしかして感謝されちゃう感じじゃね?(笑)
「…映画、
降板されたって聞きました。」
こいつ、
まじでいいやつなんだな。
正直ちょっと感動した。
今さらだけどね、
≪…まさか、
それで心配になってきてくれちゃったわけ?
そんなお人好しだから、
つけこまれるんだよ?(妖笑)≫
こんな言い方しかできない状況にしたのは、
自分。
錦[っお前…!]
「どうして!!
今になって、こんなこと…っ」
思いっきり俺をにらみつける錦戸の後ろで、
どこか不安そうな瞳のちい。
…そこまで見くびんなよ。
≪…安心しなよ。
恩を振りかざすつもりなんて毛頭ないからさ。≫
そう、
こんだけ二人の絆見せつけられた後で、
まだどうにかしようなんて、
思ってない。
…って、
あれ?
俺はちいと
どうにかなりたいのか…?(汗)
だめだ、
これ以上喋ると余計なこと…っ
≪ただちょっと、
疲れただけだよ。≫
そう、
もう疲れたんだ。
もとは最愛の人を追って入ったこの世界。
即裏切られて、
見返してやろうって走ってきたけど、
お前ら見てると、空しくなるよ…。
≪…じゃ、俺もう仕事だから、≫
錦[感謝なんて、
せんからな。]
≪……。≫
耐えきれなくなって
逃げ出そうとしてんのに、
こいつの目は、俺を捕まえて離さない。
錦[…ゆーたやろ、
俺はこの先何があっても、
お前を許すつもりなんざ1mmもない。
こんなことで、
お前のしたことが許されるなんて思うな。
それを言いに来たんや。
……行くで、ちい。]
「……ぁ、(汗)」
それだけ言うと、
錦戸はちいの手を引っ張って
俺を押しのけて楽屋を出た。
錦戸に引かれて、
ちいは俺を振り返りながら
楽屋を後にする。
…そんな、
憐れむみたいな目で見るなよ…っ
守りたかったのに…
今になって、気づいた。
俺、
あいつに惚れてたんだ…
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