15 あなたじゃないと…
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もう、目を開ける力さえ残ってない…
亮に抱かれた余韻が
体中に染みついてる。
なんであんなことをしたのか、
自分でもよくわからないけど…
亮が、これ以上自分を傷つけるのに耐えられなくて、
無我夢中で亮の家まで走った。
インターフォンを鳴らすと、
すぐに開いたドアに一瞬動揺した。
錦[………ちい?(汗)]
「…っりょ、お…っ(汗)」
亮も、まさかの訪問客に
目を丸くしてた。
でもあたしは、不謹慎にも
ひさしぶりに亮に会えたことに感動しちゃって、
本当は、なりふり構わず飛びつきたいくらいだった。
でも、そこで素直になれないのが
あたしのダメなところだね。
「……抱いて、よ…っ」
咄嗟に出たこの言葉、
あたしが一番びっくりしたんだよ。
でも、今の亮と繋がれるには、
これしかないって思ったの…
咄嗟のこの状況を理解できずにいるのか
固まってる亮の横を通り過ぎて、
強引に部屋に上がった。
そしてベッドの前まで行き、自分で服を脱いだ。
顔から、火が出そうなくらい恥ずかしい…
でも、これで少しでも亮が傷つかずに済むなら、
錦[…っな、なにやってんねん…っ(汗)]
戸惑う亮に構わず、
ゆっくり、近づいて、
まだ困惑を隠しきれないその愛しい唇に、
そっと、キスを落とした。
…嬉しい。
あの日から、ずっとこうしたかった。
あの人とするときは、
こんな風に体が熱くなるキスなんて
したことなかったから、
ひさしぶりに感じるその幸福感に酔いしれるように、
夢中で亮の唇を求めた。
それでも現実は無情にも、あたしたちを引き離す。
錦[…なんや、あの俳優だけじゃ足らんのか(笑)]
ついさっきまで重なっていたくちびるを手の甲で拭い、
亮がそんな言葉を放つ。
何も言えずに、床を見つめた。
そうだ、許されるはずなんてない…
錦[…元彼に求めるほど、飢えてんの?(笑)]
耳元でそんな言葉を浴びせられて、
逆に冷静になった。
もう、引き返すことはできない。
不思議と、その現実が
ストンとあたしの中に落ちて、
はりつめていた何かの線が切れる音が聞こえた。
次の瞬間、
あたしはおもむろに、
後ろのベッドに亮を押し倒した。
「…うるさいなあ。
いろんな女の子と遊んでるんでしょ?
あたしとも、遊んでよ?(妖笑)」
すんなりと出たその言葉、
そうだ、どんなにがんばったって、
もう戻ることなんてできない。
ならせめて、早く亮を解放してあげなきゃ…
自惚れかもしれないけど、
亮はきっと、無数の女の子の中に
あたしの面影を探してるんでしょ?
わかるよ。
亮のことくらい。
こんなに大好きなんだから…
だったら、今の汚れきったあたしにできることなんて
ひとつだけ。
亮の中から、消えること…
あなたのためなら、
遊女にだって成り下がる。
だからお願い、
早く、忘れて…っ
震えを最大限に押さえて、
亮に覆いかぶさる
あたしなんかが押さえつけたところで
大して持つはずもなく、
ようやく現状を理解したんであろう亮に
瞬く間に形勢逆転されて、
あたしがベッドに組み敷かれた状態。
錦[…話早いな(笑)
望み通り、遊んだる。]
そういって、亮はすでに露わになっていた
あたしの胸の突起に吸い付いた。
たったこれだけで、声が漏れてしまう…
この瞬間だけは、
まだ愛されてたあの頃に戻ったみたい…
でも、現実はそんなに優しくなくて、
亮の自分の快楽だけを求めるかのような
乱暴な行為に伴う痛みで、
すぐにあたしは、今を思い知る。
自然と涙があふれた。
あたしのこの痛みなんてものともしない
亮の心の痛みが
身体を通してあたしにも伝わるから…
亮の苦しみが、直にあたしの中に入ってくる。
息もできないくらい、苦しいよ…
「…ごめ、んね…亮…っ」
痛みはやがて淫らな快感に代わるけど、
薄れゆく意識の中で
必死に腰を振る亮に向かって
何度もつぶやいた…
届いてしまわないように、なるべく小さく…
どれくらいこうしてるかもわからない、
あと一歩で意識を手放してしまいそうになった頃、
ようやく亮の動きが止まり、
あたしの上に崩れ落ちた。
ひさしぶりに感じる肌のぬくもりに
感動するのもつかの間、
亮はすぐさま立ち上がり、
自分の衣服を整え、
あたしを無理やり立たせて
強引に服を着せた。
そしてそのまま、何も言わずに
あたしをドアの外へ放り投げる。
あたしは玄関を出たところで力尽きて
倒れこんだけど、
亮はそんなの気にもとめずにドアを閉めた。
亮、わかったでしょ?
あたしはもう、
あの頃の綺麗なままのあたしじゃない。
見ての通り、
薄汚れた遊女に堕ちたの。
だから、もういいんだよ。
あたしのことなんか忘れて、
どうか、幸せに…っ
「…っ…なん、で?…っ」
気づけばあたしのほほには、
温かいしずくが伝っていた。
亮の幸せを願ってるのは、本心。
あたしのことなんか忘れていいっていうのも、
嘘なんかじゃないのに…
どうして心だけはこんなに正直に、
あなたを求めるの…?
あんなに乱暴に抱かれたのに、
もう、
あなたの肌が恋しい。
あなたに触れたい、
触れられたい。
亮…
あたしやっぱり、
亮じゃないとだめだよ…
もう薄暗い空を見上げながら、
亮の家のドアにもたれかかって、
過ぎてく時間も顧みず、
声を殺して 泣いた。
ー雛sideー
あれから亮のことが気にかかったままで、
俺は、時間ができれば
亮の家の周りまで車で足をのばすのが日課になってた。
その度に顕著になっていく、
あいつの周りに感じる不特定多数の女の影。
亮、お前ほんまに、
戻ってまうんかいな…っ
その日も、ラジオ終わりに家に帰るとき、
クセで亮の家まで車を走らせた。
ちょうどマンションの前までついたとき、
俺は自分の目を疑った。
そこには、絶対おるはずのないアイツの姿…
『…ちい?』
思わず車から降りてそいつのそばまで駆け寄ると、
目の前の俺にも気付いてないかのように
焦点が合わず宙を漂う視線、
ほほに残る、無数の涙の後、
うわごとのようにつぶやく、
‘ごめんなさい’ という
今にも消えそうな言葉、
どれをとっても、
俺がこの状況を理解するには
到底及ばなかった。
『っちい?!
ちい!!
…どうした、なにがあってん!!』
夜中の2時過ぎという時間も顧みず、
俺は目の前の壊れかけた女に叫びかけた。
なんでここにおるんや?
なんでそんなぼろぼろなんや?
聞きたいことは山ほどあるのに…っ
俺が我を忘れて叫んでいると、
目の前のドアがゆっくりと開いた。
錦[…うるさいねん。
何時や思ってんの?]
ドアの向こうには
気だるそうに壁に寄りかかって
こっちを見下す亮の姿。
『…どういう状況やねん…
なんでこいつがこんなとこにっ』
錦[まだおったんかいな、
早よ連れて帰るなりなんしかのかしてや、
いつまでも居座られたらかなわん。]
それだけ言って、亮はドアを閉めた。
どこにぶつけたらいいんかさえ分からん怒りに
身を焼かれる思いで、
とにかくちいの安静を第一にしようという
理性がギリギリ働き、
俺はちいを抱えて車まで戻り、
こんな状態で一人で帰すわけにもいかんから
俺の家まで車を走らせた。
助手席で意識を失ったかのように眠る
ちいの横顔を見て、
たまらない気持ちが押し寄せてくる。
今思えば、
こん時の俺は、
目の前のちいのことで頭が一杯やった。
もっとしっかり、亮のことにまで頭が回っていれば、
亮のほほにも確かに残るちいと同じ跡に
気づくことができてたんかな…