08 恋をもう一度、御堂筋から
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忠義に、最後のメールを送った日から一か月。
あれ以来、私は忠義と
一切連絡を取っていない。
っていっても、私が一方的に
取らないだけで、
忠義からは、一か月たった今でも、
一日何十通と、メールも電話も来る。
着拒は…なぜかできなくて、
忠義だけ着信音を変えて、
ひたすら、無視する。
ジャニーさんには、あの次の日に事務所に行って、
メールも提出して別れたことを告げた。
ジャニーさんは、
《youが賢くて助かったよ!お礼に、
他の安全なうちのタレント、紹介しようか?》
って言っていて、
その不気味さに、
もしも敵にしたらと思うと、背筋が凍った。
私は、彼を裏切ったんだ…
あれから、なにをしてても抜け殻状態…
そんな状態で、バイトに身が入るわけもなく、
心配した店長に、早引けするように言われて、
暇になっちゃったから、
行くあてもなく、心斎橋をうろついてた。
そしたら、ぼーっとしてたのかな、
裏道みたいなところに出ちゃったみたい。
気づけば日もすっかり暮れて、
普通にバイトしたのと同じくらいの時間になってた。
駅に向かおうと、
方向を変えた時…
ドンッ
「っきゃっ」
【って~、あーあーお姉ちゃん、
いてーじゃねーの~
これちょっと、治療してもらわないと~】
訳の分からない言いがかり、
そういえば、前にもこんなことがあったっけ、
そうだ、忠義と初めて会ったとき…
あの時は、ヤンキーに絡まれてる私を、
忠義が助けてくれたんだよね…
でも、もう…
【ちょっと聞いてんの?お姉ちゃん!】
もう、どうなったって…
「…ヤりたいんでしょ?いいよ。」
【…へへっなんだ、話が分かるねえちゃんじゃねえかっ】
どうなったって…いい。
『その女離せや!!!!』
…え?
一瞬何が起こったのかわからなくて、
わかるのは、すごく見覚えのある腕が、
私を抱えて走ってるってことだけ…
【待てゴルァ!!】
後ろからすごい剣幕で追いかけてくる
男たちをものともせずに走り抜けて
私を車の助手席に放り込んで
アクセルを踏んだ。
「忠…義…」
ー忠義sideー
ちいと海に行った日
ちいを無事家に送り届けて
自分ん家へ向かって車を走らせてたら、
ちいからメールがあった。
ちいはいつも、デートの後は必ず
感想とかを書いたメールを送ってくれとったから、
俺はいつものそれやと思って、
何の気なしにメールを開いた。
『今日はなんか、雰囲気に流されて
かなり恥ずかしいことゆーてもーた思ったけど、
やっぱたまには言葉にせんとあかんよね♪』
なんとなく全文に目を通して、
きっと、幸せなことが書いてあるんやろうと、
勝手な期待を膨らませていた思考回路はいったんストップ。
運転しながらじゃ集中できひんから、
車を端に寄せて、
もう一度、送られてきたメールを丁寧に読み返した。
「今日は、突然のわがままに付き合わせちゃってごめんね。
私は忠義の彼女になれて、幸せだったよ。
今までありがとう、
さよなら。」
そこに書かれてたのは、
いつもの絵文字いっぱいの
かわいらしいメールからは想像もつかんような、
文字だけの質素なメール。
‘さ よ な ら’…?
その文字の羅列が意味することが、
俺には理解できんかった。
すぐに説明を求めるように
ちいに電話したけど、出ない。
何が何だかわからんくなって、
俺はとりあえず、落ち着くために
いったん家に帰ることにした。
今思えば、あの時すぐに引き返して
強引にでもこの胸に彼女を抱きしめてたら、
きっと泣きはらしたであろうその瞳に
そっと口づけしていたら、
彼女の小さい肩がこれ以上、
一人でか細く震えることは なかったんやろうか。
こんなにも、すれ違い、
傷つけあわずに済んだんやろうか…
なんて考えても、過ぎ去った時間は戻らへん。
それ以来、毎日メールも電話もしてるのに
ちいとつながる気配は一向になく、
ただ時間だけが、無情にも過ぎていった。
いっそ着拒でもしてくれていたのなら、
まだあきらめもついたやろう。
彼女に向かって電波を飛ばすたび、
鳴り響くコール音が、俺を期待させ、突き落す。
送れば届くメールが、彼女の目に留まることを願ってしまう。
ああ、俺は、いつからこんなにも、
彼女なしでは生きられへんほど、
溺れてしまっていたんやろう…
ちいがいない未来なんて、もう輝かへん…
…と、まあこんな風に不抜けてみても、
仕事は容赦なく俺に襲い掛かる。
メンバーに迷惑をかけるわけにもいかへんから、
俺はなるべく、明るくふるまった。
ちなみに今日も、∞のみんなでレギュラー番組の収録。
今日で、ちいと音信不通になって一か月、
このまま、だめになってしまうんかな…
∞の楽屋はいつも騒がしい。
…今は、逆にこれくらい騒がしいほうがいい。
他のことを考えんくて済む…
そんなことを思っていたら、
急にすばるくんに話しかけられた
昴[…大倉、この前、ちい…なんかあった?]
え、なんで知ってんのって思ったけど、
あかんあかん、心配かけたら、
『べつに?なーんもないよっ(笑)』
雛[…嘘はあかんなあ?たつよし?]
横[俺らにそんなジョークが通じるとでも思ってるんか?]
あっちで笑ってると思ってた
村上くんと横山くんまでつめよってきた…(汗)
なんなん、もう、
おっちゃん3人組はお節介や…
『ちょ、ほんまに、
なんも、ない…って、
っくそ……っ、(泣)』
ほら、いらんお節介かけるから。
女のことで泣くなんて、女々しい男みたいやん…
亮[…はあ、一人でため込むからそーなんねん。]
丸[しんどいんやったら俺が笑かしたるやんッパーーーン!!]
安[…大倉、もっと頼れよ…お願いやから…(泣)]
雛[あーあ、ヤス泣いてもーた。
大倉のせいやで。(笑)]
亮ちゃん、丸…
なんでヤス泣いとんねんっ(汗)
『…っあ、ちょっなんでっヤス?!(汗)』
横[ヤスがいっちゃん初めなんや、
大倉がなんかおかしいって気づいたん。]
亮[大倉が一人で抱え込むんは、
年上の俺らが頼りないからかな~って泣かれて、
めっちゃうっとーしかってんからな!(怒)]
丸[もーっ亮ちゃん!(笑)
でも、たっちょん。
ほんまに、みんな心配しとってんで?]
安[ぅうっ…大倉ぁっ…ごめんなあ~(泣)]
そっか、俺の強がりなんか及ばんレベルで、
この人らは俺のことわかってくれてる。
黙っとくことで、心配かけんとこうなんて
まるっきり逆やったんや。
なんで俺、こんな頼もしい仲間に、
もっと頼らんかったんやろう…
自分一人でもがいて、悩んで…
ほんま、あほ…
そう思いだすともう止まらんくて、
気づけば大の大人の俺は、
同じく大の大人のヤスと一緒に(笑)
声をあげて泣いてた…
それから、俺はちいとの間にあったすべてのことを
ありのままに吐き出した。
そしたらすばるくんが
昴[…大倉、行けよ。]
『でも…収録…(汗)』
昴[そんなんなんとでもなる!行け!!]
そうや、もう泣くだけ泣いた。
弱音も吐いた。
伝えたいことが、ここにある。
行かな…。
ちい、…ちいっ!
俺は走った。
車を走らせて、気づけば向かってたのは、
ちいと出会った街、心斎橋。
“恋をもう一度
御堂筋から 始めたいよ
雅なる物語”
走って、走って、
俺はいつしか、ちいと初めて会った
あの裏通りに来ていた。
ああ、あの日も、ちょうどこのくらいの時間やった。
ファンの子に追いかけられて、
なんとかまく方法を探していた時、
ヤンキーに絡まれた君を見つけた…
夢中で助けたはいいけど、
どないしよう…って思った矢先思いついたのが、
あの、彼女作戦…
彼女役、探してたなんて 嘘やった。
君を見て 思いついたんや。
今思えば、一目惚れ。
君の面影をたどって、たどり着いたこの街。
ここでもう一度会えたなら、伝えられる気がする…
あの日、浜辺で言えなかった、言葉を…
そんなことを思っていたら、ふと
聞きなじんだ声が耳にささった。
「…ヤりたいんでしょ、いいよ。」
見ると、何度もまぶたに浮かんだ顔
聞きたいと願った声
そして、その綺麗な笑顔を、別な男に向ける君がいた。
男が君の肩を抱いて
向かっているのは…ホテル…?
『その女離せやっ!!!』
夢中で叫んだ。
そんな俺を見る君の瞳が、
戸惑いを隠せず、揺れていたのを、
俺は見逃さない。
反射的に、俺は彼女を抱き上げて、
追いかけてくる男たちをしり目に、
車まで一目散に走り抜けた。
助手席に彼女を放り込み、思いっきりアクセルを踏む。
「忠…義…」
なんであんなとこにいたん?
なんでずっと連絡つかへんかったん?
あいつらとはどういう関係?
今…何を思ってんの…?
聞きたいことは山ほどあるけど、
ひとまずは逃げよう。
くだらない騒音が、聞こえなくなるところまで…
“君を探して 抱きしめよう
早く早く 追いかけて
恋をするなら
御堂筋から 始めたいよ
雅なる物語”