08 Door of hell .
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お医者さんにお礼を言って、
章ちゃんの病室に向かう。
部屋に入ると、穏やかな寝顔で横になる章ちゃん。
「…章、ちゃん…っ会いたかったぁ…」
思わず駆け寄るあたしの後から、
メンバーもベッドに近寄った。
章ちゃんは安らかに、
規則正しい寝息をたてていて、
みんなが胸をなでおろした。
横[ほんっま、心配掛けやがって…]
雛[ま、大事なくて何よりやけどな(笑)]
丸[目立った怪我もないしっ]
錦[憎たらしいくらい無事やん(笑)]
忠[…俺ら、もっと寝れたんちゃうん?(笑)]
昴[…あほ面…(笑)]
みんな一息ついて
すっかりいつものペース。
言われてるよ~、章ちゃん。(笑)
錦[…そういえばちい、大学は?]
「…あ(汗)」
それどこじゃなくて、忘れてた(苦笑)
雛[っほんまや(汗)
いきなり呼び出してもーたしな…
俺とヨコ、どーせ今日ラジオあるし、
亮もNEWSで東京やろ?
俺らだけでも先帰ろか。
他は悪いけど、交代で…]
昴[任せとけって!
俺らは一週間はこっちおれるし、
誰かしらヤスに付いとくようにしとくから!]
丸[目ぇ覚ましたら、
とりあえず連絡入れるわ!]
忠[それよりちい、頼むな?]
横[さすが(笑)
俺とヒナも、ラジオ終ったら
いったん戻ってくるわ!]
章大、幸せだね。
こんなにやさしくて頼りになるメンバーに囲まれて。
それでも、しばらく章大が目を覚ますことはなかった。
メンバーもさすがに大阪に留まっていられなくなって、
章大は東京の病院に搬送された。
お医者さんが言うには、
脳波は正常だから、
いつ目を覚ましてもおかしくないって、
あたしはなるべく、章大のそばにいたくて、
学校が始まる前、終わってから、
すぐに章大の病院に向かうのが日課になった。
こんなこと言うのは不謹慎だけど、
前よりも、章大のそばにいられるのがうれしくて、
サークルも忘れてひたすら家→学校→病院の往復の日々。
そんなある日、いつものように病院に行ったら、
章ちゃんの病室から、
サングラスをかけた女の人が出てきて、すれ違った。
章ちゃんのお友達かな?
なんて思って、会釈をする。
その人も愛想よくお辞儀をしてくれて、
「章ちゃんのお友達ですか?」
思わず声をかけてしまった。
妃《…ええ、まあ。》
妃マネ<妃愛!早くして頂戴!!>
妃《あ…ごめんなさい、また(笑)》
そういって、小走りで去って行った。
妃…愛…?
これが、あたしと妃愛さんの最初の出会いだった。
それから、妃愛さんは、
一週間に2回くらいのペースで、
章大の病室に来るようになった。
らしいけど、お昼間に来ることが多いらしくて、
あたしはあまり会えないまま。
章大の元カノさん、
そしてきっと、今でも章大を好きな人…
そんな思いが、妙に胸をざわつかせる。
なんて考えながら、その日もいつものように
学校が終わって章大の病室に向かうと、
中から話し声が聞こえて、
ドアを開けるのをためらった。
だめってわかってるけど、
聞き覚えのあるその声に、
思わず耳を澄ませてしまった…
妃《…章大……いい人だね。ちい、さん?だっけ。
ここにも、毎日来てくれてるんでしょう?
メンバーからも好かれてるみたいだし、
…
…でもね、だめ…っ
あたし、やっぱりどうしても、
章大が…好き…
大好きなの…っ(泣)》
ーズキン…
泣いて、る?
妃愛さん、本当に章大が好きなんだ…
どうしよう…あたし…っ
妃《…だから、
あきらめるね…》
…え?
妃《章大のこと、本当に大切なの。
だから、章大が本当に好きな人と、
幸せになってくれたら…
それが、あたしの幸せだから…っ》
…っ妃愛さん…っ
勝手に、涙が出てきた。
なんて、強い人だろう…
奪おうとするよりもずっと苦しくて、
辛い選択を、笑顔で受け入れて、
それでも、好きな人の幸せを願えるなんて…
あたしに、同じことができるかな…っ
妃《…幸せになってね、
それから、ちいさん、幸せにしてあげてね?
…大好きだよ…っ》
そう言って、しばらくは
ただ鼻をすする音だけが聞こえてた。
あたしは、その場から動くこともできずに、
ただ座り込んで、
同じように涙を流してた。
…ううん。
同じようになんておこがましい。
あたしの涙は、ただの独りよがり。
妃愛さんの綺麗な涙になんて及ばない、
エゴの塊…。
妃《…そろそろ、行くね?
マネージャー待たせてるからさ…》
妃愛さんのその声にハッとして、
あたしは咄嗟に、妃愛さんに気付かれないように、
近くにあった物置の裏っかわに身を隠した。
程なくして妃愛さんが出てきて、
廊下の奥へと消えていった。
しばらく妃愛さんが行った方向を見つめていた。
あたしと妃愛さんは、
きっと同じ。
章大がすごく大事な気持ちを共有してるから、
こんなに心が痛いのかな…
その日はなんとなく病室に入りづらくて、
病院を出て、広場のベンチに腰を下ろした。
しばらくボーっとして、
「…帰ろう。」
立ち上がった時、
ーっドン!!
「っきゃ!(汗)」
誰かが全速力で走ってきて激突された。
錦[ぅ、わ、すいません!!
…って、ちい?!?!ちょーどよかった!!]
よく見るとそれは亮ちゃんで、
すごく慌ててる。
「り、亮ちゃん?
どーしたの?あわてて…(汗)」
錦[っヤスが目ぇ覚ましたって!!!!!]
その言葉に、一瞬頭が真っ白になった。
「…う、そ…っ」
錦[今村上くんから聞いた!!
ちい迎えに行こうと思ってたとこや!!
ほら、行くで!!]
そういって、ぐいぐいあたしの腕を引っ張って
章大の病室に走る亮ちゃん。
さっきの妃愛さんのことを頭の片隅で考えながら、
あたしも無我夢中で走った。
病室の前に着くと、中から聞こえる話し声。
錦[…開けるで?]
[………っ]コクッ
頷くと、亮ちゃんがゆっくりと扉を開く。
『あっはは、丸っすばるくんっ
それ最高や~っ(笑)』
そう言って、丸ちゃんとすばちゃんの一発ギャグに
大笑いする章ちゃんの姿。
「章、ちゃん…っ」
あたしは無意識に涙があふれて、
気づけば章ちゃんの胸に飛び込んでいた。
『…お?』
雛[お姫様の登場か(笑)]
横[あ、俺ら邪魔?w]
「…章ちゃん、よかったぁ…っ(泣)」
丸[ほんまさっき目ぇ覚ましたとこやねん!
心配してた記憶障害やけど、
事故に逢ったらへんのことは
なんか曖昧っぽいけど、
俺らのことも自分のことも覚えとるし、
生活する分には大丈夫そうやねっ]
昴[記憶障害どころか、
こいつ自分がなんで今病院おるかもわからんくらい
元気やからな(笑)]
忠[ちいちゃん来て、さらに元気なったんちゃう?(笑)]
錦[おーいヤス~っ
俺も来たこと忘れんなよっ(笑)]
「よかったっ章大ぁ!
心配したよ~っ(泣)」
『…お、おぉ(汗)』
…あれ?
なんかいつものテンションと違う…?
雛[…なんやヤス、俺らの前やからって遠慮してんのか?]
忠[いっつも楽屋であんなけ見せつけといて
遠慮もなんもないやろ!(笑)]
横[もー思う存分いちゃついてくれて結構ですよ~]
『…え、てか、ごめん…
君、誰やっけ?』
…え?
その瞬間、世界の時間が止まったのかと思った。
錦[…う、そやろ?ヤス…
っよぉ見ろや!ちいやぞ?!?!
なぁヤス!!]
『…え、おん、なん、亮の彼女さん?(苦笑)』
昴[…ぉい、冗談きついぞヤス…]
丸[まさか、ちいちゃんのこと…っ(汗)]
「…うそ………っ」
錦[っちい!!!]
あたしはわけが分からなくなって病室を飛び出した。
章大が…あたしを忘れてる…?
その現実を受け止めるには、
あたしはまだ気持ちの整理がついてなかったんだ…
しばらく走って、目前のソファにへたり込むと、
涙が雨のようにあふれて止まらなくなった。
錦[…ちい……]
突然、後ろからふわっと包み込むように感じた体温。
「…りょ、ちゃん……っ」
錦[大丈夫やから。
今はまだ、ヤスも混乱してるけど、
絶対覚えてるから。
な?…泣くな…
とりあえず、病室戻ろ。
お医者さん、来てくれるから。]
優しく諭すようにそう言って、
あたしの背中で規則正しいリズムを刻む亮ちゃん。
亮ちゃんの優しさにすがるように、
あたしも亮ちゃんの背中に腕をまわして、
きつく抱きしめた。
それから、亮ちゃんに手をひかれて、
章大の病室に向かう。
これが、本当の地獄の入り口…