15 Again someday .
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面会時間ぎりぎりに行ったあの夜以来、
あたしは章大の病室に行ってない。
メンバーからは、日々章大の様子が写メ付きで送られてくるから、
元気でやってることは知ってるけど。
数週間後、
退院したと、満面の笑みで花束を抱える、
章大の写メが送られてきた。
「…おめでとう。」
そう、一人携帯につぶやいて、
やりかけていたレポートに目を戻す。
あたしはあれから、
章大と出会う前の自分を取り戻すのに必死だった。
ただの大学生としての自分。
テレビの中のアイドルに騒ぐ
ただの女の子としての自分。
愛する人のいない、さみしい自分。
思えば章大とのことは、
本当にいくつもの偶然の結果だった。
あの日あの時
あの場所で、
たまたまチンピラに絡まれていたあたしを助けたのが章大。
自分だって怖かったくせに必死に涼しい顔して、
あたしのこと助けてくれた。
まさかアイドルだなんて知らなくて、
気づけばあなたに恋してて、
それからは、何気ないことが幸せな、
本当に幸せな日々だった。
章大がアイドルだってこと忘れるくらい、
あたしたちは普通のカップルだったから。
それでよかったし、
それがよかった。
運命の歯車は、どこでねじを落としたんだろう…
そんなことを考えてたら、レポートが進むわけもなく、
ふと手元に目を落とせば、
数十分前と変わらない
真っ白のレポート用紙にげんなりしながら
課題に集中する。
そんな日々。
ありきたりな日々、
ただ少し前と違うのは、
そんな些細なことを笑いあえる
愛しいあなたがいないだけ。
ープルルルル…プルルルル…
閑散とした部屋に、久々に響く着信音。
ー…ッピ。
どうせ、待ってみても切れないのはわかってるから、
早めに通話ボタンを押した。
「もしもし?」
雛[…ちいか?
お前、ちょっとは連絡よこせや!!(怒)]
開口一番怒鳴るって…
「…今忙しいんだけど?」
雛[あー、そや、お前にちょっと話しときたいことあんねん…]
「…そんなことより、怒らないの?」
そう、あの時最後まで逃げたあたしを…
雛[…怒るかいな。
むしろ、謝らなあかんな。
すまんかった、追い詰めたやろ?]
そう言ったヒナちゃんの声は、
今までのなにより、優しかったよ。
「…謝らないで。
それより、話って?」
ヒナちゃんに謝られるのは辛かった。
ヒナちゃんもあたしのためを思って
言ってくれていたのは痛いほどわかっていたから。
少し不自然だったけど、
あたしから切り出した話を強引に終わらせた。
雛[…そや、できれば会って話したいんやけど…
今から出てこれる?]
「急だね(笑)」
雛[今赤坂やねん!タクシー代は出すから!!]
「…晩御飯もおごってね(笑)」
雛[しゃーないな(笑)
じゃあ6時に!]
「はいはい(笑)」
ーッピ。
ヒナちゃんと会うの、久々だな…
怒らずに、謝ってくれたヒナちゃん。
きっと亮ちゃんが話してくれたんだ…
本当に、いろんな人に支えられてるって実感する。
赤坂に着いて、ヒナちゃんと連絡すると、
お店のURLの入ったメールが送られてきて、
地図に従ってたどり着いた
ちょっと高そうな個室の居酒屋に入る。
席に着くと、ヒナちゃんはマスターと顔なじみらしく、
親しそうな会話をしながら何品か料理を頼んで
少し話して落ち着いた頃
雛[本題なんやけど、
ヤスな、記憶が戻りかけてるかもしれん。]
「…っ?!」
思いがけない言葉に、食べてた唐揚げを吹きそうになる。
雛[…おまえ、汚い。
口ふけ。(呆)]
「ちょ、ひど…っ(汗)」
雛[嘘や。(笑)
や、それがなぁ、
ちいがあんなにゆーから思て、
俺らも頑張って
妃愛のこと受け入れようとしとったんや。
で、おととい、かな?
ヤスに、“最近妃愛とどうなん?”きいたらさ、
なんやえらい言葉濁すから、
その晩二人で飯誘って
酒飲ましてもっかい聞いたんや。
そしたら…]
「…なに…?(汗)」
雛[…
“妃愛のことは彼女やって一生懸命思ってるけど、
ってか事実彼女なんやけど、
亮の彼女のちいちゃんのことが頭から離れへん。
俺、いろんな人裏切ってる”って
あいつ、泣きよってん。]
「…っ」
章大…っ
雛[…ちい、
あいつ、やっぱりお前のこと忘れてない。
記憶にはなくても、
心が、お前を求めてんねん…]
言葉にならない…っ
でも…っ
「…ばっかみたい…」
雛[は?(汗)]
ごめん、ヒナちゃん…
「今さら、遅いよ…」
それだけ言い残して、あたしは個室を飛び出した。
追いかけてくるヒナちゃんをまいて、
路地裏にしゃがみ込み、電話を掛ける。
相手は…
「…今から赤坂に来て。」
ー1時間後ー
錦[…で?ええの?
ヤスじゃなくて、俺とこんなとこおって?]
そう、あたしは今、亮ちゃんとホテルにいる。
錦[…聞いたで?
ヤスの記憶、戻りかけてるみたいやん。]
「…いいんだよ。
あたしも、全部忘れたい。
…もう、辛いの…っ」
錦[やったらなおさらっ]
「章大はっ…優しいんだよ…?
あたしなんかに、気ぃ遣ってさ…」
錦[…っそんなん、]
「っだめなの…!」
錦[…は?]
「…だめなの。
このまま、あたしが章大のこと大好きなままじゃ、
章大、妃愛さんのとこに行けなくなっちゃう…っ
妃愛さんと幸せになってほしいのっ
章大の足枷になんか、
絶対、なりたくない…っ(泣)」
錦[…それでええんか?]
「…もともと、住む世界が違ったんだよ。
あんなのでも、章大はみんなのアイドルだもん。
あたしばっかり、ずるい…
…
章大とのことは、全部が夢みたいだった。
…夢みたいな、人だから、
夢みたいに、終わりが来るの…
大丈夫、もとの平凡なあたしに戻るだけだよ(笑)」
そう、夢なの。
夢なはず…
夢、なのに…
どうしてこんなに、心が痛いんだろう…っ
章大には妃愛さんが似合ってる。
錦[…で?
俺にそのお供をしろと?]
「…ごめん。」
錦[ま、俺からしたら
ラッキーやけどな(笑)]
「そういうと思った(笑)
…亮ちゃんも、優しいもんね…」
錦[…あ?]
「亮ちゃんも、…亮ちゃんは、優しいけど、
あたしに夢中になったりはしないでしょ?」
錦[…まあな。]
「…だから、ここにいるの。」
ごめんね亮ちゃん、あたし、最悪なことしてる。
錦[…ほんまに抱くで。]
亮ちゃんの息がかかる…
「いいの」
錦[抱いたらっ
もう、ヤスには返されへん。]
「…いいの。
……めちゃくちゃにして、
あなたに、溺れさせて?」
錦[っは、言うやん…。(妖笑)
…
約束したもんな、支えたるって…
ええよ。
お望み通り、忘れさしたる、俺が全部。
俺で、お前ん中埋めたるよ…]
「…亮ちゃ、」
錦[喋んな。]
そういったあたしの唇は、
亮ちゃんの優しいキスで止められる。
ああ、さよなら、章大。
亮ちゃんを巻き込んだこと、
メンバーのみんなは怒るかな。
いっそ、嫌われた方が楽かもしれない。
みんなの優しさは、時々胸が苦しくなるから。
少し乱暴にベッドに寝かされて、
あたしの体のいたるところに、
愛おしそうにキスをする亮ちゃん。
優しいこの人を巻き込んでしまう罪悪感と、
少しの恐怖に体が震えた。
あたしの動揺を察して、動きを止める亮ちゃん。
錦[なんや、自分から誘ったくせに
びびってんの?(妖笑)]
「っな、そんなこと…っ(汗)」
図星だった。
優しい亮ちゃんが、
頭を撫でてくれた亮ちゃんが、
抱きしめてくれた亮ちゃんが、
急に、あたしの知らない顔になる
…どうしてあたしは今、泣いてるんだろう…
錦[……やめるか?]
いじわるな顔の下に優しさを潜ませて、
亮ちゃんが不安げにあたしの顔を覗く
「…やめ、ないで……っ」
そう呟くので精いっぱいだった。
あたしの気持ちを察してか、
亮ちゃんは行為を続けた。
服を脱がされ、下着姿のあたしの体に、
無数のキスの雨が降る
唇が、首筋から鎖骨に下りていく
こんな時まで、思い出すのは章ちゃんの肌
ああ、あたしって本当に最低なんだな。
目を閉じていると突然、
あたしを包んでいたぬくもりが離れた
「…っ?!」
びっくりして体を起こすと、
再びぬくもりに包まれた。
さっきよりも少しぬるいと感じたのは、
あたしたちの肌と肌の間に、一枚の毛布が挟まっていたから。
錦[……ゆーたやろ?
無理すんなって。]
そんな優しい声が、耳の後ろから響いてくる。
我慢していた涙が、溢れだして止まらない。
「っりょう…ちゃ……っ(泣)」
錦[からだ、震えすぎ(笑)]
そういって、あたしの背中で
聞き覚えのある優しいリズムを刻む。
錦[…ごめんな、わかってたのに。
お前ん中からヤスを消すことなんてできんって…
わかってたのに、
お前の顔見てたら、理性とんでもーた(笑)]
そういった亮ちゃんの声が
少し震えているように聞こえるのは、
きっと気のせいじゃない
錦[でも、俺の下で震えるお前の体を、
無理やり開くなんて
俺にはやっぱ無理やっ(笑)
ごめんなあ、へたれで。]
そういって照れたように笑うこの優しい人を、
あたしは生涯消えることのない罪で
傷つけてしまうところだったと思うと、
また、さっきとは違う涙がほほを伝った。
錦[ちい、間違うな。
俺はいつでもお前のそばにおる。
でも、それはお前が、いつでもヤスのそばにおるからや。
お前は、いつでもヤスのそばにおるべきやねん。
もう少しなんやろ?
…がんばれ。]
あたしをしっかり抱きしめながら、
丁寧に言葉を伝えてくれる。
こんなにも大きな愛情に、
どうして今まで気づくことができなかったんだろう。
この人も、妃愛さんと同じだ。
自分の願いよりも、人の願いを優先させてしまう。
優しくて、繊細で、
とても綺麗な人。
「……ありがとう。」
それしか言えなかった。
あまりにも大きなその想いに、
あたしは応えることができない。
いえ、答えることを求めもしない
途方もない愛だったから
しばらくあたしを抱きしめてくれていたその腕も、
あたしが落ち着けばすぐに解いてしまう。
あたしたちは一緒にホテルをでて、
亮ちゃんは車であたしの家まで送ってくれた。
ごめんね、亮ちゃん、章ちゃん、ヒナちゃん、みんな…
それから、妃愛さん…
その夜を境に、
あたしは住所も携帯も変えて、
完全に、章大とそれにまつわる人たちとのかかわりを切った。
平凡なあたしに、
夢を見せてくれてありがとう。
あなたたちと過ごした時間は、
本当に楽しくて、幸せだった。
こんな形で、あなたたちの前から姿を消したあたしを、
許してほしいなんて思わないけど、
もし、いつかまた会えたなら、
その時は、
そんなこともあったねって、
笑って話せるといいな。
きっと、
同じ未来を夢に見たあたしたちだから、
…会えるよね、いつかまた。