12 Feeling of Hime .
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妃《彼女だよ。》
とっさに、嘘をついた。
章大に、“俺のなんなん?”って聞かれて、
チャンスだって、思った。
最低なことしてるってわかってる。
正直、章大の新しい彼女が、
ヤな女だったりしたら、
奪ってやろうって思ってた。
ちいさんと、初めてすれ違った時のこと、
今でも鮮明に覚えてる。
顔も知らなかったけど、会った瞬間、
“ああ、この人か。”
って思った。
同時に、
“敵わない。”
事も悟った。
だって、
「章ちゃんのお友達ですか?」
そう、声をかけてくれた彼女の笑顔が、
あまりにも真っ白で、あまりにも、まぶしかったから。
章大の病室に行くたび、新しくなってる花や、
ほこりひとつない部屋が、
彼女が毎日のように足を運んでることを物語っていたし、
メンバーの態度を見ても、
みんなから大事にされてることがよく伝わった。
だから、ちいさんだから、
あきらめられると思った。
この人になら、託せると思った。
すれ違ったまま傷つけてしまった章大を。
好きだから、
今でも、大好きだから、
章大には絶対、幸せになってほしかった。
その思いは、絶対に嘘じゃないのに…
章大の記憶が錯乱してることを知って、
最後のチャンスだと思ったから、
どうせもうすぐしたらまた、
章大はちいさんの元に戻ってしまうでしょう?
…だったら、って、
最後の思い出に、嫌われるの覚悟で、
あんなひどい嘘をついた。
嘘でも、章大に愛されたくて…っ
案の定、メンバーのみんなすごく怒ってて、
渋谷さんに殴られそうになった時、
ちいさんがあたしをかばった。
あの時は、目の前の光景が信じられなくて、
だって、あたしは真っ先にちいさんに
怒られると思ったから…
でも、ちいさんは、
泣きながらただ意味のない謝罪を繰り返す私を、
心配そうな目で見つめて、
二人で話がしたい
と言ってくれた。
「ごめんなさい、すばちゃんが乱暴なことして…」
そういって、まるで自分の傷のように、
渋谷さんに壁に叩きつけられたときにできた
あたしの右肩のあざに手を伸ばした。
その手があまりにも優しくて、暖かくて、
涙が止まらなかった。
しばらく、涙を流して、ちいさんの方を振り向くと、
「…妃愛さん、
章大とお付き合いされてた…んですよね?」
いきなり核心的なことを言われて、思わず目を見張った。
ごまかすことなんてできなくて、
静かにうなずくと、
「話したくなかったら、無理にとは言わないんですけど、
…お二人のこと、聞いてもいいですか…?(汗)」
こんなあたしに丁寧にそう聞いてくれて、
でもあたしは、どうして
ちいさんが怒らないのか不思議で、聞いてみた。
すると、
「…過去に何があったかはわからないですけど、
今の妃愛さんの気持ち、あたし痛いくらいわかるんですもん…っ
頭ごなしに否定なんてできません…っ(苦笑)」
そういって、本当に苦しそうに、
笑った。
その笑顔は、やっぱりあたしにはまぶしくて、
あたしは、章大とのことをすべて話した。
話してる途中、何度もちいさんは
泣きそうな顔になったけど、
止めることはしなかった。
話し終わった後、
ちいさんの顔が見れなくてうつむくと、
「…辛、かったよね…っ(泣)」
そんな絞り出すような言葉の後に、
静かに涙が落ちる音がした。
中途半端なあたしに、
嘘つきなあたしに、
章大を手に入れようとしたきたないあたしに、
怒るでも、なじるでもなく、
共感して、泣いてくれたのは、
彼女だけだった。
ああ、これで本当に最後。
そう、覚悟を決めた時、
「…章大を、よろしくお願いします…」
そう言って深々と頭を下げられた。
瞬間、目の前の出来事が理解できなかった。
そしてちいさんに告げられたのは、
悲しすぎる現実と、
あたしが犯してしまった罪の重さと、取り返しのつかなさ。
あたしは茫然とした。
でも、ちいさんはどこかすがすがしい顔をして、
目に涙をいっぱい溜めながら、
「…章大の幸せが、あたしの、幸せ…だから…っ(泣)」
そう言って、作り笑顔をあたしにむけた。
その瞬間、鈍いあたしはようやく悟った。
芸能人だとか、一般人だとか、
年とか立場とか関係なく、
あたしたちが、同じように、
安田章大という一人の人を好きになって、
恋をした。
おんなじ気持ちを共有した、
…仲間だったってこと。
エントランスに向かうちいちゃんの
背中に向かって呼びかけると、
まだ少女の彼女は、
「妃愛さん。そんな顔しないで?(笑)
大丈夫。一度は愛し合った二人だもん。
妃愛さんなら、章大を幸せにできる!」
そう言って、精一杯の笑顔を向けてくれた。
なにも、言えなかった。
謝るのは、卑怯だと思ったから。
あたしはしばらく、誰もいなくなった病院のロビーで、
一人呆然とたたずんでいた。
涙は、もう流さない。