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丞体調不良まとめ

「至くん、車出せる?今」
「どうしたの?なんかあった?」
「丞がね、体調悪いみたいで、」
「え」
「大学の仲間から連絡があって、居酒屋にいるみたいなんだけど、、、」
「駅前のどこ?……すぐ行く。」

突然の紬からの電話。居酒屋の名前を聞いた俺は、すぐに車を走らせた。

最近疲れているみたいなことは言っていたけど、そんな、迎えを呼ぶほど具合が悪くなるなんて。昨日の夜、「疲れた」をずっと繰り返していたのは俺のほうなのに。丞のほうがずっと疲れてたのか。なんで、だったらそう、言えよ。もっと甘えてくれればいいのに。
今夜、演劇の仲間と飲みに行く話を聞いた時、止めればよかったのだろうか。
行ってらっしゃい、なんて言ってはいけなかったのだろうか。

気が動転しているらしい。心配、不安、行き場のない気持ちで苛立って、しても仕方のない後悔をして。赤信号に引っ掛かってため息を零す自分の無力さに、奥歯を噛み締めた。

「失礼します」
たどり着いた居酒屋の、奥の個室。一番手前に座っている彼が、紬に連絡してくれた人らしい。
「あ、こっちです」
案内されたのは、「厠」と書かれた厨房脇のドアだった。
中に入ると、ちょうど個室から丞が出てきた。
「ちがさき、」
俺を見つけて見開かれたその目は、とろりと潤んでいるように見える。
「大丈夫?」
軽く口をゆすいだ彼は、手の甲で口元を拭った。
「悪い、ありがとな、」
少しかすれた声に覇気はなく、吐いたのか吐かなかったのかはわからないにしても、気分はまだ優れないようだった。

まとめてくれていたらしい丞の荷物を受け取って、二人で店を出る。俺の少し後ろをついてくる彼を気にかけながら車に向かう。
「前と後ろどっちがいい?」
「…前でいいか」
「いいよ、ほら、乗って」
丞が座ったのを確認して、俺は運転席側に回る。シートベルトを締めて、エンジンをかける前。丞の首筋にぴとりと手を当ててみる。
「熱ある?んー、ちょっと熱いね」
「…悪かった」
「いいよ、ほら、着くまで寝てていいから。」
「ん、」
「気持ち悪くなったりしたらすぐ言って。」
「ああ、」
太ももの上にだらりと置かれた、いつもより少し熱い手を優しく握ると、意外にも遠慮がちに握り返してきた。ひんやりとしたものを探しているだけなのかもしれない。それでも、俺にはその手が「信頼」や「甘え」を表しているんじゃないか、そう感じられてなんだか嬉しくなった。
丞はもう寝てしまったみたいだ。惜しい気持ちもあるけれど、弱く繋がれていた手を、ぽんぽんと軽く叩いてからするりとほどいて、発進の合図を出した。
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