万里くんまとめ
「……はよーっす」
遅めに起きたらしい万里が談話室に現れた。
朝食はどうするかと尋ねれば、少し考えてから、いらない、と言われた。元々、朝食をちゃんと食べたがるタイプでもないし、寝起きでお腹が減っていないだけだろうと、そんなに気には留めなかった。冷蔵庫の食品を整理していたというのもあって、あまり顔もちゃんと見ていなかったかもしれない。
しかし、10分ほどかかってキッチンの片付けを済ませてから戻った談話室で、万里は食卓に突っ伏していた。もぞもぞと足が動いているのを見る限り、寝ているというわけでもなさそうに思われる。ミルクティー色の髪の間からちらりと見える耳は赤みを帯びていた。
「万里?」
「ん」
俺の声に反応して怠そうに体を起こす。ゆっくりとこちらに向けられた碧い瞳はいつもより水分を多く含んでいるようで、そして頬は赤く上気している。
熱があることは触れずとも明らかだった。
嫌がられるかもしれないと思いつつも確認のため首筋に触れようと伸ばした手は思いの外すんなりと受け入れられ、そして彼の体がしっかり熱を持っていることを教えてくれた。
万里はとろんとした目でこちらを見つめて黙ったまま。決して無口なほうではない万里がここまで何も言わないとは、思ったよりも事態は深刻かもしれない。
「部屋戻って寝たほうが楽じゃないか?」
すると万里は首を小さく横に振った。体はすでに十分辛いだろうに、部屋には戻りたくないらしい。普段通り賑やかなここではあまりゆっくりできないと思うのだが。そうは思ったものの、起きたときからきっと体調が良くなかったであろう万里が、朝食を食べるわけでもなく談話室に来たことを考えると、無理矢理部屋に戻すのは可哀想に思えた。
「じゃあ毛布持ってきてやるから。ソファーに移動しよう。」
そう言って頭を撫でた手も、拒まれることはなかった。
持ってきた毛布を肩にかけてやり、ここに来る前よりもフラフラとしてしまっている体を支えてソファーに座らせる。少しの移動にも関わらずかなり体力を消耗してしまったようで、腰を下ろすと同時に背もたれにぐったりと体を預けた。
この頃にはさすがに周りのの団員たちも万里の異変に気付いていたようで、盛り上がっていた会話もやめ、皆して彼の真っ赤な顔を心配そうに見ていた。
大丈夫?と聞かれれば、ふわふわとした口調で小さく、だいじょばない、とそう言った。
あまり弱みを見せたがらない万里が言ったその言葉。
それほど具合が悪いということかと心配するのが半分、素直にそう言えるほど俺たちを頼ってくれるようになったのかと嬉しくなるのがもう半分。
………団員たちの母性に火がついた。
ソファーに寝転ぶように促され、額に手を当てられ、冷えピタを貼られ、ソファーで本当にいいのかと心配され…いつになく構い倒されている万里だが、その顔はどことなく嬉しそうに緩んでいた。
「おやすみ」
その声は届かなかっただろう。いつの間にか限界を迎えたらしい彼の薄く開かれた口から聞こえる穏やかな寝息を聞いて、皆優しく微笑んだ。