その1
新しいものは下に増えます。
名前変換が無いものもあります。
・カイマンと同僚の男
店の裏で休憩中、カイマンが聞いた。
「足の小指をぶつけやすくなる魔法……って、正直どうなんだ?」
■■■は肩を竦めて言う。
「まあ役には立たないよね。逆に活用法が思いつくモンなら教えてくれって感じ。つか何か無い?」
「無茶振りすんな、思いつかねェよ。」
「だろうね……あー、でも使えないこともない。」
その言葉を聞いたカイマンは意外そうな顔をした。
「へェ。例えば?」
「ムカついた時に素知らぬ顔で痛い目に遭わせられる。」
「イヤ、それどうなんだ……。」
二人がそのような無駄話をしていると、通りを挟んで向かい側の道を歩いていた男が、くわえていた煙草を落として足でもみ消していた。
それを見て微妙に眉を寄せた■■■が僅かに指先を動かす。
男が角を曲がり路地裏に消えてから少しして、金属製のゴミ箱にでも引っかかったのか、けたたましい騒音が聞こえてきた。
男がそのような事態に陥った理由に思い当たる節しかないカイマンが、頭を掻いてから問う。
「あー、ちなみにアレは?」
「ポイ捨て反対。街を綺麗にしよう。」
1ミリも悪びれる様子の無い■■■が、ポスターの標語かと突っ込みたくなるような台詞を口にした。先程の騒音の原因は言わずもがな■■■の魔法である。
「あーあ、怖そーな奴だったぜ。オレ、知らねーッと。」
「何かあったら助けてくれるでしょ。」
「飯奢ってくれたらな。」
「えー。オレは不届き者を懲らしめてンだよ?さ、休憩終わり。」
「そうじゃねェと思うンだよなァ……。」
・心先輩(負傷)と何でも笑い飛ばす魔法使いの男
※微妙に怪我の描写を含んでいます。
ああ全く今日はツイてねェなあ。
とぼやいてしまう程には心の怪我は酷かった。
今日は偶然能井とは別の仕事で。
あと、体調が微妙に思わしくなくて。
そんで、敵の数が聞いてた話より多かった。
おまけに、ちょっと面倒くさい魔法を使うヤツもいた。
心は普段から大怪我をしても大して顔に出さないタイプの男であるが、殲滅したアジトから少し離れた場所に停めてある自身の車まで戻る足取りは重く、よろよろと歩いている。だらだらと流れる血と冷や汗のせいで体が寒い気がしながらも、ぜいぜいと乾いた喉から溢れ出す息は熱い。
こっから屋敷までどーにかして帰らなければならないが、持つかね、コレ。
割れるように痛む頭で他人事のようにそんなことを考えた心は、ぐらりと視界が揺れ思わず倒れそうになったので路地の壁に寄りかかった。瞬間景色がぼやけて見えたので、マジでヤバいか、とため息をつく。
「あら、どうしたよその怪我ぁ。」
聞き覚えの無い声を耳にしてすぐさま視線を真正面に向けた。服のポケットに両手を突っ込んだ見知らぬ男が怪訝そうな顔をして立っている。何だコイツ?と心が血で滑り落ちそうな金槌を改めて握りなおす間に無用心に近寄ってきた男はじろじろと心を眺めてこう言った。
「なぁんだ、大したことねェな!」
イヤ本当何なんだコイツ。
今の心は誰がどう見たって重症であった。事実、怪しい奴は問答無用で殴り倒すように動くはずの体がまだ攻撃態勢に入れていない時点でだいぶ心は参っている。
それなのにこの男はさも面白おかしそうに心の姿を見て笑っている。しかも初対面なのに。
クソ、今は虫の居所が悪いッてのに、コイツ。
当然の如くカチンときたらしい心が、一発かましてやろうと足を一歩踏み出して、気付いた。
「……あ?」
さっきまでどうにか動かすのがやっとだった体が軽い。
打撃をくらった腹部の鈍痛や、体のあちらこちらについた切り傷の痛みが無い。
それどころか表皮を血が伝う不快な感覚すら覚えず。
心は先程の戦いで付けられた切り傷があるはずの右腕を、スーツの袖をたくし上げて確認した。
……無い。
確かにあったはずの傷が、綺麗さっぱり無くなっている。
「だから言ったろー?
にんまりと笑う男に、心は唖然とした。
「じゃーな。気を付けて帰りなよ、いかしたマスクのオニーサン。」
踵を返して立ち去ろうとする男の腕を思わず掴んだ心は、自分でも何をやっているのか分からなかったが、ほとんど反射的に体が動いていたので今更どうしようもない。
「おん?」
「あ、ちょ、ちょっと待てって……。」
頭では能井と同じような魔法を使う男なんだろうかと予想していたが、いかんせんあまりにもお人好しが過ぎる事に動揺して言葉がわやわやになる。
誰が見ず知らずの相手の怪我を治すなんて考える?
「なーに?オレったらこんなんだから友達にならねぇ方がいいと思うよ。」
「は?イヤ、そうじゃなくてな……。」
男の話が飛躍しすぎてますます混乱する心は頭を抱えた。何やってんだ、オレ……。
「んあー、何か話する?ジュース奢るよ、オニーサン。」
ちょいちょいと男が指差す先に、自動販売機(こんな路地裏に設置してもあまり儲けは出なさそうだが)があったので、もうなんか色々どうでもよくなったらしい心は、ため息をついて同意した。
「…………そうする。」
「友達になるな、ってのは。」
「オレ、ああやって笑ってやらねえと魔法が効かねぇんだ。程度を軽くする?みたいな魔法なんだケド。だから友達いねーのよ。皆怒っちまう。」
「ナルホド。面倒くさい魔法だナ。」
「ところでオニーサンは何でそんな美丈夫なのに、あんなボロッボロだったの。」
「あー、ノーコメントで。」
・ハイパー静電気男と藤田君
さて。
静電気で痛い思いをする、なんてことはそれなりによくあることだと思う。冬とか、乾燥する時期は特に。あと、ラップがくっついて取れない、とか。開けたスナック菓子の袋の切れ端が指先にくっついて取れない、とか。破けたビーズクッションからこぼれた中身が手にくっついてめちゃくちゃ取れない……のは、ついこの前恵比寿がやらかした。おかげで部屋が大変な事になった。オレの部屋なのに……。それはさておき、痛いタイプの静電気は発生してもほんの一瞬で終わるから、何かに役立てるのはムリだ。
えーと。今、目の前で発電してるコイツを除いて。
髪の毛がまあまあ長いから、魔法を使う度に怒髪天(物理)になるのはちょっと目立つし嫌なんだよナ、って藤田に話したら髪切れば?って言われたけど、そしたら藤田とかぶるじゃん。え?心サンも髪短いけど、イケメンすぎてかぶるとかそもそもそういう対象じゃねえデス。
ぴりぴりと体中の産毛が逆立つ感覚は毎回ぞわっとする。腹というか、胃が浮く感じ?視界の端で閃光が瞬いたら準備完了、発電機のケーブルを適当に引っ掴んで。
「あ、点いた。」
ドアから部屋の外を覗く藤田が、一瞬で普段通りの明るさを取り戻した廊下を見て、そのように報告した。
「点いたぞ。煙サンのとこに戻……」
「なあ藤田、ちょっと頼み事。」
「え?」
「発電機のケーブルどれか分からんかったから適当に引っこ抜いたからさ、オレ手離したらたぶんまた電気消えるわ。」
「は?」
「誰か修理する人呼んできて。」
「は!?」
※知識無く発電機を触るのはやめようね!
※館の停電時の緊急用電源を魔法頼りにするのはやめようね!
・心先輩とある店のオーナー new
※オーナーの性別はお好きな方で。
薄暗い店内はどこもかしこも商品だらけだ。人一人通るのがやっとの通路の両側に目が追いつかないほど沢山の商品が所狭しと並べてある。取り扱い商品のジャンルなんてものは無いに等しくて、人形やら食器のフルセットやら置物やらオルゴールやら、仮に欲しいものがあったとしてこの中から探すのは骨が折れると思う。だって同じ括りで置いてないし。とりあえず空いてるスペースに新商品追加しました、みたいなノリで増やしやがるから不親切極まりない店だよ、ホント。
唯一の選定基準は『店主が気に入ったもの』ということだけ。
「キミ、こういう種類のインテリア置かないだろ?」
まあ、それは、ウン。趣味じゃないのは確か。
カウンターに作業道具を広げて、店内に誰もいないからオレを話し相手になんかやってるのがこの店唯一のオーナーだ。するりとしたロングストレートのブロンドに青空によく似た透けるような青い目は、店の外に出りゃ映えるのにナァ……。
「それにしちゃ良い物を選ぶ。」
「上司に頼まれてんだヨ。」
「今度営業にお伺いしようか?」
「色々面倒だから断る。」
「おや残念。ところでコイツも買わないか?この前仕入れたばっかりだぜ。」
綺麗だろ、とカウンターの上に置かれた、ガラスドームの中にガラス細工の花が入っているインテリアは、いつもの如く年代物らしい。この人の趣味はアンティーク収集。それを売るのが趣味かは、知らないケド。
顔が見たいから、わざわざ用もないのに暇を見つけては店に来てるなんて、頼まれてるのは嘘だなんて、
…………言える訳ねえよナァ……。