もういちど会えるとしたら
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ドラグーンが精霊の世界に戻って1年がたった。
あれからドラグーンからは何の音沙汰はなく、名無しは心配と絶望で胸がはちきれそうになっていた。
泣いちゃダメ、きっとドラグーンは私が知らない強敵と戦っているんだ。
どんなときだって彼は強い、ドラグーンは誰にも負けない。
「お願い、ドラグーン……帰ってきて……」
この言葉も何回呟いたかわからないほど焦燥しきっていた。
名無しの髪は傷み、肌はカサカサと荒れている。食事もろくにとれず、睡眠なんて忘れてしまった。なんとなく眠りに落ちた日は大抵ドラグーンが非道いことをされる夢をみる。
変わったことと言えばそれだけではなかった気もする。
空は青色のはずなのに、街路樹の花は淡いピンクだったはずなのに、なにも色を感じなくなった。
目に希望の光は宿らず、手にとれば砂のように隙間からそれは零れ落ちる。
もっとはやくドラグーンに気持ちを伝えたら、結末も、未来も違ったのだろうか。
今となってはもう遅い、もうきっとドラグーンは──。
目を伏せた。
──諦めないでよ! あなた、ドラグーンを幸せにするんでしょ!?
(あの日の……声……)
──こんなところで……こんなところで、ドラグーンの敗北なんて想像するんじゃないわよ! あなただから私は託したのに!
目の前にそのひとはいないはずなのに、涙を流して名無しに叱咤している。
(でも……私は……)
──あなたしかできないのに!
朦朧とする意識の中で、彼との印象的だったシーンが浮かんだ。
あれはお花見をしに、すこし遠くへ行った出来事だった。
風に飛ばされたのか、女の子の帽子が木に引っかかってしまっていた。よりにもよって大人でも届かないような高さの木に。
新しいの買ってあげるから、とお母さんが言ってもあれがいいのと女の子は泣いた。
私はどうしようと、ドラグーンに相談した。
ドラグーンはその時も表情を変えず、ただ一言
「風よ」
とだけ言って帽子を浮かした。
ポスっと女の子の頭に帽子が載る。女の子は嬉しそうに泣いて、ドラグーンを見た。
ドラグーンはその子を一瞥して、先の道を歩いてしまった。
優しい、胸がキュウッと締め付けられる。
「慣れないことをした」
「かっこよかったよ」
「……」
もしかして照れていたのかもしれない。
ぽつり、ぽつりと思い出が灯りだす。
初夏の重たい湿気で髪がうねって型が上手く作れない日には
「いつもと同じでいいか」
と聞いて魔法でうねりをなくしたり。
酷暑の日には二人で談笑しながらアイスを食べて
「夏の暑さは魔法ではどうにもできないな……」
と感情がないと言っていた本人が、困った表情をしていて。
秋にはコスモスが咲いていたのをふたりで見た。帰りにお土産屋さんに寄って、押し花されたコスモスの栞を買ってドラグーンにあげた。読書をよくするドラグーンだから、邪魔にはならないかなって。
「ありがとう、大切にする」
気付けなかっただけで、あの日ドラグーンははにかんでいたのかもしれない。
冬は暗いからと言って迎えにきてくれて、星空を眺めながら家路についた。お礼に温かい飲み物を作った。珍しくリクエストがあって、それはココアだった。
「甘い、癖になる」
体も心もドラグーンは温めてくれて、日増しに恋心は色付いて。
何にドラグーンが負けるの……?
ドラグーンも私も諦めないかぎり戦って、そして勝つんだ。
嘆いてばかり、憂いてばかり、悔やんでばかりで済んでたまるか。
私も戦うんだ!
キラキラと淡い燐光を帯びたドラグーンのカード。
指先に力をいれる。
「ドラグーンを助けるちからを!」
カツ、カツと石の床に靴音が静謐な空間に鳴り響く。
呼吸を乱せばすぐ自分の場所がわかりそうだ。
記憶の封印から解かれたときに全て思い出したのをきっかけに、この教団の真の目的にも気付いた。
(現世と精霊世界、そして神の領域を踏み躙るつもりだ)
ドラグーンの故郷は伝統を重んじ、そして真紅眼の黒龍を神と崇める民族だった。ドラグーンはその神に認められ、超魔導竜騎士としての称号を賜ったのだ。
町の中央に建てられた神の石碑には紅い宝石が埋まっている。その宝石こそ、血紅玉だったのだ。
あの宝石の伝説は手に入れた者の願いを叶えるというもの、だが伝説はまだ続きがある。精霊世界の片割れ、人間界に現れる同じ血紅玉の片割れを手に入れなければ、ただの魔力が強い石なのだ。
人々の口を割らすために嬲ったのだろう。大切な人々の命を奪った、憤りを超えた怒りは今にも冷静さを欠き、最適解を見失いそうになる。
幸いにも人間界の血紅玉は自分の手の中にある、悪いシナリオだが教団もおそらく精霊世界の血紅玉を持っている。
(私のなすべきことは)
血紅玉を奪い返し、こいつらの制圧だろう。
残存する敵を蹴散らし、広い場所に出た。
「やれやれ、こんなことになるとはね」
「私が言いたいことはわかるだろう、血紅玉を返せ」
司祭は鼻で嘲って、祭壇に置いていた紅い宝石に指をはせる。
「ふ……ふふふ、ふはは……はーっはっは!」
「何がおかしい」
「私はね、もう血紅玉の魔力をこの体に取り込んでいるんだよ! それが何かわかるか? お前の住んでいた村人全ての命が私に宿ってるわけだ」
「なるほど、お前を殺せば皆の命も死ぬことか」
「物分りが良くて助かるよ! 今や君の同胞だ」
「貴様など同胞と認めたくないな」
司祭は横の男に目配せる。乱暴に開けられたドアから、名無しが出てきた。
「ドラグーン!」
「名無し!? なぜここに!?」
「生贄として丁度良かったのでな」
現れた数多の敵がドラグーンを囲む。司祭は名無しの首に腕を巻きつけた。呼吸ができなくて苦しそうに眉を顰める。
「く……」
「贄の女よ、言いたいことはわかるだろう。さぁ、言うんだ、『我等に新しき救いと世界を』と」
「た……か……たまるか、あなたの指示には従ってたまるか……!」
司祭らしからぬ憎々しげな表情を浮かべる。
「狼藉者ドラグーンを殺せ! 女を聖火に焼 べろ!」
剣圧で周りを一蹴したが、間に合うかわからない。
「名無しっ……!」
「ドラグーン! 受け取って!」
何か投げられたものを手に取る。
「これは……祭壇にあった精霊側の血紅玉……!」
「貴方の願いを言って!」
「こ……の……人間風情がぁあ!」
ワナワナと震えた司祭は階段から名無しを突き落とした。
受け身がとれない。
ケガどころではすまない。
ドラグーンでは距離的に拾えない。
痛くない?
黒いドラゴンの背に乗っていた。このドラゴンは──!
「レッドアイズ……!」
「なにっ!?」
真紅眼の黒龍は優しげな眼差しで、名無しを降ろす。
──我らの魂を宿す者よ、今こそ願いを解き放つのだ
。
ドラグーンの近くに寄る。左手に手を添える。
「血紅玉よ! 我らの同胞達をその邪悪なる者から解放せよ!」
血紅玉が紅い光を放つ。
「ぐ、ぐおおおおおっ……!」
司祭が蹲り、たちまち痩せ細っていく。皮膚は青白くなりボロボロ崩れていった。
「複数の命をその身に無理矢理捩じこんだ罰だ」
「おの……れ、ドラグーン……」
せめてもの慈悲だったのだろう。ドラグーンは黒炎弾を放つと、灰となって司祭は消えた。そして同時に司祭の配下も消え失せる。
「勝った……私たちの勝利だ……」
「よ、良かったぁ〜……」
へたり、と足腰のちからが抜けてしまう。
「おーい、ドラグーン!」
たくさんの人々の足音が聞こえてきた。
「みんな!」
どうやらドラグーンが助けたかった町の人々だ、あっという間に囲まれ、皆がドラグーンに感謝を述べた。
笑顔と安心、それと同時に去来したものが別にあった。
ああ、ドラグーンとは近いうちにお別れだ。
あれからドラグーンからは何の音沙汰はなく、名無しは心配と絶望で胸がはちきれそうになっていた。
泣いちゃダメ、きっとドラグーンは私が知らない強敵と戦っているんだ。
どんなときだって彼は強い、ドラグーンは誰にも負けない。
「お願い、ドラグーン……帰ってきて……」
この言葉も何回呟いたかわからないほど焦燥しきっていた。
名無しの髪は傷み、肌はカサカサと荒れている。食事もろくにとれず、睡眠なんて忘れてしまった。なんとなく眠りに落ちた日は大抵ドラグーンが非道いことをされる夢をみる。
変わったことと言えばそれだけではなかった気もする。
空は青色のはずなのに、街路樹の花は淡いピンクだったはずなのに、なにも色を感じなくなった。
目に希望の光は宿らず、手にとれば砂のように隙間からそれは零れ落ちる。
もっとはやくドラグーンに気持ちを伝えたら、結末も、未来も違ったのだろうか。
今となってはもう遅い、もうきっとドラグーンは──。
目を伏せた。
──諦めないでよ! あなた、ドラグーンを幸せにするんでしょ!?
(あの日の……声……)
──こんなところで……こんなところで、ドラグーンの敗北なんて想像するんじゃないわよ! あなただから私は託したのに!
目の前にそのひとはいないはずなのに、涙を流して名無しに叱咤している。
(でも……私は……)
──あなたしかできないのに!
朦朧とする意識の中で、彼との印象的だったシーンが浮かんだ。
あれはお花見をしに、すこし遠くへ行った出来事だった。
風に飛ばされたのか、女の子の帽子が木に引っかかってしまっていた。よりにもよって大人でも届かないような高さの木に。
新しいの買ってあげるから、とお母さんが言ってもあれがいいのと女の子は泣いた。
私はどうしようと、ドラグーンに相談した。
ドラグーンはその時も表情を変えず、ただ一言
「風よ」
とだけ言って帽子を浮かした。
ポスっと女の子の頭に帽子が載る。女の子は嬉しそうに泣いて、ドラグーンを見た。
ドラグーンはその子を一瞥して、先の道を歩いてしまった。
優しい、胸がキュウッと締め付けられる。
「慣れないことをした」
「かっこよかったよ」
「……」
もしかして照れていたのかもしれない。
ぽつり、ぽつりと思い出が灯りだす。
初夏の重たい湿気で髪がうねって型が上手く作れない日には
「いつもと同じでいいか」
と聞いて魔法でうねりをなくしたり。
酷暑の日には二人で談笑しながらアイスを食べて
「夏の暑さは魔法ではどうにもできないな……」
と感情がないと言っていた本人が、困った表情をしていて。
秋にはコスモスが咲いていたのをふたりで見た。帰りにお土産屋さんに寄って、押し花されたコスモスの栞を買ってドラグーンにあげた。読書をよくするドラグーンだから、邪魔にはならないかなって。
「ありがとう、大切にする」
気付けなかっただけで、あの日ドラグーンははにかんでいたのかもしれない。
冬は暗いからと言って迎えにきてくれて、星空を眺めながら家路についた。お礼に温かい飲み物を作った。珍しくリクエストがあって、それはココアだった。
「甘い、癖になる」
体も心もドラグーンは温めてくれて、日増しに恋心は色付いて。
何にドラグーンが負けるの……?
ドラグーンも私も諦めないかぎり戦って、そして勝つんだ。
嘆いてばかり、憂いてばかり、悔やんでばかりで済んでたまるか。
私も戦うんだ!
キラキラと淡い燐光を帯びたドラグーンのカード。
指先に力をいれる。
「ドラグーンを助けるちからを!」
カツ、カツと石の床に靴音が静謐な空間に鳴り響く。
呼吸を乱せばすぐ自分の場所がわかりそうだ。
記憶の封印から解かれたときに全て思い出したのをきっかけに、この教団の真の目的にも気付いた。
(現世と精霊世界、そして神の領域を踏み躙るつもりだ)
ドラグーンの故郷は伝統を重んじ、そして真紅眼の黒龍を神と崇める民族だった。ドラグーンはその神に認められ、超魔導竜騎士としての称号を賜ったのだ。
町の中央に建てられた神の石碑には紅い宝石が埋まっている。その宝石こそ、血紅玉だったのだ。
あの宝石の伝説は手に入れた者の願いを叶えるというもの、だが伝説はまだ続きがある。精霊世界の片割れ、人間界に現れる同じ血紅玉の片割れを手に入れなければ、ただの魔力が強い石なのだ。
人々の口を割らすために嬲ったのだろう。大切な人々の命を奪った、憤りを超えた怒りは今にも冷静さを欠き、最適解を見失いそうになる。
幸いにも人間界の血紅玉は自分の手の中にある、悪いシナリオだが教団もおそらく精霊世界の血紅玉を持っている。
(私のなすべきことは)
血紅玉を奪い返し、こいつらの制圧だろう。
残存する敵を蹴散らし、広い場所に出た。
「やれやれ、こんなことになるとはね」
「私が言いたいことはわかるだろう、血紅玉を返せ」
司祭は鼻で嘲って、祭壇に置いていた紅い宝石に指をはせる。
「ふ……ふふふ、ふはは……はーっはっは!」
「何がおかしい」
「私はね、もう血紅玉の魔力をこの体に取り込んでいるんだよ! それが何かわかるか? お前の住んでいた村人全ての命が私に宿ってるわけだ」
「なるほど、お前を殺せば皆の命も死ぬことか」
「物分りが良くて助かるよ! 今や君の同胞だ」
「貴様など同胞と認めたくないな」
司祭は横の男に目配せる。乱暴に開けられたドアから、名無しが出てきた。
「ドラグーン!」
「名無し!? なぜここに!?」
「生贄として丁度良かったのでな」
現れた数多の敵がドラグーンを囲む。司祭は名無しの首に腕を巻きつけた。呼吸ができなくて苦しそうに眉を顰める。
「く……」
「贄の女よ、言いたいことはわかるだろう。さぁ、言うんだ、『我等に新しき救いと世界を』と」
「た……か……たまるか、あなたの指示には従ってたまるか……!」
司祭らしからぬ憎々しげな表情を浮かべる。
「狼藉者ドラグーンを殺せ! 女を聖火に
剣圧で周りを一蹴したが、間に合うかわからない。
「名無しっ……!」
「ドラグーン! 受け取って!」
何か投げられたものを手に取る。
「これは……祭壇にあった精霊側の血紅玉……!」
「貴方の願いを言って!」
「こ……の……人間風情がぁあ!」
ワナワナと震えた司祭は階段から名無しを突き落とした。
受け身がとれない。
ケガどころではすまない。
ドラグーンでは距離的に拾えない。
痛くない?
黒いドラゴンの背に乗っていた。このドラゴンは──!
「レッドアイズ……!」
「なにっ!?」
真紅眼の黒龍は優しげな眼差しで、名無しを降ろす。
──我らの魂を宿す者よ、今こそ願いを解き放つのだ
。
ドラグーンの近くに寄る。左手に手を添える。
「血紅玉よ! 我らの同胞達をその邪悪なる者から解放せよ!」
血紅玉が紅い光を放つ。
「ぐ、ぐおおおおおっ……!」
司祭が蹲り、たちまち痩せ細っていく。皮膚は青白くなりボロボロ崩れていった。
「複数の命をその身に無理矢理捩じこんだ罰だ」
「おの……れ、ドラグーン……」
せめてもの慈悲だったのだろう。ドラグーンは黒炎弾を放つと、灰となって司祭は消えた。そして同時に司祭の配下も消え失せる。
「勝った……私たちの勝利だ……」
「よ、良かったぁ〜……」
へたり、と足腰のちからが抜けてしまう。
「おーい、ドラグーン!」
たくさんの人々の足音が聞こえてきた。
「みんな!」
どうやらドラグーンが助けたかった町の人々だ、あっという間に囲まれ、皆がドラグーンに感謝を述べた。
笑顔と安心、それと同時に去来したものが別にあった。
ああ、ドラグーンとは近いうちにお別れだ。