継いだもの
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二人分の夕食を片付ける。食器についた洗剤を流すお湯が名無しの腕にはねる。
赤い宝石が胸にあらわれてから数日、ドラグーンとはあまり話せていない。
「……」
あまり考えたくはないけれど、これをドラグーンにあげればこの生活ともおさらばなのか。それともお礼だと、自分が飽くまでこのひとは側にいてくれるのか。
ずるいことが脳内を駆け巡る。
「聞いているのか?」
「えっ?」
気付いたら後ろにドラグーンがいた。
「どうしたの?」
今まで見たドラグーンの表情で、一等険しい表情だ。
「貴方の湯汲の後で話がある。逃げないでほしい」
「えっ……」
ドラグーンを避けていたのが彼に伝わっていた、それどころか真正面から自分に話を持ちかけてきた。
これはピンチどころかチャンスなのでは。
「わ……わかった。ちょっと待っててね」
そう返して、名無しは浴室へ向かった。
(おかしい。明らかにマスターの魔力の質が変わっている)
あの耳鳴りと声を聞いてから、名無しの魔力の質などが変化していた。
我々精霊をこのように具現化させるのも、並の決闘者の精神力や濁りきった命のちからで到底できはしない。できたとしても精霊の魔力で精神をあてられ、精神面および肉体面に負担があるいうのに。
マスターの魔力は穏やかな春の陽射しみたいな魔力だ。側に居ると心地良くて、眠ってしまいそうな。事実眠ってしまったことも多々あるのだが。それが、あれから、荒々しく燃え盛る炎ですべて焼き尽くす魔力に変わってしまった。
『竜が好いた者に』
「……私は」
これに似た感情を誰かに抱いたことがあるというのだろうか。この感情はいったい何だというのか。
「ドラグーン」
寝巻き姿でマスターが戻ってきた。
わかる限りのすべて話そう。
「まず私は記憶と感情がない。推測だが、記憶と感情がないのは……自分が何らかの事情で自分自身にかけた魔法だろう」
「あなたが……?」
「ああ、先日めまいと耳鳴りがあった日に、マスターではない女性の声がした。そしてもうひとり……別の者の声がな」
暫くの沈黙、その静寂を切ったのはドラグーンだった。
「マスター、それがあってからマスターの魔力の質がおかしい。心当たりはないか」
「……」
遠回しにあの宝石のことに勘繰られてる。
魔力が何だとかはわからない、けれどドラグーンが求めていたものが私の中にあるかもしれない。
パジャマのボタンを外す。ドラグーンは目線をずっと合わせていた。
「ドラグーン、約束をしてほしいの」
「なんだ」
「もし、これが、目的の物だったら……」
ああ、口が止まらない。視界が涙でぼんやりした。
「抱いて」
まるで別れるのが惜しいときの寂しさに襲われる。
胸の下着を取り払う、誰にも見せたことのない乳房が少し揺れるのを隠しながら、中央にある宝石を見せた。
ドラグーンは顔色ひとつ変えない。
「……それに触れて確かめたいことがある。だが、貴女を大切にしたい。身体の繋がりはいまは考えてほしくない」
(やっぱりドラグーンは誠実だなぁ、そんなところが)
「好きだよ、ドラグーン」
眉ひとつ動かさない。まぁ、感情がないって言ってたし。
「今になるまで気づかなかったことがある。名無しを大切にしたい、これは貴女に感じたものだ。……これが、感情か」
ドラグーンの口角が少し上がった。言葉にしたのが照れくさくて、行き場がなさそうに視線を泳がせる。
その珍しさに期待してしまう。少なくとも嫌われてはないと思ってしまう。
なにがあっても、これは必ず渡そう。そう決意するのに躊躇いはない。
「ドラグーン、いいよ。確かめて」
「……失礼する」
ドラグーンの指先が胸の宝石に触れる。じわりと熱を持った。
途端、めまいと耳鳴りにおそわれた。
ドラグーンを初めて目にしたあの日と同じもの、いや、全く違う。女のひと……?
──ようやく、わたし以外の大切なひとに出会えたのね。
女性の声が一つひとつに染みていくように、鼓膜を響かせる。
──わたしはドラグーンの元恋人……なのかしら? 大切にはしてもらったんだけど。……わたしね、殺されちゃったの。
「殺された……!?」
──わたしが死んだことにより、ドラグーンの心が瓦解した。彼の中に記憶がないのは、わたしとあの神様が、ドラグーンに術を施したから。もう解けているけどね。
「神様……?」
──レッドアイズ・ブラックドラゴン。彼の故郷では神様として祀られていたみたい。
彼は強い、だからといって、いま彼と対峙する敵を侮っていてはだめ。名無しも狙われてる。お願い。
『私があげられなかった幸せを彼に』
意識がはっきりと現実に戻ったとき、赤い宝石は床に転げ落ちていた。
横でドラグーンは初めて目にした表情をしていた。
怒りよりもっと強い感情を、憎しみを宿し歯を食いしばる。
「……名無し、貴女が落としたそれに私の探し求めていたものと、もうひとつ確かめなければいけないことがある」
ドラグーンは戦闘に行くときの甲冑を装備し、赤赤と燃える憤怒と憎悪をその剣にこめる。
「これはレッドアイズの片割れ……私の育った町の住人の魂が封印されている」
ドラグーンは慣れてない微笑みを浮かべて、宝石を拾う。
「何があっても名無しのもとへ帰ってくる。待っていてくれ」
先程感じた寂しさよりずっと強く感じる切なさに視界が滲みそうだ。
「絶対帰ってきて、いつまでも待ってるから」
そっとドラグーンの手が頬に触れた。
赤い目が私の目をとらえた、目を瞑った。
唇が重なった。
1分にも満たない短い口付けなのに、ちょっとした永遠を感じた。
「大好きよ、ドラグーン」
「お慕いしている、我が主」
ドラグーンは魔法陣を発動させた。
「行ってくる」
赤い宝石が胸にあらわれてから数日、ドラグーンとはあまり話せていない。
「……」
あまり考えたくはないけれど、これをドラグーンにあげればこの生活ともおさらばなのか。それともお礼だと、自分が飽くまでこのひとは側にいてくれるのか。
ずるいことが脳内を駆け巡る。
「聞いているのか?」
「えっ?」
気付いたら後ろにドラグーンがいた。
「どうしたの?」
今まで見たドラグーンの表情で、一等険しい表情だ。
「貴方の湯汲の後で話がある。逃げないでほしい」
「えっ……」
ドラグーンを避けていたのが彼に伝わっていた、それどころか真正面から自分に話を持ちかけてきた。
これはピンチどころかチャンスなのでは。
「わ……わかった。ちょっと待っててね」
そう返して、名無しは浴室へ向かった。
(おかしい。明らかにマスターの魔力の質が変わっている)
あの耳鳴りと声を聞いてから、名無しの魔力の質などが変化していた。
我々精霊をこのように具現化させるのも、並の決闘者の精神力や濁りきった命のちからで到底できはしない。できたとしても精霊の魔力で精神をあてられ、精神面および肉体面に負担があるいうのに。
マスターの魔力は穏やかな春の陽射しみたいな魔力だ。側に居ると心地良くて、眠ってしまいそうな。事実眠ってしまったことも多々あるのだが。それが、あれから、荒々しく燃え盛る炎ですべて焼き尽くす魔力に変わってしまった。
『竜が好いた者に』
「……私は」
これに似た感情を誰かに抱いたことがあるというのだろうか。この感情はいったい何だというのか。
「ドラグーン」
寝巻き姿でマスターが戻ってきた。
わかる限りのすべて話そう。
「まず私は記憶と感情がない。推測だが、記憶と感情がないのは……自分が何らかの事情で自分自身にかけた魔法だろう」
「あなたが……?」
「ああ、先日めまいと耳鳴りがあった日に、マスターではない女性の声がした。そしてもうひとり……別の者の声がな」
暫くの沈黙、その静寂を切ったのはドラグーンだった。
「マスター、それがあってからマスターの魔力の質がおかしい。心当たりはないか」
「……」
遠回しにあの宝石のことに勘繰られてる。
魔力が何だとかはわからない、けれどドラグーンが求めていたものが私の中にあるかもしれない。
パジャマのボタンを外す。ドラグーンは目線をずっと合わせていた。
「ドラグーン、約束をしてほしいの」
「なんだ」
「もし、これが、目的の物だったら……」
ああ、口が止まらない。視界が涙でぼんやりした。
「抱いて」
まるで別れるのが惜しいときの寂しさに襲われる。
胸の下着を取り払う、誰にも見せたことのない乳房が少し揺れるのを隠しながら、中央にある宝石を見せた。
ドラグーンは顔色ひとつ変えない。
「……それに触れて確かめたいことがある。だが、貴女を大切にしたい。身体の繋がりはいまは考えてほしくない」
(やっぱりドラグーンは誠実だなぁ、そんなところが)
「好きだよ、ドラグーン」
眉ひとつ動かさない。まぁ、感情がないって言ってたし。
「今になるまで気づかなかったことがある。名無しを大切にしたい、これは貴女に感じたものだ。……これが、感情か」
ドラグーンの口角が少し上がった。言葉にしたのが照れくさくて、行き場がなさそうに視線を泳がせる。
その珍しさに期待してしまう。少なくとも嫌われてはないと思ってしまう。
なにがあっても、これは必ず渡そう。そう決意するのに躊躇いはない。
「ドラグーン、いいよ。確かめて」
「……失礼する」
ドラグーンの指先が胸の宝石に触れる。じわりと熱を持った。
途端、めまいと耳鳴りにおそわれた。
ドラグーンを初めて目にしたあの日と同じもの、いや、全く違う。女のひと……?
──ようやく、わたし以外の大切なひとに出会えたのね。
女性の声が一つひとつに染みていくように、鼓膜を響かせる。
──わたしはドラグーンの元恋人……なのかしら? 大切にはしてもらったんだけど。……わたしね、殺されちゃったの。
「殺された……!?」
──わたしが死んだことにより、ドラグーンの心が瓦解した。彼の中に記憶がないのは、わたしとあの神様が、ドラグーンに術を施したから。もう解けているけどね。
「神様……?」
──レッドアイズ・ブラックドラゴン。彼の故郷では神様として祀られていたみたい。
彼は強い、だからといって、いま彼と対峙する敵を侮っていてはだめ。名無しも狙われてる。お願い。
『私があげられなかった幸せを彼に』
意識がはっきりと現実に戻ったとき、赤い宝石は床に転げ落ちていた。
横でドラグーンは初めて目にした表情をしていた。
怒りよりもっと強い感情を、憎しみを宿し歯を食いしばる。
「……名無し、貴女が落としたそれに私の探し求めていたものと、もうひとつ確かめなければいけないことがある」
ドラグーンは戦闘に行くときの甲冑を装備し、赤赤と燃える憤怒と憎悪をその剣にこめる。
「これはレッドアイズの片割れ……私の育った町の住人の魂が封印されている」
ドラグーンは慣れてない微笑みを浮かべて、宝石を拾う。
「何があっても名無しのもとへ帰ってくる。待っていてくれ」
先程感じた寂しさよりずっと強く感じる切なさに視界が滲みそうだ。
「絶対帰ってきて、いつまでも待ってるから」
そっとドラグーンの手が頬に触れた。
赤い目が私の目をとらえた、目を瞑った。
唇が重なった。
1分にも満たない短い口付けなのに、ちょっとした永遠を感じた。
「大好きよ、ドラグーン」
「お慕いしている、我が主」
ドラグーンは魔法陣を発動させた。
「行ってくる」