憧憬
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
その日は何だか幸運な日だった。昼食のお弁当が美味しかったり、上司から怒られなかったり。
だから、運試しのつもりだった。
(ご縁がありますよーに)
新発売のパックを5パック買った。
家に着いて、ハサミで慎重に開ける。
──超魔導竜騎士ードラグーン・オブ・レッドアイズ
見間違いでなければ、今、決闘者の間で話題を攫っている、あのカードだ。
トリックスタードラグーン、召喚獣ドラグーン、リリーサードラグーン……あらゆる場所でヘイトを買っているカードだ。
ついに手に入れてしまった。俗に言う超が付くほどのレアカードを。
(でも……うーん、ブラック・マジシャンも真紅眼も持ってないよ……。捕食植物ヴェルテ・アナコンダもいないのに。宝の持ち腐れになっちゃうなぁ)
もう一度カードを見る。凛々しいイラストとは裏腹に、名無しにはドラグーンの瞳が虚ろだと思った。まるで何かを失くしてあてもなく探すような。そしてまた色んなものを失っていったような。
(悲しい赤色……)
瞬間、カードに触れていた左手にピリッと痛みが走った。
そして頭の中に過ぎる、朧げな何かの映像。しかしただの白い景色。
何も解らないのに、濁流のそれに意識を持っていかれる。
(なに、これ……。や、やだ……つらい、痛い、悲しい。助けて……!)
伸ばした手、何かが名無しの手首を掴んだ。
意識が現実に戻る。
「あ、あぁ……!」
兜から覗く銀色の髪が揺れ、紅い双眸が名無しを捕らえてる。
「超魔導竜騎士ードラグーン・オブ・レッドアイズ。……貴様が、私を召喚した者だな?」
頭の中に駆け巡るのは疑問符と、モンスターの存在がどうのこうのというテレビのニュース。
(わ、私……!?)
「質問に答えろ、私を喚び出したのは貴様だな?」
「えっ、わからない……」
ドラグーン・オブ・レッドアイズは名無しを見据え、左手に目を遣った。
「貴様だな、私を決闘で使うか否かは貴様次第だ」
「私、貴様って名前じゃないよ。名無し 名無し。よろしくね」
「……ドラグーンとでも呼べ」
ドラグーンは家の中を歩くと、適当な椅子に座った。
折角来てくれたからには、仲良くなりたい。何から話そうか、逡巡する。
「ドラグーン、緑茶と紅茶だったらどっちがいい? コーラとかもあるよ」
「……? 飲み物か?」
「うん」
「紅茶がいい、砂糖はたくさん入れろ」
「お砂糖いっぱいね。甘いの好きなの?」
「……」
黙るドラグーン。聞いちゃいけなかったかな、と内心焦る。
「……何故、私は『紅茶』を知っていて、『砂糖が多い』のが良いと……」
「……?」
「独り言だ、気にするな」
ドラグーンが心配だが、取り敢えず紅茶の用意をする。
ティーカップに紅茶を注ぐと、ドラグーンが此方を見つめていた。
「名無しに言っても仕方ないが、私は『ある物』を探している。それがあれば、私の欲しい物をくれるらしい」
「欲しい物?」
「その欲しい物がわからない。だが、私は探さなければならない……。それも理由がわからないが」
「ドラグーン……?」
ドラグーンは口を噤む。沈黙が続いた。カチャ……とティーカップが鳴る。
意を決したのか、名無しに伝える。
「記憶も感情もない」
ドラグーンのその一言は確信までとはいかない。それでも名無しにとっては、その緋色の眼が映し出すものは、ドラグーンの悲しさなのかと思った。
「ドラグーン、見つけようね。私も手伝うからね」
「恩に着る」
ドラグーンのその言葉が、何の感情もないことを知っていても。
ドラグーンを助けたい気持ちは、嘘ではないから。
だから、運試しのつもりだった。
(ご縁がありますよーに)
新発売のパックを5パック買った。
家に着いて、ハサミで慎重に開ける。
──超魔導竜騎士ードラグーン・オブ・レッドアイズ
見間違いでなければ、今、決闘者の間で話題を攫っている、あのカードだ。
トリックスタードラグーン、召喚獣ドラグーン、リリーサードラグーン……あらゆる場所でヘイトを買っているカードだ。
ついに手に入れてしまった。俗に言う超が付くほどのレアカードを。
(でも……うーん、ブラック・マジシャンも真紅眼も持ってないよ……。捕食植物ヴェルテ・アナコンダもいないのに。宝の持ち腐れになっちゃうなぁ)
もう一度カードを見る。凛々しいイラストとは裏腹に、名無しにはドラグーンの瞳が虚ろだと思った。まるで何かを失くしてあてもなく探すような。そしてまた色んなものを失っていったような。
(悲しい赤色……)
瞬間、カードに触れていた左手にピリッと痛みが走った。
そして頭の中に過ぎる、朧げな何かの映像。しかしただの白い景色。
何も解らないのに、濁流のそれに意識を持っていかれる。
(なに、これ……。や、やだ……つらい、痛い、悲しい。助けて……!)
伸ばした手、何かが名無しの手首を掴んだ。
意識が現実に戻る。
「あ、あぁ……!」
兜から覗く銀色の髪が揺れ、紅い双眸が名無しを捕らえてる。
「超魔導竜騎士ードラグーン・オブ・レッドアイズ。……貴様が、私を召喚した者だな?」
頭の中に駆け巡るのは疑問符と、モンスターの存在がどうのこうのというテレビのニュース。
(わ、私……!?)
「質問に答えろ、私を喚び出したのは貴様だな?」
「えっ、わからない……」
ドラグーン・オブ・レッドアイズは名無しを見据え、左手に目を遣った。
「貴様だな、私を決闘で使うか否かは貴様次第だ」
「私、貴様って名前じゃないよ。名無し 名無し。よろしくね」
「……ドラグーンとでも呼べ」
ドラグーンは家の中を歩くと、適当な椅子に座った。
折角来てくれたからには、仲良くなりたい。何から話そうか、逡巡する。
「ドラグーン、緑茶と紅茶だったらどっちがいい? コーラとかもあるよ」
「……? 飲み物か?」
「うん」
「紅茶がいい、砂糖はたくさん入れろ」
「お砂糖いっぱいね。甘いの好きなの?」
「……」
黙るドラグーン。聞いちゃいけなかったかな、と内心焦る。
「……何故、私は『紅茶』を知っていて、『砂糖が多い』のが良いと……」
「……?」
「独り言だ、気にするな」
ドラグーンが心配だが、取り敢えず紅茶の用意をする。
ティーカップに紅茶を注ぐと、ドラグーンが此方を見つめていた。
「名無しに言っても仕方ないが、私は『ある物』を探している。それがあれば、私の欲しい物をくれるらしい」
「欲しい物?」
「その欲しい物がわからない。だが、私は探さなければならない……。それも理由がわからないが」
「ドラグーン……?」
ドラグーンは口を噤む。沈黙が続いた。カチャ……とティーカップが鳴る。
意を決したのか、名無しに伝える。
「記憶も感情もない」
ドラグーンのその一言は確信までとはいかない。それでも名無しにとっては、その緋色の眼が映し出すものは、ドラグーンの悲しさなのかと思った。
「ドラグーン、見つけようね。私も手伝うからね」
「恩に着る」
ドラグーンのその言葉が、何の感情もないことを知っていても。
ドラグーンを助けたい気持ちは、嘘ではないから。