7月
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夏休みの宿題を配り、長期休暇に浮かれる生徒達を見て、にっこりと白石先生は笑う。
「皆さん、羽目を外してはいけませんよぉ。補習のある人はちゃんと来て、ない人も勉強頑張ってねぇ。では熱中症に気をつけて。今学期は終わりです。さようなら」
ガヤガヤと生徒達は騒ぎながら、教室を出ていく。
決まったように名無しが、聖戦士の元へきて、何か言いたそうにした。
「名無し、テスト頑張ったな。偉いぞ」
「えへへ……聖戦士先生のおかげです。ありがとうございます。その、今日はこの本をおすすめしに来ました」
「猫の本……?」
「猫と人間の日常を書いた本なんです。猫ちゃん目線がすごく猫ちゃんらしくて良いなって思って」
「仕事が終わったら、本屋に寄って買っていくかな。勧めてくれてありがとう。良い夏休みをな」
生徒が疎らになった学校で、夏休みの業務をする。
時間は過ぎていき、夜の7時になり、聖戦士も学校から出る。
(本屋だ)
車を出し、聖戦士は近場の本屋に向かった。
「あ」
「ん」
「あら」
聖戦士、名無し、宝生が本屋で、鉢合わせになる。
「丁度良いですわ、聖戦士先生。お茶をご馳走してくださらない?」
「ほっ、宝生さん……!」
「他の奴らには秘密だぞ……」
隣接するカフェで、コーヒーと甘い紅茶とスムージーを頼む。財布の中が少し軽くなった。
3人で卓を囲む。
「聖戦士先生」
先に口を開いたのは宝生だった。
「お見合いのことでお話が」
「えっ……」
「宝生! その話は言うな……!」
宝生は名無しを一瞥すると、ため息をついた。
「随分ご内密事が多い教師だこと」
「先生、お見合いのお話があるんですね……そ、そうですよね……先生かっこいいし、優しいし……」
「お、俺は帰る……すまん」
涙ぐむ名無しを見て、胸が苦しくなった。
「さて……お話したいのは、聖戦士先生ではなく、あなたなの。名無しさん」
ポロポロ涙を零す様子を見ながら、宝生はゆっくり話す。
「聖戦士先生のお見合い相手、わたくしの姉で、姉に幸せになってほしくないの。……要件は、わたくしと一緒に、お見合いを台無しにしない?」
「お、見合いを……」
「好きなのでしょう、聖戦士先生が」
宝生は口元に笑みを浮かべ、名無しを見据える。
「……わたくしを悪魔として、見ていただいても結構ですわ。欲しいものは全て手に入れましょう。それこそが人生よ、名無しさん」
この手を取ってしまえば、聖戦士に嫌われる。それでも、この人間の皮を被った悪魔の囁きに、抗えない。
名無しは頷いた。
「では連絡先を交換しましょう。日時は8月5日。場所は追って連絡しますわ」
「ほ、宝生さん……私ね、私、先生に幸せになってほしくて、でも私を選んでほしくて……」
「幸せは、自分主体のもので、それを邪魔する障壁があったら、取り除くものですわよ。言っておきますけど、わたくし、あなたの様な純情は、捨ててきましたの。あと、美羽と呼んで。……名無し」
宝生はそう言って、その場を去った。
名無しも紅茶を飲み、本屋を後にする。
宝生はケースの中に入っている破れたカードを見つめる。
「アルカナ ナイトジョーカー……」
もう2度と、あの優しい声音で、自分に話しかけてはくれない。あの温かい眼差しで、見つめてくれない。
全てあの女が、気色悪いという理由で、宝生とアルカナ ナイトジョーカーを分断したのだ。
「あの女の幸せを壊しても、あなたは戻ってこないのに」
ひとりきりの部屋で、嗚咽を堪えながら、それを抱きしめる。そして、名無しのことを考える。聖戦士を呼ぶ名無しが、美羽には眩く映っていた。同時に幸せになってほしかった。
「見ていて、アルカナ ナイトジョーカー」
「美羽様、姉君のお見合い会場が判りました」
暗闇に融けるその人物は、メモ用紙を美羽に渡すと、すぐさま姿を消した。
「あそこね」
美羽はスマートフォンを手に取る。名無しに詳細を打つ。
「皆、今度の相手は聖戦士カオス・ソルジャーよ。手練の剣士。絶対にお見合い台無しにするわよ」
美羽はベッドに身を投じると、眠りについた。
美羽との話で、聖戦士はカードの精霊というものだと知った。
「幸せは……自分主体のもの……」
きっと美羽は、自分とは違う辛い思いをしてきたのだろう。分け合うこともできない幸せもある。誰かを踏み躙らなければ、勝ち得ることもできない幸福も──。
「ごめんなさい、聖戦士先生……。私、良い子でいられないです」
覚悟を胸に宿し、美羽と綿密に計画しながら、その日を迎える。
「皆さん、羽目を外してはいけませんよぉ。補習のある人はちゃんと来て、ない人も勉強頑張ってねぇ。では熱中症に気をつけて。今学期は終わりです。さようなら」
ガヤガヤと生徒達は騒ぎながら、教室を出ていく。
決まったように名無しが、聖戦士の元へきて、何か言いたそうにした。
「名無し、テスト頑張ったな。偉いぞ」
「えへへ……聖戦士先生のおかげです。ありがとうございます。その、今日はこの本をおすすめしに来ました」
「猫の本……?」
「猫と人間の日常を書いた本なんです。猫ちゃん目線がすごく猫ちゃんらしくて良いなって思って」
「仕事が終わったら、本屋に寄って買っていくかな。勧めてくれてありがとう。良い夏休みをな」
生徒が疎らになった学校で、夏休みの業務をする。
時間は過ぎていき、夜の7時になり、聖戦士も学校から出る。
(本屋だ)
車を出し、聖戦士は近場の本屋に向かった。
「あ」
「ん」
「あら」
聖戦士、名無し、宝生が本屋で、鉢合わせになる。
「丁度良いですわ、聖戦士先生。お茶をご馳走してくださらない?」
「ほっ、宝生さん……!」
「他の奴らには秘密だぞ……」
隣接するカフェで、コーヒーと甘い紅茶とスムージーを頼む。財布の中が少し軽くなった。
3人で卓を囲む。
「聖戦士先生」
先に口を開いたのは宝生だった。
「お見合いのことでお話が」
「えっ……」
「宝生! その話は言うな……!」
宝生は名無しを一瞥すると、ため息をついた。
「随分ご内密事が多い教師だこと」
「先生、お見合いのお話があるんですね……そ、そうですよね……先生かっこいいし、優しいし……」
「お、俺は帰る……すまん」
涙ぐむ名無しを見て、胸が苦しくなった。
「さて……お話したいのは、聖戦士先生ではなく、あなたなの。名無しさん」
ポロポロ涙を零す様子を見ながら、宝生はゆっくり話す。
「聖戦士先生のお見合い相手、わたくしの姉で、姉に幸せになってほしくないの。……要件は、わたくしと一緒に、お見合いを台無しにしない?」
「お、見合いを……」
「好きなのでしょう、聖戦士先生が」
宝生は口元に笑みを浮かべ、名無しを見据える。
「……わたくしを悪魔として、見ていただいても結構ですわ。欲しいものは全て手に入れましょう。それこそが人生よ、名無しさん」
この手を取ってしまえば、聖戦士に嫌われる。それでも、この人間の皮を被った悪魔の囁きに、抗えない。
名無しは頷いた。
「では連絡先を交換しましょう。日時は8月5日。場所は追って連絡しますわ」
「ほ、宝生さん……私ね、私、先生に幸せになってほしくて、でも私を選んでほしくて……」
「幸せは、自分主体のもので、それを邪魔する障壁があったら、取り除くものですわよ。言っておきますけど、わたくし、あなたの様な純情は、捨ててきましたの。あと、美羽と呼んで。……名無し」
宝生はそう言って、その場を去った。
名無しも紅茶を飲み、本屋を後にする。
宝生はケースの中に入っている破れたカードを見つめる。
「アルカナ ナイトジョーカー……」
もう2度と、あの優しい声音で、自分に話しかけてはくれない。あの温かい眼差しで、見つめてくれない。
全てあの女が、気色悪いという理由で、宝生とアルカナ ナイトジョーカーを分断したのだ。
「あの女の幸せを壊しても、あなたは戻ってこないのに」
ひとりきりの部屋で、嗚咽を堪えながら、それを抱きしめる。そして、名無しのことを考える。聖戦士を呼ぶ名無しが、美羽には眩く映っていた。同時に幸せになってほしかった。
「見ていて、アルカナ ナイトジョーカー」
「美羽様、姉君のお見合い会場が判りました」
暗闇に融けるその人物は、メモ用紙を美羽に渡すと、すぐさま姿を消した。
「あそこね」
美羽はスマートフォンを手に取る。名無しに詳細を打つ。
「皆、今度の相手は聖戦士カオス・ソルジャーよ。手練の剣士。絶対にお見合い台無しにするわよ」
美羽はベッドに身を投じると、眠りについた。
美羽との話で、聖戦士はカードの精霊というものだと知った。
「幸せは……自分主体のもの……」
きっと美羽は、自分とは違う辛い思いをしてきたのだろう。分け合うこともできない幸せもある。誰かを踏み躙らなければ、勝ち得ることもできない幸福も──。
「ごめんなさい、聖戦士先生……。私、良い子でいられないです」
覚悟を胸に宿し、美羽と綿密に計画しながら、その日を迎える。