3月
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卒業式が終わった。
卒業生達が校庭で各々写真や、この後の予定を聞いている。
「聖戦士先生〜」
近寄ってきた卒業生数人は、まるで悪戯っ子の様な、笑みを見せる。
「先生、彼女いるの〜? 餞別として教えてよ〜」
「……一度しか言わない。俺も心くらい持っている、だから……そう言う感情は少なからずある人間は、いる……」
周りの生徒たちが、色めき立つ。
「聖戦士先生やるぅ〜!」
肘で突かれたものだから、お返しに生徒に肘打ちする。
「いってー!」
「まったく……大学に行って、楽しい事ばかりに現を抜かすなよ」
「へーい」
その後も写真を撮りたい、別れを惜しみたいと言われ、生徒達の相手をつとめた。
家に着いて、一息ついた。
名無しからもらったブレスレットを眺めていた。
「本当にきれいだ」
ふとカレンダーを見遣った。
「しまった……!」
聖戦士は急いでキッチンに入って、食材を探すが、こういうときに限って買い忘れている。
「連絡いれるか……」
【すまん、2月のお返しの品が、明日中に間に合いそうにない。必ず渡すから、待っていてくれ】
ディスプレイにはそうメッセージが表示されていて、思わず口を尖らしてしまった。
目の前の美羽がニヤニヤしている。
「聖戦士先生から? はぁ〜、アツくて敵わないわ〜」
「美羽ちゃん!」
「で、どうしたの?」
「バレンタインのお返しが、いつになるかわからないけど渡すよって言われただけだよ……」
「本当かしら、『名無し好き好きチュッチュッ』とか」
「そんなやり取りしてませんー!」
「聖戦士先生は、つれないですわね」
まぁ、美羽は付け足して、宿題をカバンの中にしまう。
「実際に学生にそんなことしたら、聖戦士先生が免職よ。学生の間は慎まないとね」
「そうなんだけどぉ〜」
耳打ちして、美羽は頭を抱えた。
「頬にくちづけ……。誰にも見られなかったのでしょうね……?」
「見られなかったと思うけど、だって、チューしたかったんだもん……」
美羽はため息をついて、名無しを見遣る。
「話が変わるけど、……聖戦士先生、おそらく……」
口を噤んで、美羽はカバンを持った。
「もう少しで3期も終わるわ、頑張りましょう」
見送って、何を言いたかったのだろう、なんて考える。
「はぁい、みなさん1年生お疲れ様。2年生も張り切っていきましょう。では春休み、楽しんでね」
白石先生の挨拶が終わり、3期も終わった。
「名無し」
「聖戦士先生」
聖戦士先生が、名無しを呼んだ。
「先月はありがとう、美味かったぞ」
「あら、聖戦士先生、生徒を誑かしてますの?」
美羽が茶化しながら、聖戦士先生の後ろから近付く。
「まったく違う」
「語尾を荒らげてるところが怪しいです。
……ふたりきりになれる場所をお探しで? わたくしには隠さなくて結構よ」
「名無し、また後で」
「あーあ。今し方、わたくしが経営するレストランのキャンセルが入ってしまいましたの。食材は無駄になるし、シェフも可哀想ですわ、ちょうど2名、貸し切りなのに……、残念ですわ……」
「また後ほど」
クスクス美羽は笑って、名無しの手を引いた。
美羽に連れられてリムジンに乗って、どこかに連れて行かれる。
「美羽ちゃん、どこに行くの?」
「お店、ドレスコードが必要なの。だから、名無しに服を」
「ありがたいけど……も、もしかしてとってもお高いレストラン……」
「聖戦士先生のお給料なら、二人分くらい余裕ですわ」
まぁ、と美羽は付け足して、スマートフォンで連絡を入れていた。
「わたくしの友人と先生という枠で、お安くしておきます。感謝なさい、聖戦士先生。フフ」
車が停止する。着いたみたいだ。エスコートされて、建物の中に入る。眼の前には、上品で可愛らしい服が、ズラリと並んでいる。圧巻の光景に思わず開いた口が塞がらない。
「ご試着などございましたら、遠慮なく言いつけください」
「は、はい」
白を基調とした服だけをピックアップしてもらった。
何着か選んで、試着した。白いレースに淡紫の花が美しく刺繍されてあるワンピースにした。
「名無し様、お決まりですね。お時間が押していますので、お化粧担当の者のところへご案内いたします」
「はい」
案内されている途中で聞いた。
「あの、お洋服はいつお返ししたら……」
「美羽様から選んだ服は、差し上げるとのことです」
「えっ、ダメだよ、そんな、高そうなのに」
「……美羽様はそれだけ、名無し様を、ご友人として信頼されているのでしょう。到着しましたので、私は此処でお待ちしております」
今度はお化粧担当の方に案内されて、席に着いて、美しいを施された。
「完成です! お鏡でご覧下さい!」
姿見で自分を見ると、まるで、お伽噺のお姫様のような出で立ちだった。
(と、なると聖戦士先生は……見た目的に騎士かな……? 聖戦士先生はかっこいいな……!)
妄想に耽っていたら、スマートフォンが振動した。
「名無し、時間よ」
「うん!」
化粧を施してくれた方にお礼を言って、急いで車に乗った。
──結局、来てしまった。
そう言いたそうにして、聖戦士は中へ入る。
聖戦士の三編みにした長い髪が揺れる。席に着いて、名無しが到着するのを待った。
実を言うと、名無しに内緒で美羽に、プライベートで相談していたのだ。今は無理でも、名無しとふたりきりになれる時間が欲しいと。その時の美羽は、真剣に考えていてくれた。そして、美羽は言った。
「聖戦士先生。言っておきますが、わたくしの友達を、傷つけて、泣かせる真似をしたら、許しませんわよ!」
鬼気迫る表情だったのを憶えている。
(宝生は友達想いなんだな……)
水を含んだら、レモンの風味がした。
初めて出会った入学式の日を思い出す。
他の生徒に恫喝されたのを助けて、お礼にアクセサリーをもらって。日頃もとても頑張っていて、夏休みは辟易するお見合いで大変だった。不登校気味になって、コスプレ喫茶の衣装やメイドの真似事に嫉妬した。文化祭では『御主人様』呼びされ、更に占いなんてされて、内心冷や汗をかいた。気持ちがバレてしまうのではないかと。冬休みのある日に、誓った。卒業したら気持ち伝えると。年明けは辛かった、あんな思いをさせた。バレンタインに頬に口吻された。思い出すだけでも甘酸っぱくなる。
そんなことを考えていたら、店内のドアが開いた。
その名無しは、『美しい』そんな言葉で片付けられないほどだった
(なんて綺麗なんだ……お姫様みたいだな……)
じっと目を凝らして見てしまった。名無しがあたふたしてる。
「あ、ああ、すまん。座りなさい」
「は、はい……」
そして料理が運ばれてくる。あまりにも豪華で目が眩んでしまう。
「……なぁ、名無し。これバレンタインのお返し」
勉強はしたがな、と付け加えて、小さな布袋に入ってある物を受け取らせる。
「わぁ……! とても綺麗です!」
ネックレス、精霊世界にしかない鉱物を使った、オーダーメイドの物。
「気に入ってくれたか?」
「はい! すごい! きれい……!」
名無しが見惚れているくらいなんだ。聖戦士は切なさそうな顔をして、口を動かした。
「名無し、俺は、他の学校に行くことになったんだ」
驚きと悲しみが混じった声音だ。
「え……な、なんで……」
「大人の事情だ。だから、今みたいに、顔を合わせる回数は、ずっと減るだろう。それでも、俺の気持ちを伝える時を、待っていてくれるか」
名無しの目尻からボロボロと涙が溢れている。
彼女への想いを簡単に諦められるものだったら、既にそうしている。そうではないから、胸を掻きむしられる気持ちなんだ。
「名無し」
「待ってます……! 私、ちゃんと卒業して立派になって……! 聖戦士先生の気持ちに応えます!」
「……ありがとう。絶対に、伝える」
充血した眼から、まだ流れる涙をそっと指で拭った。
そして、離任式。
永遠のお別れではない。聖戦士先生の新しい旅立ちなんだ。だから、泣いて困らせちゃだめ。その時の嬉しい涙にするために、涙は、ためておくんだ。
卒業生達が校庭で各々写真や、この後の予定を聞いている。
「聖戦士先生〜」
近寄ってきた卒業生数人は、まるで悪戯っ子の様な、笑みを見せる。
「先生、彼女いるの〜? 餞別として教えてよ〜」
「……一度しか言わない。俺も心くらい持っている、だから……そう言う感情は少なからずある人間は、いる……」
周りの生徒たちが、色めき立つ。
「聖戦士先生やるぅ〜!」
肘で突かれたものだから、お返しに生徒に肘打ちする。
「いってー!」
「まったく……大学に行って、楽しい事ばかりに現を抜かすなよ」
「へーい」
その後も写真を撮りたい、別れを惜しみたいと言われ、生徒達の相手をつとめた。
家に着いて、一息ついた。
名無しからもらったブレスレットを眺めていた。
「本当にきれいだ」
ふとカレンダーを見遣った。
「しまった……!」
聖戦士は急いでキッチンに入って、食材を探すが、こういうときに限って買い忘れている。
「連絡いれるか……」
【すまん、2月のお返しの品が、明日中に間に合いそうにない。必ず渡すから、待っていてくれ】
ディスプレイにはそうメッセージが表示されていて、思わず口を尖らしてしまった。
目の前の美羽がニヤニヤしている。
「聖戦士先生から? はぁ〜、アツくて敵わないわ〜」
「美羽ちゃん!」
「で、どうしたの?」
「バレンタインのお返しが、いつになるかわからないけど渡すよって言われただけだよ……」
「本当かしら、『名無し好き好きチュッチュッ』とか」
「そんなやり取りしてませんー!」
「聖戦士先生は、つれないですわね」
まぁ、美羽は付け足して、宿題をカバンの中にしまう。
「実際に学生にそんなことしたら、聖戦士先生が免職よ。学生の間は慎まないとね」
「そうなんだけどぉ〜」
耳打ちして、美羽は頭を抱えた。
「頬にくちづけ……。誰にも見られなかったのでしょうね……?」
「見られなかったと思うけど、だって、チューしたかったんだもん……」
美羽はため息をついて、名無しを見遣る。
「話が変わるけど、……聖戦士先生、おそらく……」
口を噤んで、美羽はカバンを持った。
「もう少しで3期も終わるわ、頑張りましょう」
見送って、何を言いたかったのだろう、なんて考える。
「はぁい、みなさん1年生お疲れ様。2年生も張り切っていきましょう。では春休み、楽しんでね」
白石先生の挨拶が終わり、3期も終わった。
「名無し」
「聖戦士先生」
聖戦士先生が、名無しを呼んだ。
「先月はありがとう、美味かったぞ」
「あら、聖戦士先生、生徒を誑かしてますの?」
美羽が茶化しながら、聖戦士先生の後ろから近付く。
「まったく違う」
「語尾を荒らげてるところが怪しいです。
……ふたりきりになれる場所をお探しで? わたくしには隠さなくて結構よ」
「名無し、また後で」
「あーあ。今し方、わたくしが経営するレストランのキャンセルが入ってしまいましたの。食材は無駄になるし、シェフも可哀想ですわ、ちょうど2名、貸し切りなのに……、残念ですわ……」
「また後ほど」
クスクス美羽は笑って、名無しの手を引いた。
美羽に連れられてリムジンに乗って、どこかに連れて行かれる。
「美羽ちゃん、どこに行くの?」
「お店、ドレスコードが必要なの。だから、名無しに服を」
「ありがたいけど……も、もしかしてとってもお高いレストラン……」
「聖戦士先生のお給料なら、二人分くらい余裕ですわ」
まぁ、と美羽は付け足して、スマートフォンで連絡を入れていた。
「わたくしの友人と先生という枠で、お安くしておきます。感謝なさい、聖戦士先生。フフ」
車が停止する。着いたみたいだ。エスコートされて、建物の中に入る。眼の前には、上品で可愛らしい服が、ズラリと並んでいる。圧巻の光景に思わず開いた口が塞がらない。
「ご試着などございましたら、遠慮なく言いつけください」
「は、はい」
白を基調とした服だけをピックアップしてもらった。
何着か選んで、試着した。白いレースに淡紫の花が美しく刺繍されてあるワンピースにした。
「名無し様、お決まりですね。お時間が押していますので、お化粧担当の者のところへご案内いたします」
「はい」
案内されている途中で聞いた。
「あの、お洋服はいつお返ししたら……」
「美羽様から選んだ服は、差し上げるとのことです」
「えっ、ダメだよ、そんな、高そうなのに」
「……美羽様はそれだけ、名無し様を、ご友人として信頼されているのでしょう。到着しましたので、私は此処でお待ちしております」
今度はお化粧担当の方に案内されて、席に着いて、美しいを施された。
「完成です! お鏡でご覧下さい!」
姿見で自分を見ると、まるで、お伽噺のお姫様のような出で立ちだった。
(と、なると聖戦士先生は……見た目的に騎士かな……? 聖戦士先生はかっこいいな……!)
妄想に耽っていたら、スマートフォンが振動した。
「名無し、時間よ」
「うん!」
化粧を施してくれた方にお礼を言って、急いで車に乗った。
──結局、来てしまった。
そう言いたそうにして、聖戦士は中へ入る。
聖戦士の三編みにした長い髪が揺れる。席に着いて、名無しが到着するのを待った。
実を言うと、名無しに内緒で美羽に、プライベートで相談していたのだ。今は無理でも、名無しとふたりきりになれる時間が欲しいと。その時の美羽は、真剣に考えていてくれた。そして、美羽は言った。
「聖戦士先生。言っておきますが、わたくしの友達を、傷つけて、泣かせる真似をしたら、許しませんわよ!」
鬼気迫る表情だったのを憶えている。
(宝生は友達想いなんだな……)
水を含んだら、レモンの風味がした。
初めて出会った入学式の日を思い出す。
他の生徒に恫喝されたのを助けて、お礼にアクセサリーをもらって。日頃もとても頑張っていて、夏休みは辟易するお見合いで大変だった。不登校気味になって、コスプレ喫茶の衣装やメイドの真似事に嫉妬した。文化祭では『御主人様』呼びされ、更に占いなんてされて、内心冷や汗をかいた。気持ちがバレてしまうのではないかと。冬休みのある日に、誓った。卒業したら気持ち伝えると。年明けは辛かった、あんな思いをさせた。バレンタインに頬に口吻された。思い出すだけでも甘酸っぱくなる。
そんなことを考えていたら、店内のドアが開いた。
その名無しは、『美しい』そんな言葉で片付けられないほどだった
(なんて綺麗なんだ……お姫様みたいだな……)
じっと目を凝らして見てしまった。名無しがあたふたしてる。
「あ、ああ、すまん。座りなさい」
「は、はい……」
そして料理が運ばれてくる。あまりにも豪華で目が眩んでしまう。
「……なぁ、名無し。これバレンタインのお返し」
勉強はしたがな、と付け加えて、小さな布袋に入ってある物を受け取らせる。
「わぁ……! とても綺麗です!」
ネックレス、精霊世界にしかない鉱物を使った、オーダーメイドの物。
「気に入ってくれたか?」
「はい! すごい! きれい……!」
名無しが見惚れているくらいなんだ。聖戦士は切なさそうな顔をして、口を動かした。
「名無し、俺は、他の学校に行くことになったんだ」
驚きと悲しみが混じった声音だ。
「え……な、なんで……」
「大人の事情だ。だから、今みたいに、顔を合わせる回数は、ずっと減るだろう。それでも、俺の気持ちを伝える時を、待っていてくれるか」
名無しの目尻からボロボロと涙が溢れている。
彼女への想いを簡単に諦められるものだったら、既にそうしている。そうではないから、胸を掻きむしられる気持ちなんだ。
「名無し」
「待ってます……! 私、ちゃんと卒業して立派になって……! 聖戦士先生の気持ちに応えます!」
「……ありがとう。絶対に、伝える」
充血した眼から、まだ流れる涙をそっと指で拭った。
そして、離任式。
永遠のお別れではない。聖戦士先生の新しい旅立ちなんだ。だから、泣いて困らせちゃだめ。その時の嬉しい涙にするために、涙は、ためておくんだ。