産まれて初めて恋心を抱く女性から、自分の人生の中でも最上級に嬉しい物を貰った。
「飴の詰め合わせ……だろうか？」
小さな袋に複数の色とりどりの飴玉が、宵闇の使者の眼には、散りばめられた宝石のように見える。
「バレンタインデーに飴を贈る意味を知ってる？」
名無しが宵闇の使者に問う。プレゼントを貰うことは多い宵闇の使者だが、それに何かの意味があるとは、考えたことはなかった。
「わからない、教えてほしい」
「キャンディーってね、あなたが好きって意味なの。でも、好きだけじゃ足りないくらい、あなたを愛しているの」
顔にどんどん熱が集まるのを感じる。気恥ずかしさ、嬉しさ、何よりも愛しさが宵闇の使者の胸を支配した。
「貴女が、好きだ」
せきを切った想いは、考えるよりも先に彼女を優しく抱き寄せ、耳元で何度も名無しに愛を囁くことしかできなかった。
「好きだ、愛している……貴女と共にいたい……」
名無しの額、目尻、頬に唇を落とす。クスクス笑う彼女が心の底から愛おしい。
自然な流れで目があった。逸らすなんてできない、お互い、その瞳に吸い込まれてしまいそうだった。
宵闇の使者が頭を撫でる、それが何のサインかはすぐに理解できた。
瞳を閉じる、宵闇の使者の吐息を間近で感じた。
そして唇を重ね合った。抑えがたい熱情が溢れ出し、刻みつけるように深く口付ける。
「んっ……う……」
夢中になっていたら、名無しが苦しそうに上擦った息をしていた。
宵闇の使者は唇を離すと、再び名無しの頭を愛撫する。
「今宵は、この星のような飴を見ながら、眠りにつくとするよ。おやすみ、私の愛しい名無し」
「おやすみなさい、宵闇。良い夢をみてね」
軽い接吻をされて、宵闇の使者は自分の世界へと帰っていった。

名無しの身体から力が抜ける、あんなに宵闇の使者に求められるのが意外で、喜びに満ち溢れ、耳には宵闇の使者の声でエコーがかかる。
「宵闇はずるいわ……！　もう……大好き……」
そんな声は届くはずもなく、宵闇の使者との接吻を思い出していた。