冬の空の下、帰り道にとある物を買って、足早に名無しは家へ向かう。
「ただいま！」
「おかえり……なさ〜い……」
「混沌の使者！　寝てなさいって言ったでしょう！」
「マスターが帰ってくるの、待ってたんです……」
辛そうな吐息、名無しは混沌の使者の手を引いて、布団に寝かせた。
「はい、ココア。買ってきたよ」
「ありがとうございます……」
ペットボトルの蓋を開け、混沌の使者に渡す。ゆっくり飲んだ後、混沌の使者は眠たくなってのか、布団に包まり、すやすやと寝た。
（インフルエンザだからなぁ……）
苦しさが伝わってくる咳、一刻も早く治りますように。祈ることしかできない。
起こさないように部屋を出る。
（りんごのすりおろし食べられるかな……？）
混沌の使者が食べられそうなものを考えながら、名無しはキッチンへ向かった。

「マスター……？」
目を覚ました混沌の使者は、名無しの姿が見えないことに気付いた。
おぼつかない足取りで、リビングへ行く。
扉を開けると名無しが何か作っていた。
「起きた？　今りんごスリスリ作っているから待ってて」
混沌の使者は椅子に座り、ぼんやりと名無しの姿を見る。
「大丈夫？　りんご食べられたら解熱剤飲もうね」
置かれた器の中にある、りんごのすりおろしをスプーンですくい、混沌の使者の前に差し出した。
顔を近づけ口に含む。
「甘くて……美味しいです……」
そのまま完食し、混沌の使者は解熱剤を飲む。
「マスター……元気になったら……遊んでください」
「たくさん遊ぼうね」
指切りをすると、混沌の使者は自室へと戻る。
触れた指先がほのかな熱を持つ。好きな人に触れた。それが嬉しくて名無しは胸を高鳴らせた。

一方、混沌の使者は熱に浮かされながらも、あの優しい体温に触れられたことが嬉しくて、この感情が何なのか探っていた。