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桜の木の下で side-R

side R

愛佳は私の事好きだと思う。


友達やメンバー以上の気持ちを持ってくれてるのかなぁ…って感じる時がある。…それがどういう感情なのかわからないけど。



でも、やっぱり思い過ごしだよね。だって、女の子同士で、そんなことあるはずない。


…もし、友達とかメンバーとしてじゃなくて、恋愛感情を持ってくれているなら、私は…





「お待たせ致しました」

ニコニコとした店員さんが、注文した料理を次々と並べていく。マルゲリータのピザ、カプレーゼ、カルボナーラのパスタ…




まぁ、いいや。あんまり難しい事は考えないようにしよう。なるようにしかならないし、どうなりたいのか自分でもよく解らないし。


「ホントよく食べるね、私たち」

頭の中で渦巻く考えを、振り払うように愛佳に話しかけた。

「ふふ、そうだよね」



食事の間も、愛佳の視線が気になる。ふと愛佳の方を見ると、彼女もこちらを見ていた。空中でぶつかった視線。だけど、すぐに逸らされてしまう。

愛佳はとっさにクールな表情を装うけど、ぴょこんと立ち上がった大きな耳が赤く染まっていて、照れているのが伝わってきた。



何で照れてるんだろうって不思議だけど、平静を装う愛佳はかわいい。



「でさぁ、この間ダニがさぁ…」

「うそー、ホントウケるんだけど!」

「でね、あたらっぷが…」

愛佳はいつも面白い話で私を笑わせてくれる。ここまで気の合う友達が出来たのは正直初めてで…愛佳はキレイで面白い。そして、少し不器用で誤解される事があるけど本当はすごく心が優しい。こんなにステキな子と仲良くなれて私は幸せだ。



「そろそろ帰りますかぁ」

愛佳が勢いよく立ち上がる。スマホの時計を見ると20:00を示していた。

二人で楽しい話をしながら駅まで歩く。




相変わらずこの時間の渋谷は人が多い。私は田舎育ちだから未だに唖然としてしまう事がある。ほんの数年前はこんな未来ちっとも予測していなかった。地元の学校をでて、就職して、なんとなく恋をして、結婚するのかなって考えていた。人生は何が起こるかわからない。



横を見ると相変わらず、愛佳が楽しそうにお喋りしている。オーディションを受けていなければ愛佳にもメンバーにも出会えてなかったんだと思うと自分の勇気を褒めてあげたい気持ちになる。



「もう春だねぇ。こんな時間でも暖かいね」

暖かい風になんとなく嬉しい気持ちになって、そう呟いた。



「あっという間だね」

愛佳が続けた。私も本当にそう思う。欅に入ってから毎日必死で振り返る暇もなかった。



「なんかさ、毎日過ぎるのが早すぎて、気が付いたらオバさんになってたりするのかな」

少し恐いなぁと考えながら呟いた。



「うん、いつの間にかオバさんになって、気が付いたら欅も卒業とかしなきゃいけなくなったりとかね…」

愛佳の言葉に胸がギシっと軋んだ感じがした。卒業…そうだよね。死ぬまで欅坂のメンバーでいられるわけじゃないんだよね。これは長い人生の中のほんの数年の出来事なんだ。



「そうだね、みんな卒業して、結婚して、お母さんになって」


仕方ないよね。変わらないものなんてない。欅を卒業したらみんなそれぞれ別の道を歩かなくちゃいけないんだ。今自分が見た風景、感じた事をいつまでも忘れないように刻んでおこうと思う。



顔を上げると愛佳は泣きそうな顔で笑っていて、私の胸はさらに強く軋んだ。



なんだか急に私達の会話は空々しくなってしまった。電車に乗って寮の最寄駅で降りたが、愛佳が明らかに元気がない。



愛佳は本当に繊細だから、ちょっとした事がきっかけで元気を失くしてしまう事が良くある。感受性が豊かで、心が追いつかないんだよね、きっと。



こういう時、私はそっとしておく事にしている。そのうち、彼女なりに答えを出してまた元気になることもあるからだ。



でも…本当は私に話してほしいと思う。だって、こんなに一緒にいて色々な話するのに大切な事は話さないなんて寂しいよ。

いつも一人で抱え込んで、心の中に気持ちを閉じ込めちゃうんだから。

私が少しぐらい、愛佳の心の隙間に入ったっていいじゃない?

「コンビニ寄る?」

まるで何も察していないかのように、いつもの調子で愛佳に話しかける。



「いや、今日はいいや」

素っ気なく返されてしまう。

ああ、まただ。何かさっきまでの会話で引っかかることがあったんだろう。

思ってる事があるなら話してくれればいいのに。



愛佳は大切な事は話してくれない。

もう少し、素直になってくれればいいのに。


どうにもならない気持ちを抱えて歩いていると、淡いピンク色の木々が目に止まった。


「桜だ!まなか、桜だよ!」


「わぁ!」「見に行こう!」

私達はうれしくなって、勢いよく走り寄った。



「キレイだね」

すっかり普段通りに戻った愛佳が呟いた。

いつもはクールな立ち位置だけど、美しいものに触れた時に素直に感動してしまう、こういうところが好き。




「ここ、座ろうか」

丁度いいベンチを見つけて、私達は腰掛けた。




「もう3年だね」

色んな愛佳を思い出しながら呟いた。

距離を急に詰めると逃げられしまいそうな、繊細で、ちょっぴり臆病な、野良猫みたいな人。3年かけて、少しは近づけたかな。



「うん、あっという間だったね」

愛佳がそう口にした瞬間、急に強い風が吹く。

二人だけ、違う世界に迷い込んだみたいだった。



風が止んで、夜空にはらはらと花びらが散った。儚くて、美しかった。

急に胸が高鳴るのは、隣にいる愛佳から緊張感が伝わって来るからだろうか。


ー…彼女が何かを伝えようとしていることに、雰囲気で気付いてしまった。

毎日一緒にいるから、愛佳が考えていることは、なんとなくだけど解ってしまうこともある。



もしも、「好き」なんて言われたら、私はどうするんだろう。…女の子同士だし、メンバーだし。理屈に頼って考えると、断る理由はたくさんある。



でも、本当は私、もっと愛佳に近づきたい。

もっと愛佳が考えてること知りたいし、愛佳を傷つけるものから、守りたいとさえ思っている。



愛佳の気持ち、受け止めるから正直に言ってほしい。ちょっとずるいかもしれないけど…もし、私のことが好きなら、愛佳の言葉で、それを聞きたいの。



意を決して愛佳の肩にもたれかかる。

気持ちを受け入れる準備はできてるよっていう合図のつもり。




愛佳の香りがする。鼻の奥がツンとして、何だか泣きそうな自分に気づく。

愛佳は素直じゃないところがあるから、気持ちに気付かないフリをして通り過ぎてしまうかもしれない。でも、自分から告白する勇気は無くて…

お願い、本当の気持ち聞かせてほしいよ。



愛佳の整った顔が、ゆっくり近づいてくる。




「ねぇ、理佐。好きだよ」



…あぁ、ありがとう、愛佳。

小さな声だったけど、はっきりと伝えてくれた。

繊細で臆病な彼女が、勇気を出して自分の気持ちを伝えてくれた事が、うれしくて幸せ。涙が溢れて止まらない。




「り、がとう、…まなか、ありがとう…」


感情が涙と一緒に溢れてきて、上手く言葉に出来ない。



「わ、たしも…お、んなじ、気持ちだよ…」


それでも、私の中にも、同じ気持ちがあった事を伝えたい。



「理佐、すっごい恥ずかしいんだけど、私の好きって友達とかメンバーとしてとかじゃなくて…」



「う、ん…わかっ、てる。わかってるよ。」


そんなのずっと前から気づいてた。受け入れる勇気がなかったから今まで見ないフリをしていた。

私、甘えてばかりでごめんね。


上手く言葉に出来なくてもどかしいから、ただ、抱きしめた。少しは気持ちが伝わるだろうか。



愛佳のグレーのパーカーに顔を鎮める。本当は、ずっとこうしてみたかった。今はっきりと自覚したけど私は愛佳の彼女になりたかったんだ。

その証拠にさっきから心臓がドキドキとうるさい。





少し体を離してお互いの顔を見つめる。

愛佳も泣いていた。


ありがとう…怖かったよね。



ふいに、愛佳の顔が近づいてきて唇を奪われる。

柔らかい唇に、胸がキュンと締め付けられた。



愛佳の照れた顔が愛おしくって堪らない。

恥ずかしい気持ちを隠すように私をギュッと抱きしめる。愛佳の不器用な温もりに包まれて、心の底から幸せな気持ちが沸き起こる。



何度も何度も幸せを噛みしめる様にキスをする。愛佳が素直に私を求めてくれることが嬉しい。



手を握ったり、抱きしめる度に愛佳への自分の気持ちを実感させられる。


私はずっと愛佳と、恋人同士がするようなことをしたかったんだ。



「そろそろ帰ろっか」

まだ、この距離感に慣れなくて、目を合わせられない。



「うん、帰ろっか」



美しく儚い、桜の木が祝福してくれている。

さっきまでの私達と、違う形の私達を見守るように。手を繋いで、私達は家路についた。




変わらない物なんて無いかもしれないけど、自分の気持ちには逆らえない。今、この瞬間を大切に心に刻もう。




春は、まだ始まったばかり。
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