フクロウナギの夜
暗く、深く、誰の声も届かないような海の底のようなところ。
そんな暗い場所に沈んでしまいそうな夜がある。
誰にも解らないだろうし、
誰にも解って欲しく無いような、
私だけの世界。
全身の力を抜いて、深く…深く…静かに身を沈める。
ここから抜け出すことができなくなったら、私はどうなるんだろう。
あぁ…だけど静かで心地良い、私だけの世界。
今、何時だろう。
随分と長い時間、シーツの海に溺れていた。
「ブブッ」
枕の下でスマートフォンが震える。
重たい気持ちを持ち上げて、眩しい液晶を覗き込む。
「てち、起きてる?」
…
「どしたの?」
冷たい液晶に指を滑らせ、メッセージを返した。
「そっち、行ってもいい??」
…
イエス、ノー、どちらとも取れる、曖昧なスタンプを送り返した。
私たちはどこか似ている。
そうこうしないうちにまた震えだすスマートフォン。
さっきより長い振動が、君がそばに来た事を伝えている。
「着いたんだけど…」
「今、開けるね。」
一日中、誰とも会話をしていない私の声は渇ききっていた。
「ふふふ。部屋、暗いね。ごめんね?寝るとこだった??」
電気がついていない暗い部屋に穏やかな笑い声と、彼女の香りが広がる。
「ふふふ、ごめんごめん、今電気つけるね。」
とってつけたように笑う自分に驚きながら、部屋の電気をつけた。
「てちさぁ、ちゃんとご飯食べてるー??」
君はくしゃっとした笑顔で、コンビニの袋を得意げに掲げた。
「えっ?なんか買ってきてくれたの??ありがとー!」
「うん。最近、てちが何か食べてる姿あんまり見ないなぁって。」
「そうかなー?割と食べてるよ?…えっ、カツサンド?微妙に重ーい!」
彼女の持ってきてくれた差し入れをガサゴソ物色しながら、私達は目を合わせてひゃひゃひゃと笑った。
「ジュースだけもらうね!ありがとー!」
乾ききった喉がグレープフルーツジュースを乱暴に吸収する。
どうゆうタイミングかは解らないけど、ぴっぴが夜中に遊びに来る事がある。
昼間のぴっぴとは少し違う表情で。
彼女はいつも何か話しをするわけでもなく、ソファの上で膝を抱えてケータイを弄り始める。
私もその隣でケータイを弄ったり、テレビを眺めたりしている。
時々彼女の横顔を覗き込みながら。
「ぴっぴ、お風呂上がり?」
「うん。」
ケータイに目線を向けたまま返事をする彼女。お風呂上がりでメイクをしていないその素肌はいつもより更に白く、神々しく透き通っている。
「ぴっぴは本当にお肌キレイだねー。」
「んー。ありがと。」
まるで、興味が無さそうな空返事。
それから私達は、仕事の事とか、最近ハマってるアプリの事とか他愛も無い話をして、時々、空々しく笑ったりした。
「んー、、ぴっぴ、そろそろ寝よう。」
「んー。そだね。」
部屋の電気を全て消して、再び真っ暗なシーツの海に潜り込む。
今度は、ぴっぴも一緒に。
私の襟元に顔を埋めて目を閉じる彼女。
ルームウェアの上から感じる彼女の体温や高級なシャンプーの香りに思わず胸がギュっとなる。
ねぇ、ぴっぴの優しさ、残さず全部、食べてしまってもいい??
暗く、深く、誰の声も届かないような海の底のようなところ。
誰にも解らないだろうし、
誰にも解って欲しく無いような、
私だけの世界。
誰かに見つけて欲しいような、放っておいて欲しいような、私。
何にも解らないようなフリをして、眠りにくる彼女。
ねぇ、ぴっぴだけだよ。ぴっぴだけは私の世界に少しだけ入れてあげる。
ああ…いつの日か、ぴっぴ優しさをひと思いに丸呑みしてしまいそうだ。
ぴっぴ、ねぇ、ぴっぴだけだよ?
そんな暗い場所に沈んでしまいそうな夜がある。
誰にも解らないだろうし、
誰にも解って欲しく無いような、
私だけの世界。
全身の力を抜いて、深く…深く…静かに身を沈める。
ここから抜け出すことができなくなったら、私はどうなるんだろう。
あぁ…だけど静かで心地良い、私だけの世界。
今、何時だろう。
随分と長い時間、シーツの海に溺れていた。
「ブブッ」
枕の下でスマートフォンが震える。
重たい気持ちを持ち上げて、眩しい液晶を覗き込む。
「てち、起きてる?」
…
「どしたの?」
冷たい液晶に指を滑らせ、メッセージを返した。
「そっち、行ってもいい??」
…
イエス、ノー、どちらとも取れる、曖昧なスタンプを送り返した。
私たちはどこか似ている。
そうこうしないうちにまた震えだすスマートフォン。
さっきより長い振動が、君がそばに来た事を伝えている。
「着いたんだけど…」
「今、開けるね。」
一日中、誰とも会話をしていない私の声は渇ききっていた。
「ふふふ。部屋、暗いね。ごめんね?寝るとこだった??」
電気がついていない暗い部屋に穏やかな笑い声と、彼女の香りが広がる。
「ふふふ、ごめんごめん、今電気つけるね。」
とってつけたように笑う自分に驚きながら、部屋の電気をつけた。
「てちさぁ、ちゃんとご飯食べてるー??」
君はくしゃっとした笑顔で、コンビニの袋を得意げに掲げた。
「えっ?なんか買ってきてくれたの??ありがとー!」
「うん。最近、てちが何か食べてる姿あんまり見ないなぁって。」
「そうかなー?割と食べてるよ?…えっ、カツサンド?微妙に重ーい!」
彼女の持ってきてくれた差し入れをガサゴソ物色しながら、私達は目を合わせてひゃひゃひゃと笑った。
「ジュースだけもらうね!ありがとー!」
乾ききった喉がグレープフルーツジュースを乱暴に吸収する。
どうゆうタイミングかは解らないけど、ぴっぴが夜中に遊びに来る事がある。
昼間のぴっぴとは少し違う表情で。
彼女はいつも何か話しをするわけでもなく、ソファの上で膝を抱えてケータイを弄り始める。
私もその隣でケータイを弄ったり、テレビを眺めたりしている。
時々彼女の横顔を覗き込みながら。
「ぴっぴ、お風呂上がり?」
「うん。」
ケータイに目線を向けたまま返事をする彼女。お風呂上がりでメイクをしていないその素肌はいつもより更に白く、神々しく透き通っている。
「ぴっぴは本当にお肌キレイだねー。」
「んー。ありがと。」
まるで、興味が無さそうな空返事。
それから私達は、仕事の事とか、最近ハマってるアプリの事とか他愛も無い話をして、時々、空々しく笑ったりした。
「んー、、ぴっぴ、そろそろ寝よう。」
「んー。そだね。」
部屋の電気を全て消して、再び真っ暗なシーツの海に潜り込む。
今度は、ぴっぴも一緒に。
私の襟元に顔を埋めて目を閉じる彼女。
ルームウェアの上から感じる彼女の体温や高級なシャンプーの香りに思わず胸がギュっとなる。
ねぇ、ぴっぴの優しさ、残さず全部、食べてしまってもいい??
暗く、深く、誰の声も届かないような海の底のようなところ。
誰にも解らないだろうし、
誰にも解って欲しく無いような、
私だけの世界。
誰かに見つけて欲しいような、放っておいて欲しいような、私。
何にも解らないようなフリをして、眠りにくる彼女。
ねぇ、ぴっぴだけだよ。ぴっぴだけは私の世界に少しだけ入れてあげる。
ああ…いつの日か、ぴっぴ優しさをひと思いに丸呑みしてしまいそうだ。
ぴっぴ、ねぇ、ぴっぴだけだよ?
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