Moon light

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怨嗟

その昔。とある小さな山に、神の使いの白蛇がいた。
名前は「巳斗」。人間の女に姿を変えて麓の村に降りてきた。

巳斗はひとりの人間の男と恋をしていた。
神の使いを下ろされても、彼と一緒にいられるならと思った。
ささやかな暮らしで良い。平穏に過ごせるのであれば。
しかし、しばらくすると男はお金をもっと稼ぎたいと、一人で都へ旅立った。

巳斗は待った。数年待ち続けた。
なのに、待てど暮らせど男は村に帰ってこない。

風のたよりで、男は都で結婚したと聞いた。
そんなはずはない、必ず私の元へ帰ってくると言ったのに。

巳斗は一人、彼を追って都へ向かい探し回った。
しかし、所詮は寄る辺の無い身。手がかりも無く、徒労に終わり村へ舞い戻る。
独りになって、どのくらい?数えた年月すら忘れてしまった。
男に対する恨みと恋慕と、常に葛藤していた。

ある日、村で巳斗は行き倒れの男を見つけた。
病を患い、目もよく見えないようだった。

彼を介抱してやったが、先が長くないことは目に見えていた。

男は、身の上を話した。この村から出て都で金を稼ぎ結婚したが、
家は栄えず自分も病になり、やがて独りになってしまった。

せめて死ぬ前に、この村に戻ってきたかった。
ここでの恋人を捨てたことも後悔している。
許してくれなくて構わない、彼女に詫びたい気持ちだ。
とうの昔に自分のことなど忘れて幸せになっていると良いのだが。

巳斗は悟った。この者こそ、かつて愛した男だと。
しかし、自分の身を明かすことはしなかった。

…なぜ帰ってきたの?助けなければ良かった。
哀れな姿になった彼の後悔の気持ちなど、知らなければ良かった。
私の身を案じる言葉など、聞かなければ良かった。

…そうしたら、恨んだままでいられたのに。
憎しみを心の支えに、これからも生きて行けたのに。

…もう、神の使いにも戻れない。
私はこれから、どこへ行ったら良いの?
あなたは自分だけ、安らかに眠ると言うの?

…このまま土には還さない。往生などさせてやるものか。

巳斗は、瀕死状態の男を喰らい尽くした。

…この先、永劫に我が身の一部となれ。
後悔の念に苛まれながら我と共に苦しむがいい。

一体となりながら、問いかけて返事があるはずもない。
行き場を失った想いは制することも叶わず
暴走した末に巳斗自身を苛む。

傷ついた心の奥底で、数百年経った今も
情念の炎は自覚の無いままくすぶり続けている。
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