素直になれない

「大丈夫か?ヴァン」

モンスターの攻撃を受けそうになったヴァンを、バッシュが身を呈して庇った。

ヴァンはハッと我に返ったが、

「べ、別に・・平気だよ。オレだって反撃くらいできたのに」

そっけなく言い捨ると、顔をそむけた。

礼も言わないのは悪いとわかっている。しかし素直になれない。
どこかぎこちなくなってしまうのだ。

兄レックスのことはバッシュのせいではないと頭では理解していたが、
いざ面と向かうとどう接すればいいのか戸惑ってしまう。
挙句どこか冷たい態度になってしまう。

悪いことしたな・・ヴァンは心が痛んだ。

*****

宿で夜の食事を終え、ヴァンは自室に戻るとベッドにゴロリと横になる。

それなりに戦いの成果はあった。だが、少々疲れてしまった。
しかも今晩はバッシュと同室だ。何だか気まずいな…いろいろ考え込んでしまう。

バッシュはアーシェと話し込んでいるようで、なかなか戻ってこなかった。

せめて、昼間のことを謝らなくちゃ・・庇ってくれた礼も言いたい。

「早く戻ってよ・・バッシュ」

じれったかった。アーシェと何をそんなに話しているんだろう。

疲れのためか、少しうつらうつらしていたようだ。

ドアの開く音がしてバッシュが入ってきた。

「?…おや、ヴァン、まだ寝てなかったのかい?待っててくれたのか?」

「いや・・その。ち、違うよ・・何だか眠れなくて・・」

またやってしまった・・どうしてこう、いちいち突っかかったような物言いになるのか。
自分でも嫌になる。

「殿下との話が長くなってしまった。だが、君に謝りたくてね」

「え?」

「昼は・・余計なことをして済まない。でも、君を守りたかった。」

ヴァンは今こそ、と思い切って言った。

「あの・・!バッシュ。オレのほうこそ礼も言わなくて、ごめん!
本当は嬉しかったんだ。助けてくれてありがとう」

バッシュは少し驚いて目を丸くしたが、すぐに穏やかな表情に戻った。

「そうか・・良かった」

「その・・気を悪くしないで。オレ、照れくさくてさ。皆もいたし、何だかうまく言えなくて・・」

ヴァンはしどろもどろになりながら、言い訳した。
バッシュは優しく笑うとヴァンの頭を撫でた。

「あ、あの・・バッシュ。ありがとう。その・・でも、オレだってもっと強くなりたいし」

「だったら、特訓をするかね?。私はスパルタだぞ。」

ちょっとおどけたようにバッシュが言うと、ヴァンは何だか可笑しくなって、声を出して笑った。

「アハハ・・元将軍から直々に特訓してもらえるなんて・・すごいや」

バッシュも笑い出した。

「お望みとあらば」

緊張がほぐれ、ホッとしたヴァンは起きて待っていて良かったと思った。

一方、レックスの死に負い目を感じていたバッシュは、
ヴァンが自分に心を開きつつあると思うと嬉しかった。
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