ring

「それ」を見つめている時の彼の表情は、懐かしそうであり愛おしそうであり、
その瞳は憂いを帯びて、どこか哀しげでもあった。

きいてみたいと思ったが、ヴァンの心に土足で踏み込んでしまうことに
なりはしないかと、 怖くてそのまま時が過ぎる。

君は一体何に想いをはせているのだ?

*************

部屋に入ると、ヴァンがまた「それ」を見て、何か思いにふけっているようだった。
私が近づいても気付かないらしい。

「あ!・・やべっ!!。」

「それ」は彼の手をするりと抜け落ち、ころころと私の足元に転がってきた。
私は屈んで、キラリと光る「それ」を拾い上げた。

慌てたヴァンが、私を見て目を丸くする。

「バッシュ!。いつからいたんだ?・・・。あ!それ・・返して…」

「それ」は小さな指輪だった。

「この指輪は?」

ヴァンは照れくさそうに、頭をかきながら言った。

「…兄さんの・・形見…」

「レックスの…!」

「ポケットに入れたり部屋においてたりするんだけど、小さいから
いつも失くしそうになってさ…」

なるほど・・全てにおいて納得がいった。

「…それでさ、兄さんったらね・・」

私が返した指輪を見つめながら、思い出を語りだすヴァン。
とても楽しそうだ。聞いている私も、微笑ましくて心が和む。

たった二人の幼い兄弟。寄り添って懸命に生きてきたであろう彼ら。
もっと聞かせてくれないか?。ヴァン、君の過去を。

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「バッシュ、これは?」

私はヴァンに、小さなケースを手渡した。

「あの指輪を入れておくといい。それなら転がり落ちたり、 失くす心配も無いだろう?」

「わ・・いいの?。ありがとう!」

その屈託の無い笑顔を見ながら、ふと思った。
いつか指輪も贈ったら、君はどんな顔をするだろう。
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