ヴァンの気遣い

夜分遅く。

ヴァンが隣のバッシュの部屋をノックする。

「バッシュ、いい?。紅茶入れたんだ…」

「いいよ、入りなさい。」

ヴァンは、ちょっとドキドキしながらカップを差し出す。
あたたかい紅茶・・飲んでくれるかな。
今日はレモンティーにしてみたんだけど。

「ありがとう・・ヴァン」

「あのさ・・仕事どう?」

「ん?。今は落ち着いたよ。どうかしたのかい?」

「あ・・今週は帰りも遅いこと多かったし、
忙しいんだろうな、と思ってさ・・」

バッシュはヴァンの入れてくれた紅茶を飲みながら、
ホッと一息つく。そして微笑んだ。

「明日は休みだし・・もう気分も楽だよ」

しばしの沈黙。

「ヴァン・・ここのところ、ずっと私の部屋に来なかったな。」

「え!。いや、その・・忙しいんだったら疲れてると思って・・
ゆっくり眠りたいかな・・って」

「そうか。私が何か気分を損ねる事をしてしまって、来たくなかったのかと、ちょっと心配だった。
ずっと仕事にかまけていたしね。」

「そ、そんな訳ないじゃん!!・・ええと・・」

ヴァンは口ごもってしまった。

バッシュはわかっている。ヴァンは無邪気で子供っぽいが、
相手の心に敏感で繊細なところがある。

表には出さないが、陰でさりげなく気遣っているのだ。
特にバッシュに対しては。彼の愛ゆえの思いやりだろう。

嬉しいが、彼としてはあまり遠慮して欲しくないという気持ちもある。

もともと普段はストレートに自分の想いをぶつけてくれる子だから。

「ヴァン・・おいで」

バッシュはヴァンを抱き寄せて、唇を軽く重ねた。

ヴァンは、バッシュの唇にほんのりレモンの香りを感じていた。

「バ・・シュ・・」

「レモンティーのお代わりをもらえるかな?」

「もちろんだよ!」
ヴァンは元気よく答えた。
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