灯火(ともしび)

夕方。

徐々に暗闇に包まれる街並み。
ぽつりぽつり窓に明かりがともされる。

家路を急ごう。愛しい人の待つ部屋へ。

彼は言うのだ。

窓の明かりはあたたかい。誰かが待っていてくれる。
人が暮らしているんだなあって、実感できるのだと。
だから好きなのだと。

冷たくて、真っ暗な部屋に一人で帰るのは寂しいものだ。
独りだという事をまざまざと思い知らされる。

足早に帰途に着けば、何やら良い匂いが漂ってくる。

「お帰り、バッシュ!!!ご飯できてるから、一緒に食べよう!」

ドアを開けたとたんに威勢のいい声。今日も元気だな。
そして、君の笑顔。疲れが吹き飛ぶよ。

明るくてあたたかい部屋で、誰かが迎えてくれる。子供の時以来?。
何年ぶりだろうか。もう数えることすら忘れてしまった。

だが、今は待っていてくれる人がいる。それでいい。
私は何と幸せなのだろう。

「ただいま、ヴァン」

ヴァンが飛びついてきた。

私はそのしなやかな体を抱きしめ、彼に口付けた。
1/1ページ
    スキ