赤い花の香りに誓う

夜。

ヴァンが私に寄り添ってくる。その細い腰を抱き寄せて、額にキスをする。

ふと。

「ヴァン、ほのかに甘い香りがするようだが?」

「あ、これ?。ガルバナの花のせいかな。今日の昼間
見つけたから、そのまま兄さんの墓参りに行って来た。」

「そうだったのか…君も…」

「え?」

「いや、何でもない」

ヴァンが私の顔を覗き込むようにしてまた話す。

「そういえば、オレが行ったらすでに花束がそなえてあったんだ。一体誰だろう?。」

すべてを見透かしたようなブルーグレイの瞳。

「さあ…レックスは友人もいたんだろう?」

「まあね・・ダウンタウンとかバザーとかで会うこともあるけど・・。」

それきりヴァンは黙ってしまった。私も何も言わなかった。
彼は私の胸に顔を埋め、しばらくぬくもりを確かめるようにじっとしていたが。

「あのさ・・バッシュとこうしてると、兄さんといた時みたいに安心できる。」

「そうか。」

「バッシュ大好き!!」

「ありがとう。」

以前は私を気遣っていたのか、レックスについて触れることはなかった。
最近、ぽつりぽつりと思い出を話してくれるようになった。
むしろ嬉しかった。君の事はなんでも知りたいし、聞いておきたいから。

「前は兄さんが夢に出てくると悲しくて苦しかったけど・・」

「そうだな、うなされていた事もあった。辛かったろう?」

「うん・・でも今は平気。夢で兄さん笑ってるんだぜ!。にこにこしてるの。」

「ヴァン…」

「バッシュがいるから、オレ大丈夫。」

思わず、彼を強く抱きしめた。決して、償いや同情からこうしているのではない。
私は心からヴァンを愛している。

レックス、君は祖国を守りたいと言った。何よりも最愛の弟を守りたかったのだろう。
これからずっと、私がヴァンを守るよ。君に誓おう。

どちらからともなく唇を合わせた時、またほのかにガルバナの花の香りがした。

どこかでレックスが微笑んで頷いている気がした。
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