取り残された二人の夜

真っ暗闇の中。

父さんと母さんの後姿がどんどん遠ざかっていく。

「待って!」

必死に叫んで追いかけようとするけど、声が出ない。
体が動かない。二人は振り向きもせず行ってしまう・・
待って!行かないで!・・

「ああ!」

自分の声に驚いて、少年はハッと目を見開いた。
頬に涙のあと・・泣いていたのか?オレは。

急にブルっと寒気がして、ずん・・と落ちていくような
恐怖に襲われる。父さんも母さんも死んだんだ…。
寂しい・・怖いよ・・。

もそもそと起き上がり、自室を出る。まだ夜中で真っ暗だ…。
隣の兄の部屋へ行き、ノックもせずいきなりドアを開ける。

「兄さん?…ね…一緒に寝てもいい?」

兄はベッドの上で起きていた。部屋にはまだ明かりがついていて、ホッとする。

「ヴァン、・・なんだ、怖いのかい?」

クスッと笑われて弟が頬をふくらませる。

「ちぇ!笑うなよ。何か夢見たんだ。」

ベッドに腰掛けて、もじもじする弟。

「父さんと母さんが・・」

「ヴァン…でも、ずっと泣かなかったね。えらいな・・」

拗ねた弟はとたんに機嫌をよくして、照れ笑いをする。

「へへ・・でも、兄さんだって泣かないじゃん」

「当たり前だろ!オレの方が兄貴なんだから!
ヴァンの方こそ泣きたかったら我慢しなくていいんだよ」

兄の眼差しはどこまでも優しい。ヴァンにとって、
そんな兄をいつも頼っていたし、自慢でもあった。

「へ、平気だよ。兄さんがいるもん。オレ」

「オレもヴァンがいるから大丈夫。頑張っていこうよ・・
これから二人でね。おじさん達も皆も親切だし…何とかなるよ」

「うん!」

「ヴァン、本当はね、オレもヴァンが来てくれないかなあ、って
今思ってたんだ。ちょうど良かった。遅いし、もう寝ようよ」

「ハハハ、何だ!そうだったのかー。じゃあ、お休み、兄さん。」

安心したのか、弟は早速ふとんにもぐり込み、目を閉じた。

兄は一瞬、寂しげな表情を浮かべたが、自分もふとんにもぐり
、明かりを消すと目を閉じた。

二人とも、お互い同じ事を考えていたが、言えないのだ。

自分が泣いてしまったら、相手ももっと悲しくなるだろうから。

泣いたら、心が折れて前に進めなくなってしまいそうだから。

兄レックス14歳、弟ヴァン12歳。

取り残されるには、まだ幼い二人だった。
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