人間に恋した神様のおはなし
名前変換
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
真尋が審神者に就任して暫く。始めこそ静かだった本丸も、着々と刀剣男士が増え、随分と賑やかになっていた。
食事は全員で摂ると決めている為、朝が弱い真尋は、睡魔と闘いながら、大広間へと続く、長い廊下を歩いていた。
角を曲がった先で、見慣れた青い髪を視認した瞬間、真尋は足早に歩き出す。
「おはよう小夜ちゃん!」
「……っ!」
後ろから抱き付けば、小夜は驚いたように真尋を振り返る。
そして、控え目に「、おはよう…」と返事をする小夜に、真尋は一層笑みを深め、小夜のふっくらした頬に、己の頬を寄せた。
「嗚呼、癒される…荒んだ心が洗われる…」
「(くすぐったい…)」
「あーっ!」
突然聞こえた第三者の声に、真尋は顔を上げる。
頬に感じていた温もりが離れた事を、名残惜しく思う小夜の心境など露知らず、真尋は此方に駆け寄って来る二人を、視界に捉えていた。
「小夜ばっかりずるい!真尋さん、僕もギューッてして!」
「ふふ、乱ちゃんおはよう。」
「ぼ、僕も撫でて欲しいです…!」
「喜んでー!」
真尋に抱き付く乱とは対照的に、五虎退は虎を抱えながら、控え目に呟く。
五虎退の頭を撫でてやれば、五虎退はほんのりと頬を赤らめ、はにかんだ笑みを浮かべた。
その、あまりの愛らしさに、真尋は堪らずに五虎退を抱き寄せ、三人纏めて抱き締める。
「ふむ、すきんしっぷと言うやつか?」
何ともほっこりした雰囲気の中、ふと聞こえた声に、その場にいた者の視線は、自ずと声が聞こえた方向へ向けられる。
四人の視線の先には、穏やかな表情を浮かべる、三日月の姿があった。
挨拶をする四人に返事を返した三日月は、暫し、何かを思案するように、静かに四人を見つめる。
その様子に、四人が顔を見合わせていると、結論が出たのか、三日月が口を開いた。
「真尋、」
「ん?」
「近う寄れ。」
「……はい?」
「いつも真尋は、五虎退や乱たち短刀ばかりと、すきんしっぷをしているだろう。じじいは寂しいぞ。」
「…五虎ちゃん達は可愛いけど、三日月さんは大人でしょ。」
「見た目こそ幼いが、五虎退たちは真尋よりも、随分と長い歳月を過ごしている。」
「そりゃ、そうだけど…」
「…それとも、俺とすきんしっぷをするのは嫌か?」
「、あー…嫌とか、そういう事じゃなくて…」
悲しげに目を伏せる三日月に対し、真尋は申し訳なさそうな表情で、否定の言葉を口にする。
言いたい事ははっきりと告げる真尋にしては珍しく、もごもごと口籠もる彼女の元へ、三日月が歩み寄れば、観念したのか、真尋は話し始めた。
「今まで、三日月さんみたいに綺麗でかっこいい人を見たことないから、直視出来なくて。
目を合わせる事すら躊躇うのに、抱き付いたり、頭撫でたり、出来る訳ないじゃん…心臓もたないよ。」
足元に視線を落としながら呟かれた真尋の言葉は、三日月にとって、予想だにしないもので。
つまり、これまで、視線を交えれば、すぐに逸らされてしまったのも、他の者よりスキンシップが少ないのも、全て―――
自分に対して、彼女は少しでも、他者に向ける感情とは異なるものを抱いてくれていると、思っても良いのだろうか。
じわじわと胸中を満たしていく幸福感に、自ずと緩む口元はそのままに、三日月は「真尋、」と、彼女の名を呼ぶ。
暫しの逡巡を経て、真尋は足元に落としていた視線を、ゆっくりと三日月に移した。
「やっと此方を見てくれたな。」
双眸を優しく細め、本当に嬉しそうに微笑む三日月を視認した瞬間、真尋の心臓は、ドクンと大きく脈打つ。
思わず真尋が目を逸らせば、三日月はそれを制するように、真尋の頬に手を添えた。
三日月が触れている頬が、じわじわと熱を帯びていくのを感じながら、真尋は再度、視線を三日月へと定めた。
「こら、目を逸らすでない。」
「っ、だって…!」
「嫌われるような事をしてしまったのかと、これまでの行動を振り返ってみたが、心当たりがなくてな。
随分と頭を悩ませたが、まさか斯様に愛らしい理由とは思わなんだ。いやぁ、嬉しいな。」
「、ごめん…」
「構わんさ。傍にいれば、じきに慣れるだろう。これから少しずつ慣れていけば良い。」
そう言うと、三日月は空いていたもう一方の手も、真尋の頬に添え、諸手で優しく包み込む。
真尋と視線を交えながら、三日月は彼女の額に、こつんと自分の額を合わせた。
対する真尋は、こんなにも間近で、三日月を目にするのは始めてで。
夜空を思わせる、彼の藍色の瞳の中に浮かぶ三日月から、目を逸らす事が出来なかった。
「(見た目だけじゃなくて、瞳まで綺麗とか反則だ…)」
神様ってズルい、なんて、早鐘を打つ心臓を誤魔化すように思案してみるものの、真尋の心音は、一向に落ち着く気配がなく、原因である三日月も、真尋から離れるつもりはないようだった。
そんな真尋の心境を知ってか知らずか、三日月は真尋とのスキンシップが余程嬉しいのか、真尋の頬を愛おしそうに撫でていて。
自分の所為で、彼に余計な懸念を抱かせてしまった手前、三日月と離れる事も出来ず。
本当は、少し―――否、大いに恥ずかしいのだが、三日月が満足するまで、真尋は好きにさせる事にした。
しかし、不意に、真尋の足に、ふわふわした温かいものが触れ、思わず足元に視線を向ければ、そこには、見慣れた五虎退の虎が、すりすりと足に擦り寄っていて。
そこで真尋は気付く。すっかり三日月に気を取られていたが、この場には、他にも人(正確には刀だが。)がいた事を。
「もしかして、キスするの!?」
「きす…?」
「真尋さんの時代では、口吸いの事をキスって言うんだって!」
「と、虎くん、邪魔しちゃダメだよ…!」
キラキラと瞳を輝かせ、三日月と真尋に期待の眼差しを向ける乱に対し、小夜は聞き慣れない言葉に小首を傾げた。
五虎退は真尋の足にじゃれつく虎を抱き上げると、乱の隣へと足早に戻って行く。
虎を抱え、頬を赤らめながらも、五虎退の双眸は、しっかりと三日月と真尋を捉えていて。
胸の前で諸手を組み、乙女モード全開の乱と、多少なりとも興味があるのか、猫目でじっと二人を見つめる小夜。
そんな三人の様子に、真尋が口端を引き攣らせていると、頬に添えられていた手が、そっと真尋を正面に向けさせる。
するとそこには、妙に色気を放つ三日月がいて。不穏な気配を察知した真尋は、咄嗟に三日月から離れようとするも、いつの間にか、三日月の一方の手は、しっかりと真尋の腰に回っていた。
「あ、あの…三日月さん…?」
「期待には応えねばならんな。」
「は!?いやいや何言って―――」
「真尋は幼気な子供の期待を裏切るのか?」
「さっき見た目は幼いけど実際は私より長く生きてるって言ってたじゃん!」
「はて、じじいになると記憶が曖昧で困る。」
「都合良過ぎ!」
細身と言えど、戦場で刀を振るう身。その体躯は、しっかりと引き締まっており、真尋が逃れようとしても、腰に回された腕を解くことは出来なかった。
不覚にも、そんなギャップにときめきつつ、真尋はあまり使わない頭をフル活動させながら、現状の打開策を講じるのだった。
違う意味で顔面凶器!
「あなや、逃げられてしまったか。」
走り去る真尋の後ろ姿を見つめながら、三日月は呟く。
しかし、言葉とは裏腹に、その口元には笑みが浮かんでいて。穏やかに微笑む三日月の顔を覗き込みながら、乱は口を開く。
「三日月さん、本気でキスするつもりなかったでしょ。」
「真尋に少しでもその気があれば、別だったんだがなぁ。」
「ねぇねぇ、やっぱり三日月さんって、真尋さんが好きなの?」
先程と同じく、きらきらと瞳を輝かせながら、乱は三日月に問いかける。
真尋の姿が見えなくなった廊下に、視線を向けていた三日月は、その言葉を受け、乱に視線を移すと、淀みなく告げた。
「あぁ、好きだ。」
慣れない審神者業に加え、真尋には現世での仕事もある。
日数を減らしたと言ってはいたが、それでも、二つの仕事をこなす負担は、相当のものだろう。
それでも、真尋は疲れた素振りを見せず、完全休業日と決めた日曜日は、短刀たちと遊んだり、刀剣男士との交流に時間を充てていた。
新たな刀剣男士を迎えるにつれて、任務の難易度も上がり、遠征や出陣の回数も増えていく。
その為、ここ最近、一人一人のコミュニケーションが不足している事を懸念した真尋は、個人面談を開いた。
出陣や部隊編成、不満や改善点は勿論、どんなに些細な事でも構わない、思っている事を話して欲しいと告げた真尋に対し。
誰一人として、不満を口にする事はなく、それどころか、日頃の感謝と労いを述べたのだった。
支えてやりたいと、護りたいと思う。
武器としての刀ではなく、人間として接し、しっかりと向き合ってくれる真尋に―――いつしか、心惹かれていた。
「早くしないと、誰かに取られちゃうかもしれないよ?」
「はっはっは、今回ばかりは、俺の負けでもいいとは言えんな。」
相変わらずの笑みを浮かべながらも、三日月の真摯な瞳を視認した乱は、彼がいかに真尋の事を想っているのかを悟る。
真尋に対し、密かに想いを寄せる者や、あからさまにアピールする者など、真尋に恋慕の情を抱く、彼らの行動は、実に様々である。
新たに加わった、三日月宗近と言う、手強いライバルに、彼らはどう対応するのか。
そして、争奪戦の末に、真尋の心を射止めるのは、果たして誰なのか。
大好きな真尋が、特定の者と特別な関係になってしまうのは、ほんのちょっぴり寂しいけれど、それでも、真尋の幸せを願わずにはいられない。
真尋に見初められ、本丸中から羨望の的となる、まだ見ぬ者に思いを巡らせながら、乱は小さく、口元に笑みを浮かべた。
あとがき
三日月さんが好き過ぎて常に近侍にしてるけど、実際に傍にいたら、美し過ぎて目も合わせられないだろうなと思って出来たお話。
あと、小夜ちゃんのほっぺぷにぷにしたい頭撫でたい膝の上に乗っけたい。
水無月藍那
2017/04/03
▼special thanks!!
曖昧きす