伏黒 甚爾
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なまえは15歳になった。
その春から呪術高専東京校に通うことが決まっていたなまえだが、胡宮家の当主が亡くなり、葬儀や後継ぎ問題等で入学が遅れた。
なまえが実際に呪術高専に通い始めたのは5月病が流行りだす連休明け、GWが開けてからだった。
同級生よりも一か月程遅れての入学。登校したなまえはまず担任の夜蛾が待つ職員室に向かい、一緒に同級生が待つ教室に向かった。夜蛾と一緒に入ってきたなまえを見る三人の同級生。男子が二人に女子が一人。
夜蛾が軽くなまえの紹介をした後、なまえも改めて自分の名前を伝え、挨拶する。
「胡宮なまえです。よろしくお願いします」
「「こやーん!」」
なまえが頭を下げると待ちきれなかったように双子がぽむぽむと煙を立ち上げ姿を現す。今まで視える側の人間が周りにいない環境だったこともあり、常に双子を“呼んだ”ままだったなまえだが、これからは呪術を扱う機関に所属することもあり、必要なときだけ、もしくは周りに人がいないときだけ双子を呼び出すようにしている。そのことに双子はとても不満な様子だが、呪術師や視える側の人間にとって双子はあくまで“妖狐”であり、妖狐は人に災いを招くものというのが共通の認識なのだ。夜蛾は双子のことをわかってくれているし、双子も夜蛾に懐いているが、不用意に人に見せてはいけないと忠告を受けたのだ。と言ってもこの双子。基本的にはなまえの言いつけを守っているが、先程のようになまえが呼ばなくてもこちら側に姿を現してしまうこともよくある。今も初めて見る高専の教室に興奮したように目を輝かせている。
「うっわ、マジで妖狐じゃん」
そんな双子を見て、銀髪にサングラスをした生徒がサングラスを少しずらして言う。そうしたことでその男子生徒の青色の眼が露わになる。
「へぇ…私も初めて視るよ」
「もふもふじゃん、かわいー」
続いてサングラスをした銀髪の男子生徒の隣に座っている、黒髪を後ろでお団子にまとめている男子生徒と右の目元に泣きぼくろがある黒髪の女子生徒も双子を興味深そうに見つめている。
双子は黒髪の女子生徒を見つけるや否やすぐさま側に駆け寄っていく。こやこやとハートマークを乱舞させるかのように尻尾を千切れんばかりに振り、甘えた声を出している。何を隠そうこの双子、綺麗で胸が大きい女の子が大好きなのである。
夜蛾から黒髪の男子生徒と女子生徒の間の席に座るよう指示を受けてなまえは席に向かう。
「ツム、サム、初対面の人にいきなり向かって行っちゃダメ。びっくりさせちゃうでしょ」
「「くやぁん」」
なまえがそう呼びかけると双子はなまえの足元に戻ってくる。するりとなまえのふくらはぎに尻尾を巻き付けて擦り寄る。ごめんね、ともう怒らないで、と甘えているのだ。双子の頭を撫でながらなまえは黒髪の女子生徒に向き合った。
「ごめんね、びっくりさせちゃって」
「大丈夫、可愛かったし」
女子生徒の返答に双子が嬉しそうに鳴く。
「金色の子が侑、銀色の子が治。よろしくね」
「ん、家入硝子。硝子でいーよ、なまえ」
軽く自己紹介を済ませたなまえたちは夜蛾の指示で運動場に来ていた。
予定していた授業内容を変えてまで出した夜蛾の指示は一つ。
「互いのことを知れ」
これから常に命がけの任務に共に取り組んでいく仲間同士、互いの実力は知っておかなくてはならない。そんな意図で出された指示で、なまえは銀髪の生徒、五条悟と向き合っていた。
「なぁ、これやる意味ある?」
なまえと対峙した五条はめんどくさそうにそう夜蛾に問う。怠そうに立つ五条からは緊張感も何もなく、自身が負けるとは微塵も思っていない態度だ。
そんな五条に双子がごやごやと怒り狂り、今にも噛み付きそうな勢いだ。毛を逆立てる双子を宥めるようになまえは身体を撫でてやる。そしてゆっくり立ち上がって五条を見据える。
「“私が”まだ未熟だから呪力込みだと五条くんに勝てないだろうけど、体術だけなら私が勝つよ」
「は?」
なんでもないことのようにさらりと告げられた言葉に、五条もようやくその気になった。
「ならやってみろよ」
そう構えた五条は動く気配がない。なまえがどんな手を使ってきても対処できると踏んだのだろう。呪力コントロールを伴わない体術の戦闘において、戦いを決する要素は色々とある。動体視力、反応の良さ。筋力の強さ、持久力。自身の身体を思うように動かせる感性、柔軟性。そこまでは五分、もしくは五条のほうが優れているかもしれない。しかし相手の動きを制する型、引き出しの多さは圧倒的になまえが勝った。
気付くと五条は腕を後ろに捻りあげられ、膝をついていた。ピタリ、と腕を拘束していない方のなまえの手が五条の首元に添えられる。
「私が今、術式を強制解除させる呪具を使っていたなら…五条くん死んでたね」
「…は、」
そっと五条の拘束を解き、身体を離したなまえに当事者の五条だけでなく、観戦していた夏油も家入も驚いた。自分たちの担任のことだ、一方的な戦いになるようなものならさせないだろうからなまえには何かあると思っていた。でも、それがまさかあの五条を呪力なしの状態とは言え、一瞬で制圧してしまう体術の使い手だとは思ってもみなかったのである。
「ハァアアアアアアア?!!」
拘束を解かれ、数十秒固まっていた五条が叫び声を上げながら復活し、再戦を申し込むまで時間はかからなかった。
あれから何度も、なまえは五条に再戦を申し込まれた。
呪力なしの状態だったとは言え、五条は負けたことをとても悔しがった。授業の合間だったり、任務帰りだったり、タイミングは様々だが何回も、何十回も五条から勝負をかけられた。
「なまえは嫌な顔一つしないね」
「?何が?」
今のところ負けなしのなまえは、どんなときでも五条からの勝負を断らなかった。任務帰りで疲れているだろうときも、嫌な顔せず勝負を受けた。
今回、放課後に勝負をかけた五条だったが、善戦の末に地面に転がされた。運動場に大の字で寝転がりながら、もう一回と駄々をこねる五条を宥めながら夏油はなまえに言った。
「悟がなまえの都合なんて考えずに何度も勝負をしに行っても、嫌な顔せずに受けるだろう?断ったところを見たことがない」
「んー、断る理由もないし」
「でも疲れているときもあるだろう?悟に無理に合わせる必要はないよ」
夏油の言い分に五条がすかさず文句を言っている。
本当にこの二人は仲が良いなぁと思いながらなまえは答えた。
「無理はしてないよ。強くなりたい、ただそれだけ」
五条との勝負を終えたなまえにすかさず寄ってきた双子を撫でながらなまえは言った。授業も任務も真剣にこなしながら、それとは別になまえが自主的にトレーニングしていることを夏油は知っていた。毎日サボることなく続けているなまえに、友達として、命を預ける仲間として、夏油は信頼を寄せていた。なまえの答えにそうか、と返して夏油は常から思っていたことをなまえに投げかける。
「ところでなまえはいつまで私たちを苗字で呼ぶのかな?」
「…へ?」
「名前で呼んでと強制するつもりはないけど、少し距離を感じて寂しいかな」
考えもしなかったことを夏油から言われ、なまえは単純に驚いた。
「…ごめん、私、友達とかできたことなくて…そういうの、わからなくて」
「お前友達いなそうだもんな」
「コラ悟」
五条が小馬鹿にすると、なまえは拗ねたように二人から視線を外した。
双子は怒ったように五条を噛み付きに行く。
「生きるのに必死だったし…」
「…胡宮家のことかい?」
「ん。…存在価値を示さないといつ殺されてもおかしくなかったから」
前当主と信介が擁護してくれていたとは言え、暗殺がないとは言い切れない。
そう考えると、学校に通い、同級生がしているように放課後に遊びに行ったり、部活動に励むという選択肢は選べなかった。生きるために強くなる術を貪欲に探すなまえは浮いた存在だった。余裕がなく、それでいいと思っていた。
双子が気遣うようになまえに擦り寄る。
「…で?お前はまだ“そんな奴ら”に怯えてんの?」
双子の猛攻を凌いだ五条が乱れた髪を整えながら言う。
夏油も静かになまえを見つめる。
「今は、そんなに…それなりに強くなったし、ツムサムもいるし」
「ハァ?!お前…ッ、」
「悟、ストップ」
何故五条が声を荒げたのかわからず首を傾げるなまえに補足するように夏油が続く。
「なまえ、授業や任務がないときはほとんどトレーニングの時間に当ててるだろう」
「毎日毎日同じことの繰り返し…見てるこっちが息苦しくなるっつの」
「なまえが無理してるとは思っていないよ。ただもう少し頼ってくれていいんだ」
「なまえ、キミにはもう侑や治だけじゃない」
「俺らがいる。それ以上になんかいるか?」
口元に笑みを浮かべて、静かになまえを見つめる夏油。
サングラスを外して、真っ直ぐなまえを見据える五条。
呪霊操術を使いこなす夏油と六眼と無下限呪術を併せ持つ五条。
難しく、等級が高い任務も二人で難なくクリアしているところを何回も見てきた。
自分たちが最強であることの自信が二人から漲っているようだった。
そしてようやく、なまえは先程五条が声を荒げた理由がわかった。自分たちの名前がなまえから挙がらなかったことが不服だったのだ。
「ふふ、そうだね。怖いものなしかもね」
「ハァ?かも、じゃなくてそうだろ」
なまえの返答に不満そうな五条と優しく笑っている夏油を見て、なまえは笑った。
嬉しかった。生い立ち上、ひとりで何でも出来なければならなかったから。
甘えたい時期に早く自立するようにと術を身に付けなければならなかったから。
何をするにしても、なまえは一人でやり遂げることを軸に考える。自分の力量以上のことはできないし、何かあっても一人で対処するよう頭の中で組み立てる。
同級生は確かに大事だけれど、ただ一緒に過ごすだけだと思っていた。同じ呪いを学ぶ場に居合わせただけだと。
でも、夏油の言葉で気が付いた。全部ひとりでする必要はないのだと。
五条の言葉で気が付いた。二人は自分のことを仲間だと思ってくれていたのだと。
ふわりと笑ったなまえの表情は今まで見たことがないもので、五条と夏油を驚かすには十分すぎるものだった。
「ありがとう、傑。悟」
初めて名前で呼んだなまえに、夏油は満足そうに笑い、五条は満更でもなさそうに顔を背けた。
今まで殺されない為に強くなりたいと思っていたなまえに新たな生きる理由ができた瞬間だった。
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