波羅夷 空却
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春の日差しが気持ちいいこの季節。桜が満開を迎えたこともあり、今日も今日とて花見に出かける私である。
日頃のトレーニングの成果もあり、落ちることなく木に登れるようになった私の最近のブームは、木に登って間近で桜を堪能することである。
一度、花びらが頭に付いているのに気付かず帰宅したら、空却くんに「洒落たもん付けてんなァ」と笑って花びらを取ってもらった。
桜の花吹雪を楽しみながら帰宅すべく歩いていると、微かに鳴き声が聞こえた。気のせいかとも思ったが、耳を澄ませると継続的に聞こえるその声。出所を探りながら歩を進めると、一匹の子猫がいた。
まだ目も開いていない生後間もないであろうその子猫を見て、すぐ駆け寄りたい気持ちになったが、ぐっと堪える。もしかしたら近くに親猫がいるかもしれない。私が不用意に近づいては親猫を警戒させてしまうかもしれないと思ったのである。しかし、暫く様子を窺うが、一向に姿を現さない親猫。心なしか子猫の鳴き声もか細くなっている気がする。近寄るべきかと一歩踏み出した時に聞こえた羽音。その音を聞いた瞬間に、子猫に向かって駆け出す。子猫に向かって飛行していたその黒い身体と子猫の間に滑り込む。カラスである。子猫の鳴き声を聞きつけて来たのであろう。私は精一杯の威嚇をする。全身の毛が逆立つ感覚を初めて体験しながら、不思議と恐怖はなかった。子猫を守りたいただ一心でカラスに向かって威嚇する。すると、カラスはそれ以上こちらに近づこうとしなかった。近くに来た私に擦り寄ってくる子猫を見て、私は決心した。子猫の首元を咥えて走り出す。私一人ではこの命を救えない。私に出来るのは助けを求めること…!嘆くよりもまずは、出来る事をしなければ!
幸いにも、子猫がいた位置からお寺はそう離れておらず、5分もしない内に帰って来れた。今日は確か十四くんが遊び…じゃなかった。修行に来る日だったはず。この時間帯なら恐らく境内の掃除をしている。予測して向かった先に二人の姿が見えた。
「あ、帰ってきたっスよ!」
私の姿を見つけて嬉しそうにこちらを見る十四くん。その声につられてこちらを見る空却くんに駆け寄り、一度子猫を離す。
「あ?子猫?」
子猫の様子を確認しようとしゃがむ空却くんの足にしがみつく。
「みゃぁ!にゃあぅ!」
助けて、助けて、私じゃこの子にミルクもあげられない。
空却くんにしがみついてしきりに鳴く私を見た後、空却くんは子猫を優しく自身の手にのせる。
「く、空却さん!その子、なんだかすごい弱ってる気が…」
十四くんも心配そうに子猫を見る。すると空却くんはすぐ立ち上がった。
「十四、桶にお湯はって持ってきてくれ!風呂の温度くらい!」
「りょ、了解っス!」
十四くんに指示を出すと、すぐさま駆け出す空却くん。
後を追うと、台所に着いた。
子猫を私に預けると、何やら戸棚をゴソゴソと漁る空却くん。恐らくミルクを用意しようとしてくれているのだろう。
私はその間子猫に寄り添い、ペロペロと子猫の身体を舐める。赤ちゃん猫は自分で体温調節が出来ないと聞いたことがある。少しでも私の体温で子猫の身体が温まるように子猫を囲って身体を丸める。
暫くすると、十四くんが桶を持ってやってきた。
「空却さん持ってきたっス!」
「そしたらお湯につけてやってくれ!」
「ぅえ?!自分がやるんスか?!」
空却くんに言われて少し不安そうな表情をした十四くんだが、子猫のか細い鳴き声を聞いて、意を決したように子猫を掌に優しくのせて、ゆっくりお湯につけていく。
顔をお湯につけないように注意しながら優しく身体をマッサージする十四くん。私はそんな十四くんに擦り寄り、子猫の様子を見守る。そんな私を見て、十四くんは優しく、それでいて力強く声をかけてくれた。
「大丈夫、絶対に元気になるっスよ」
子猫の体温が温まって来た頃、空却くんがミルクを持って来てくれた。
子猫の体温を確認すると、優しくタオルで子猫を包む空却くん。それから子猫の口に少量ずつミルクを含ませていく。
「ミルクなんてよくあったっスね」
「おー、前にも少し保護したことがあんだよ」
「うっし、上手に飲めたな」
子猫の頭を優しく撫でると、空却くんはウェットティッシュで子猫のお尻を優しく叩く。
「何してるんスか?」
「自分でトイレ出来ねェからな。こうして手伝ってやるんだよ」
空却くんの手つきはとても慣れていて、見ていてとても安心できた。子猫の鳴き声も少し元気を取り戻している感じだ。
その後、きちんと排泄が出来た子猫を見て、空却くんも十四くんも安心したように息をついた。子猫のお尻周りをキレイに拭き取った空却くんは子猫を私に預けるように降ろしてくれる。私はすぐ身体を丸めて子猫を舐める。ぬくもりを求めて擦り寄ってくる子猫を安心させるように毛づくろいする。
「すっかりお母さんっスね!」
「だな」
こうして暫くの間、子猫との共同生活が始まるのであった。