波羅夷 空却
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猫の盛りも落ち着きを見せ始め、確実に春の気配を感じられるようになった今日この頃。境内でのトレーニングに加え、最近では少しお寺の外にも出かけるようになった。日に日に広がっていく脳内マップに、新しい発見の数々。前までは外に出ることが恐かったのに、今ではすっかり散歩が好きになった。
「あんま遠くに行って迷子になるなよ」
「にゃぁん!」
今日はお寺のお使いを済ませた後、そのままお出かけするらしい空却くん。いってらっしゃいと擦り寄った時に頭を撫でてくれながら言われた言葉だ。自信満々に返事を返したその言葉を、その後キレイに回収するとはその時の私は思ってもいなかった。
猫の道はとても多い。
人の時は迂回しなければならなかった道も、猫の身体ではするすると通ることができる。グー●ルマップさんの導き出してくれる最短ルートも、猫にとっては遠回り。最近では嗅覚を活用して、他の猫に遭遇しないようにルートを選択することもできるようになってきた。着々と身についていくお散歩スキルに、ポカポカと暖かい日差し。空却くんも今日は帰りが遅くなりそうだし、私もいつもより遠出をしてみよう!とウキウキしながら新しいエリアマップを自身の脳内で作っていたのだが。
「…みゃぁう」
迷った。
どんどん先に進みすぎた。
いつもは新しい道をある程度進んだら戻り、ルートを確認するということをしていたのだが、今日はそれをしなかった。完全に浮かれきっていた。
戻り方がわからない。暫くウロウロしてみたが、わからなくなる一方である。猫の道は細分化されていて、それが便利で楽しくもあり、一度迷うとリカバリーが難しい。
とりあえず、人が通る大きい道に出ようと歩を進めると香ってくるコーヒーの匂い。匂いにつられて近寄ってみると、シックな雰囲気の喫茶店があった。素敵なところだなぁと看板の前にいると弾んだ声が聞こえてきた。
「わぁ!獄さん、猫がいるっス!」
声の方に振り返るとそこに見えたのはとても身長の高い綺麗な顔立ちの男の子と、特徴的なライダースジャケットを着こなす男性の姿が…ん?
「文字通りの看板猫だな」
「かわいいっス!」
ナゴヤディビジョンの四十物十四くんと天国獄さんでは?!
この、有名人に出くわす感覚をまた味わうことになるとは思いもしなかった。
私を怖がらせないようにだろうか、一定の距離を保った位置でこちらを見ているお二人。十四くんはスマホのカメラで写真を撮っているようだ。
割と猫に好意的なお二人に近づいてみると、十四くんはわかりやすく目を輝かせた。
「みゃぁ」
「な、撫でても平気っスかね?」
手を彷徨わせている十四くんの手にすり、と頭を擦り付けると十四くんは嬉しそうに頭を撫でてくれた。
「か、かわいい…」
「随分懐っこい猫だな」
獄さんも十四くんのそばにしゃがんでこちらを見ている。近づくと頭を撫でてくれた。
苦しゅうない、とお二人に会えたことで迷子になったことをすっかりと忘れていた私。
すると十四くんのスマホが着信を告げる。
獄さんに喉元を撫でられてゴロゴロと喉を鳴らしていた私だが、十四くんから聞こえた名前に反応する。
「もしもし、空却さん?自分はもう着いてるっス。獄さんも一緒ッスよ!」
空却くんと電話しているらしい十四くんの足元に近づき、声を上げる。
「みゃぁう!にゃぁ!」
「わ、どうしたんスか?」
空却くんに声を届けようと、十四くんの足に掴まり立ちをする。あまりにも私が鳴くので十四くんはしゃがんでくれた。近くなったスマホに向かって鳴き続ける。
「あ、いえ、実は待ち合わせの喫茶店の前に猫がいて、…え、写真?」
空却くんとなにかしらのやり取りをして、一旦電話を切った十四くんは、十四くんの膝に手を置いてカメラを見る私を撮ると、スマホを操作した。するとまたスマホが着信を告げる。
先程より近い位置だったため、私の耳にも空却くんの声が届いた。
『十四、ソイツちょっと預かっててくれ』
「一緒に待ってればいいんスか?」
『おう、拙僧ももうすぐ着く。』
『ソイツ、うちン家の猫』