波羅夷 空却
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「なぁう」
「…そんな風に鳴くなっての」
玄関で靴を履く空却くんにすりすりと擦り寄ると、しょうがねぇな、と頭を撫でてくれる空却くん。
「今日はそんなに遅くならねぇから、な?」
「…にゃぁう」
ぐずる私をあやすように撫でる空却くん。最後に私のおでこにちゅ、とキスをすると玄関のドアを開けて出かけて行った。
今まで空却くんが出かけている間は、お寺の境内でトレーニングに励んでいた私だが、ここ数日間はその習慣をやめているのだ。
数日前、トレーニングをしていた私は野良の雄猫に出くわした。普段あまり見かける事のない雄猫の様子を窺っていた私に近寄ってきた雄猫は私の背後に回ると、ふんふんと匂いを嗅ぎだした。おしりの辺りの匂いを嗅いでくるのが嫌で、距離を取るのだけれど、私の後を追ってくる雄猫。なんだか怖くなってその場から逃げだした私だが、その日はお寺の境内に普段見かけない雄猫と出くわす率が高く、その後も匂いを嗅がれたり、マーキングのようにおしっこをかけられそうになったり、最終的には追いかけまわされたりした。家の中に避難しようと、雄猫の追走から全力で逃れていたところにお出かけから帰ってきた空却くんを発見して背中に飛び掛かった。少しでも距離を取るために、スカジャンに爪を立てて肩によじ登ったことは後で空却くんに叱られたが、なんとか難を逃れたのだ。
その日の晩、いつものように空却くんの布団に一緒に入って眠っていた私だが、外からする猫の鳴き声で目を覚ました。その猫の声はいわゆる行為中に発せられるようなもので、私は今が猫の盛りの時期だとようやく気付いたのであった。
盛りの時期が終わるまでは、なるべく外出は避けようと思い、空却くんが一緒にいてくれないときには家にいるのだが、これが中々に退屈でつらいのである。人間だった時の私からはなんと贅沢な悩みだ!と怒られそうだが、ずっと家の中ですることもなくゴロゴロとしているのは中々に骨が折れる。灼空さんも空却くんのお母さんも、家にいるときは私にとても構ってくれるが、お二人ともとても忙しいので一人の時間はより増える。空却くんもなんだか最近よく誰かと連絡をとっており、出かけることも増えた。ボーっと空を見上げたり、家から見える景色を存分に眺めた後は、空却くんの部屋に行って布団に潜り込む。空却くんの匂いがする布団に潜り込むと、安心感からか気付くと寝ているのだ。
「お前またこんなとこにいたのか」
目を覚ますと、毛布を捲りあげてこちらを見ている空却くんがいた。お出かけから帰ってきたらしい。
おかえり、と擦り寄ると、ただいま、と撫でてくれる。空却くんが撫でてくれる感覚を楽しんでいると、ひょいと身体を抱えられておでこにちゅ、とキスをされる。
メス猫事件があって以来、空却くんはよく私にちゅーをするようになった。これがちゅーの認識であっているかと疑問に思う事もあるが、口を押し当てるってキスだよね…といつも落ち着かない感覚になる。口を寄せてちゅ、とされる感覚にまだ慣れなくて驚いてしまう。
「ヒャハハ、お前ちゅーするといつもビックリするな」
楽しそうに笑う空却くんが言った言葉に、やはりアレはちゅーなのか…とまた落ち着かない感覚になる。
からかうようにまたキスしてくる空却くんにささやかながら反撃をする。
「みゃぁう!」
「いて、」
空却くんのほっぺに肉球を押し当てる。
「なんだよ嫌だったか?」
「…にゃぁう」
嫌というより、心臓が持たないからやめてほしいのに、キスすると反撃してくる私が面白かったのか、その後も空却くんのキス攻撃は止まなかった。
その後、少し不貞腐れた私だが、うりうりと喉元を撫でられると気持ちよさにゴロゴロと喉が鳴ってしまい、そんな私を見て空却くんが笑う。そんなことを暫くしていたら夜が更けており、翌日起きるのが少しつらくなってしまった私たちであった。