波羅夷 空却
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私の一日は、空却くんを起こすことから始まる。
朝の三時半。スマホのアラームが鳴る。空却くんはアラームに気付いて止めるのだけれど、大抵また眠ろうと目を閉じてしまう。
「にゃぁん」
起きて起きてと顔に肉球を押し当てるが、反対側を向かれてしまう。次は身体をすりすりと押し当てる。そうすると空却くんは私を抱き込もうとしてくるのでそれを潜り抜けて、またすりすりとする。空却くんのお家でお世話になって早一週間。このやり取りも大分慣れたものだ。私を抱き込むことを諦めた空却くんは最後、毛布を頭まで被り、籠城の構えをとる。始めはこの毛布にタックルなどをして起こそうと試みたこともあったのだが(私のか弱いタックルが面白かったのか、最終的に笑いながら毛布から空却くんが出てきた)とても体力を使うので、最近では新技を使うことにしている。
「みゃぁん」
「…」
「にゃぁ」
「…」
「にゃおん」
「…」
「…なぁう」
「っだー!!わかったよ!!!」
新技泣き落としである。何度か根気強く鳴いた後、一際寂しそうな声を出すのがポイントだ。
着替え終わった空却くんと一緒に境内の掃除に向かう。定位置は空却くんの肩の上だ。一度、マフラーを忘れた空却くんの首元を温めようと肩に乗せてもらったのだが、どうやらお気に召したらしく、それ以来肩に乗るように言われるのだ。
もうすでに何人かのお坊さんが掃除を開始しており、挨拶をする。この一週間毎日空却くんといるので、お坊さんたちも私のことを覚えてくれた。
朝の掃除を終えると朝ごはんの時間だ。
空却くんはよく、灼空さんとおかずの争奪戦をしていて大変そうだ。朝からとても賑やかな波羅夷家である。
朝ごはんの後の空却くんのスケジュールは様々で、今日はこれからお出かけのようだ。スクーターの横でヘルメットを被る空却くんの足元に擦り寄る。いってらっしゃいの挨拶だ。
「なぁう」
「ちょっと出かけてくるな」
私の顔を包み込んでわしわしと撫でた後、空却くんは出かけていった。
空却くんが出かけた後の私は、トレーニングに励んでいる。ありがたくも空却くんのお家に住まわせて頂くことになった私だが、この現状に甘えることなかれ。野良の世界で全く通用しなかった自身の身体能力を少しでも向上させるべく、身体を鍛えることにしたのである。境内の人気の少ないところで、ダッシュしてみたり、木登りを試みたり。ダッシュはまだ長続きしないし、木登りをしては落下などを繰り返してはいるが、始めよりは大分出来るようになった…と信じたい。微々たる変化だけれども。それでも続けよう、継続は力なり!
トレーニングを終えて休憩していると、空却くんが帰ってきた。
おかえり、と足に擦り寄るとひょいと身体を持ち上げられて肩の上へ。お茶を飲んで休憩したらお堂で読経するのだろう。空却くんが読経している時の私の定位置は、空却くんの座っている足の上だ。始めは横に座って終わるのを待っていたのだが、最近ではひょいと足の上に乗せられる。お堂の中は少し冷えるので、私としても暖をとれるしありがたい。空却くんの声と体温が心地よくていつも途中で寝てしまう。
空却くんがお家にいる間ずっとひっつき虫の私だが、唯一空却くんから逃げる時間帯がある。それは晩御飯を食べ終わるとやってくる。
「こら逃げんな」
「にゃぁあう」
着替えを持って私を追いかけてくる空却くんから必死に逃げる。空却くんのことは大好きだが、いや、大好きだからこそ無理なのだ。
「ったく、なんで風呂になると逃げんだ…水が嫌な訳じゃねェ筈なんだが」
「なぁん」
そう、お風呂だ。お風呂だけは絶対に一緒に入る訳にはいかない。恥ずかしいし、罪悪感が半端ないのだ。私は本来とっくに成人しているのだから!!
追いかけっこの終わりはいつも空却くんのお母さんだ。
助けを求めるように空却くんのお母さんの足に擦り寄る。
「私と一緒にお風呂に入るんだから。ねー?」
「にゃぁん!」
それもとても恥ずかしいのだが…だって本来成人して社会人として働いてる人間が、人様に身体を洗ってもらうだなんて…しかし、生活していれば身体は汚れる。清潔に保つために背に腹は代えられない。空却くんのお母さんにはお手間をかけさせてしまうが甘えることにしている。お母さんが参戦してくれたことにより、空却くんはここでいつも諦めてくれるのだが、去り際に口を尖らせてのそのそとお風呂場に向かう空却くんはとても可愛いなと密かに思っている。
空却くんのお母さんと一緒にお風呂を済ませ、ドライヤーで優しく乾かしてもらった後、空却くんの部屋に向かうと大抵空却くんは先に布団の中に入っている。スマホをいじっている時もあれば、すでに夢の中だったりと様々だ。
今日はスマホをいじっていたようだが、私に気付くとスマホを床に置いた。
眠る前のこの時間、空却くんは私との時間を作ってくれている。猫じゃらしのようなもので遊んでくれたり、ひたすら頭を撫でてくれたり。疲れて先に寝てしまっていることもあるが、そういう時間を作ろうとしてくれていることがとても嬉しいのだ。喉元を撫でられ、ごろごろと喉が鳴ると、空却くんはなんだか嬉しそうな顔をする。この一週間で、空却くんが元の世界での大好きなキャラクターという感覚は大分無くなっていた。前はこう、有名人に接近してしまったかのようなドキドキ感があったのだが、今ではもっと身近に感じている。大好きという感情は日に日に増しているように思う。家族のような温かみを感じているのだ。
空却くんにたくさん撫でてもらい、心地よさを堪能してから布団に一緒に入る。すでに夢心地な私はいつもすぐに寝てしまう。この世界に来て、不安で眠れなくなるなんて事態にならないのは、空却くんのおかげだ。人の体温がこんなにも安心するものだと、初めて知った。