碧棺 左馬刻
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誰かと想いを通じ合わせることが、こんなに嬉しいことなのかと初めて知りました。
来客を告げるチャイムが鳴ったのは、左馬刻さんと想いを伝え合ってすぐのことでした。
「…アイツもう着やがった」
少し拗ねるような顔をして左馬刻さんは来客を迎えるべく、離れていきました。離れていった低めの体温に少し寂しさを感じて驚きます。自身がどんどん欲張りになっているのは感じていましたがこれほどとは…!甘えるだけでなく、左馬刻さんに甘えられるような強い女性になりたいのです!気合を入れ直していると、とても明るい声がリビングに飛び込んできました。
「やっほーなまえお姉さん★」
「飴村さん!」
飴村さんは私のところまで駆けてくると、そのままぎゅっと私の身体を抱きしめます。
「体調もう大丈夫~?」
「はい!あの、色々と助けて頂いてありがとうございました!」
飴村さんのおかげで私が誘拐されている場所がわかったと左馬刻さんからうかがっていたのです。
「大好きななまえお姉さんのためだもん★ボク頑張っちゃった!でもでも、ボク怒ってるんだから!」
「え?!」
左馬刻さんが飴村さんの首元を掴んで持ち上げます。猫のように持ち上げられた飴村さんはぷくーっと頬を膨らませて左馬刻さんに抗議していましたが、大人しくソファに座りなおしました。
「もー!話戻すけど、自分からチューブ刺すように犯人に言うなんて無茶しすぎ!メッ!だよ!!」
「うぅ…すみません」
「心配で堪らなかったんだから!ね、サマトキ?」
少し離れたところで煙草を吸っていた左馬刻さんはこちらを見て零すように言いました。
「あぁ…生きた心地しなかったわ」
「左馬刻さん…」
その言葉に、どれだけの心配をかけていたのか改めて実感しました。私が左馬刻さんの傷つく姿を見たくなかったのと同じように、左馬刻さんも思っていてくれたのでしょう。今回の私の行動は無謀で、とても自分勝手なものでした。
「あれ~?ボクタイミング見計らって来たつもりだったんだけど…まだ事件についてあんまり話してない?」
「お前来るの早ェんだよ」
「えーっ、そんなことなくない?」
そう言うと飴村さんは私を見ながら楽しそうに言います。
「それともぉ、何か他のこと話してたのかなっ?」
自身からボンッと破裂音がしたかのように思われました。顔がとても熱く感じます。
「あれれ~?お姉さんどうしたの?」
飴村さんはニコニコと楽しそうに私の顔を覗き込んでいましたが、左馬刻さんの制止の声を受け離れていきます。
「乱数…」
「ハイハイ、でもサマトキこれに関してはちゃんと叱ってあげないと!甘すぎ!」
「ま、それに関しちゃ否定しねェが…このあととんでもねェ奴が来るからな」
「え?」
「なまえ覚悟しとけ、夜銃兎が来る」
ピシリと身体が固まります。
「い、入間さんですか?」
「理鶯もな。…銃兎の説教は長ェぞ」
自身の身体が震えだすのを確かに感じたのでした。
あの後、飴村さんとは次回会うときに、ご自身がデザインされたお洋服を私がモデルとして着るという約束をしてお別れしました。以前お話を頂いた際も私がモデルなんてと恐縮していたのですが、少しでも今回のお礼ができるならとお受けしました。
そして、飴村さんが帰られて暫くすると、入間さんと理鶯さんがいらっしゃいました。
ニコニコといつも以上に笑顔で挨拶してくださった入間さんを見て、私は覚悟を決めました。これは本気で怒っていらっしゃいます…!
「まったくあなたは…自分がどれだけ危険なことをしたのかわかっていますか?」
「う、はい…」
「あなたは変に肝が据わっているからこちらとしてもとても心配なんですよ…今回はうまくいきましたが、奇跡に近い。通常ではありえません。犯人が我々の到着の前に血を戻していなかったら、あなたは確実に命を落としていた」
「…はい」
「そうなっていたら、どれだけの人が悲しむか…わかっていますね?」
「うぅ…」
人から叱られるというのが、こんなに心にくるものだとは思いませんでした。入間さんが私を思ってしてくださっていることだからこそ、とても心に刺さります。
「銃兎、一旦その辺にしとけ」
「左馬刻、お前なぁ…」
「さっき乱数からも言われてンだ。それに、オレらの態度で痛いほどわかってる」
「…それもそうだな」
その時ちょうど、夕飯の準備をしてくださっていた理鶯さんから声がかかったこともあり、左馬刻さんは料理を運ぶために理鶯さんのところへ。入間さんもそれに続こうとしていらっしゃいましたが、どうしても伝えたいことがあって私は呼び止めました。
「入間さん、私の為に本気で叱って下さってありがとうございます」
そう涙目で言うと、入間さんは目元を緩ませて笑いました。
「あなたが望むのであれば、何度だって叱りますよ」
「…叱られないように頑張ります」
理鶯さんがご用意してくださったのはカレーでした。お昼に左馬刻さんから夜に食べたいのあるかと聞かれていたのですが、まさかこの為だったとは思わずとても嬉しくなりました。理鶯さんと入間さんで食材の買い出しをしてくださったみたいで、改めてお礼を伝えました。作って頂いたカレーはとても美味しくて、夢中でもりもりと食べました。おかわりもあるぞと理鶯さんが席を立ったので私も後に続きます。カレーを温め直してくださっているのを隣で見ていると、ポンと頭を撫でられました。
「なまえ、今回はよく戦ったな」
まさかお褒めの言葉をもらえるとは思ってもおらず、私はとても穏やかに笑う理鶯さんのお顔をただただ見つめていました。
「こら理鶯、あなたまで甘やかさないでください」
「確かに褒められる行為ではなかったが、勇気のある行動だったぞ」
よそっていただいた器を受け取り、席に戻っていく理鶯さんに続きます。
「なまえは左馬刻を守りたかった。その一心だったのだろう」
そうおっしゃってくださる理鶯さんの優しさにまた涙が込み上げてきました。お二人にもとてもご迷惑をおかけしたというのに、責めるのではなく、叱り、認めてくださるお二人に感謝してもしきれません。
「お前ら揃って泣かせンな」
そんな私を左馬刻さんはギュッと抱きしめてくれました。
翌日には私の勤めている小料理屋のご主人と女将さんにも、ご心配とご迷惑をおかけしてしまったお詫びに向かいました。私がその旨を伝えると、左馬刻さんも一緒に来て一緒に頭を下げてくださいました。私がお店に姿を見せると、女将さんは駆け寄って私を抱きしめてくださいました。ご主人はとても安心したような表情でそれを見守ってくださいました。私が心配をかけてしまったことをお詫びすると、左馬刻さんが今回の件を説明してくださり、お二人に頭を下げました。左馬刻さんが全部悪いみたいに説明するので、私は「それは違います!」とちょこちょことお話に割って入り中々お話が進まず、左馬刻さんがちょっと黙ってなさいの意で私の名前を呼んだところで女将さんが笑い出します。ご主人も呆れたように笑っていらっしゃいました。
それから、左馬刻さんはお二人に私とお付き合いすることになった旨を伝えました。私は今回お詫びだけだと思っていたのでとてもビックリしました。あわあわしている私に「ご家族にはきちんと挨拶しねェとだろ」と左馬刻さんはとても真剣な表情でおっしゃいました。ご主人も女将さんも少し驚いたようでしたが、すぐに真剣な表情で「娘をよろしくお願いします」と頭を下げるものですから、私は泣いてしまいました。お二人を私の家族だと誠心誠意向き合ってくださった左馬刻さんに。私のことを娘だとおっしゃってくださるお二人に。私は暫く涙が止まらなくて、女将さんはそんな私をギュッと抱きしめてくださいました。
お二人と別れた後、私と左馬刻さんは公園に行くことにしました。私が小さい頃、よく行っていた大きなくじらさんがいるあの公園です。今日の夜は左馬刻さんの親父さまと三人でご飯を食べる約束をしているので、それまでの間少し寄り道をすることにしたのです。公園に着いたら、ずっとやりたかったことがあるのです。小さい頃、一つだけ遊べなかった遊具。小さな私は、大きな体のくじらさんから滑り下りることがどうしてもできなかったのです。公園に着いてすぐ、滑り台をしたいと言った私に左馬刻さんはついてきてくださいました。そして私が滑り台の階段を上ると反対側に回ります。階段を上りきると、滑り台の先で両手を広げて待っている左馬刻さんがいました。あの日、滑り台の上で尻込みしてしまった私を勇気づけてくれた男の子。その男の子と今の左馬刻さんが重なります。
「ホラ、来いよ」
やっぱり、間違ってなかった。私に生きる勇気をくれたあの男の子は左馬刻さんだったんですね。
私は滑り台を滑ると待ってくれていた左馬刻さんに抱き着きました。
「…私、左馬刻さんに救われてばかりですね」
「…それを言うならお互いサマだろ」
パシャーッ
急に鳴り響いた機械音にびっくりして振り返ると、携帯をこちらに向け構えている左馬刻さんの親父さまが立っていらっしゃいました。
その後ろの道路に黒塗りの大きな車が見えるので、走行中に私たちに気付き、いらっしゃったのでしょうか。
「…何してやがるクソ親父」
「お前が言い逃れできんように証拠写真を撮ろうと思ってな」
「お、親父さま!不束者ではございますが私、左馬刻さんとお付き合いをさせて頂くことになりました!今日はご挨拶をさせて頂きたく…」
「何?!結婚!!?」
「どういう耳の構造してやがんだクソ親父!!!」
ギャアギャアと賑やかに言い争うお二人を見て、思わず声を出して笑ってしまいました。そんな私をとても嬉しそうに親父さまが見るものですから、私の中でずっと可能性としてあったものが確信に変わりました。
いつの日か、親父さまのことを“お義父さん”と、
いいえ…“お父さん”と呼べる日が来るでしょうか?
家族について聞かれたら、自慢の家族ですと…ない胸を目いっぱい張って答えるでしょう。血の繋がりがなくても、目いっぱいの愛情で包んでくれたご主人と女将さん。私を姉のように慕い、支えてくれる左馬刻さんの妹さんの合歓ちゃん。産まれたばかりの左馬刻さん似の男の子を抱き締め、ボロボロと涙を流す左馬刻さんの、そして私のお父さん。それから私を常に柔らかな愛情で包んでくださる左馬刻さん。家族以外にも、たくさんの方に支えられて今の私がいます。色んな方との繋がりに、最大級の感謝を。
私はとても幸せです。
来客を告げるチャイムが鳴ったのは、左馬刻さんと想いを伝え合ってすぐのことでした。
「…アイツもう着やがった」
少し拗ねるような顔をして左馬刻さんは来客を迎えるべく、離れていきました。離れていった低めの体温に少し寂しさを感じて驚きます。自身がどんどん欲張りになっているのは感じていましたがこれほどとは…!甘えるだけでなく、左馬刻さんに甘えられるような強い女性になりたいのです!気合を入れ直していると、とても明るい声がリビングに飛び込んできました。
「やっほーなまえお姉さん★」
「飴村さん!」
飴村さんは私のところまで駆けてくると、そのままぎゅっと私の身体を抱きしめます。
「体調もう大丈夫~?」
「はい!あの、色々と助けて頂いてありがとうございました!」
飴村さんのおかげで私が誘拐されている場所がわかったと左馬刻さんからうかがっていたのです。
「大好きななまえお姉さんのためだもん★ボク頑張っちゃった!でもでも、ボク怒ってるんだから!」
「え?!」
左馬刻さんが飴村さんの首元を掴んで持ち上げます。猫のように持ち上げられた飴村さんはぷくーっと頬を膨らませて左馬刻さんに抗議していましたが、大人しくソファに座りなおしました。
「もー!話戻すけど、自分からチューブ刺すように犯人に言うなんて無茶しすぎ!メッ!だよ!!」
「うぅ…すみません」
「心配で堪らなかったんだから!ね、サマトキ?」
少し離れたところで煙草を吸っていた左馬刻さんはこちらを見て零すように言いました。
「あぁ…生きた心地しなかったわ」
「左馬刻さん…」
その言葉に、どれだけの心配をかけていたのか改めて実感しました。私が左馬刻さんの傷つく姿を見たくなかったのと同じように、左馬刻さんも思っていてくれたのでしょう。今回の私の行動は無謀で、とても自分勝手なものでした。
「あれ~?ボクタイミング見計らって来たつもりだったんだけど…まだ事件についてあんまり話してない?」
「お前来るの早ェんだよ」
「えーっ、そんなことなくない?」
そう言うと飴村さんは私を見ながら楽しそうに言います。
「それともぉ、何か他のこと話してたのかなっ?」
自身からボンッと破裂音がしたかのように思われました。顔がとても熱く感じます。
「あれれ~?お姉さんどうしたの?」
飴村さんはニコニコと楽しそうに私の顔を覗き込んでいましたが、左馬刻さんの制止の声を受け離れていきます。
「乱数…」
「ハイハイ、でもサマトキこれに関してはちゃんと叱ってあげないと!甘すぎ!」
「ま、それに関しちゃ否定しねェが…このあととんでもねェ奴が来るからな」
「え?」
「なまえ覚悟しとけ、夜銃兎が来る」
ピシリと身体が固まります。
「い、入間さんですか?」
「理鶯もな。…銃兎の説教は長ェぞ」
自身の身体が震えだすのを確かに感じたのでした。
あの後、飴村さんとは次回会うときに、ご自身がデザインされたお洋服を私がモデルとして着るという約束をしてお別れしました。以前お話を頂いた際も私がモデルなんてと恐縮していたのですが、少しでも今回のお礼ができるならとお受けしました。
そして、飴村さんが帰られて暫くすると、入間さんと理鶯さんがいらっしゃいました。
ニコニコといつも以上に笑顔で挨拶してくださった入間さんを見て、私は覚悟を決めました。これは本気で怒っていらっしゃいます…!
「まったくあなたは…自分がどれだけ危険なことをしたのかわかっていますか?」
「う、はい…」
「あなたは変に肝が据わっているからこちらとしてもとても心配なんですよ…今回はうまくいきましたが、奇跡に近い。通常ではありえません。犯人が我々の到着の前に血を戻していなかったら、あなたは確実に命を落としていた」
「…はい」
「そうなっていたら、どれだけの人が悲しむか…わかっていますね?」
「うぅ…」
人から叱られるというのが、こんなに心にくるものだとは思いませんでした。入間さんが私を思ってしてくださっていることだからこそ、とても心に刺さります。
「銃兎、一旦その辺にしとけ」
「左馬刻、お前なぁ…」
「さっき乱数からも言われてンだ。それに、オレらの態度で痛いほどわかってる」
「…それもそうだな」
その時ちょうど、夕飯の準備をしてくださっていた理鶯さんから声がかかったこともあり、左馬刻さんは料理を運ぶために理鶯さんのところへ。入間さんもそれに続こうとしていらっしゃいましたが、どうしても伝えたいことがあって私は呼び止めました。
「入間さん、私の為に本気で叱って下さってありがとうございます」
そう涙目で言うと、入間さんは目元を緩ませて笑いました。
「あなたが望むのであれば、何度だって叱りますよ」
「…叱られないように頑張ります」
理鶯さんがご用意してくださったのはカレーでした。お昼に左馬刻さんから夜に食べたいのあるかと聞かれていたのですが、まさかこの為だったとは思わずとても嬉しくなりました。理鶯さんと入間さんで食材の買い出しをしてくださったみたいで、改めてお礼を伝えました。作って頂いたカレーはとても美味しくて、夢中でもりもりと食べました。おかわりもあるぞと理鶯さんが席を立ったので私も後に続きます。カレーを温め直してくださっているのを隣で見ていると、ポンと頭を撫でられました。
「なまえ、今回はよく戦ったな」
まさかお褒めの言葉をもらえるとは思ってもおらず、私はとても穏やかに笑う理鶯さんのお顔をただただ見つめていました。
「こら理鶯、あなたまで甘やかさないでください」
「確かに褒められる行為ではなかったが、勇気のある行動だったぞ」
よそっていただいた器を受け取り、席に戻っていく理鶯さんに続きます。
「なまえは左馬刻を守りたかった。その一心だったのだろう」
そうおっしゃってくださる理鶯さんの優しさにまた涙が込み上げてきました。お二人にもとてもご迷惑をおかけしたというのに、責めるのではなく、叱り、認めてくださるお二人に感謝してもしきれません。
「お前ら揃って泣かせンな」
そんな私を左馬刻さんはギュッと抱きしめてくれました。
翌日には私の勤めている小料理屋のご主人と女将さんにも、ご心配とご迷惑をおかけしてしまったお詫びに向かいました。私がその旨を伝えると、左馬刻さんも一緒に来て一緒に頭を下げてくださいました。私がお店に姿を見せると、女将さんは駆け寄って私を抱きしめてくださいました。ご主人はとても安心したような表情でそれを見守ってくださいました。私が心配をかけてしまったことをお詫びすると、左馬刻さんが今回の件を説明してくださり、お二人に頭を下げました。左馬刻さんが全部悪いみたいに説明するので、私は「それは違います!」とちょこちょことお話に割って入り中々お話が進まず、左馬刻さんがちょっと黙ってなさいの意で私の名前を呼んだところで女将さんが笑い出します。ご主人も呆れたように笑っていらっしゃいました。
それから、左馬刻さんはお二人に私とお付き合いすることになった旨を伝えました。私は今回お詫びだけだと思っていたのでとてもビックリしました。あわあわしている私に「ご家族にはきちんと挨拶しねェとだろ」と左馬刻さんはとても真剣な表情でおっしゃいました。ご主人も女将さんも少し驚いたようでしたが、すぐに真剣な表情で「娘をよろしくお願いします」と頭を下げるものですから、私は泣いてしまいました。お二人を私の家族だと誠心誠意向き合ってくださった左馬刻さんに。私のことを娘だとおっしゃってくださるお二人に。私は暫く涙が止まらなくて、女将さんはそんな私をギュッと抱きしめてくださいました。
お二人と別れた後、私と左馬刻さんは公園に行くことにしました。私が小さい頃、よく行っていた大きなくじらさんがいるあの公園です。今日の夜は左馬刻さんの親父さまと三人でご飯を食べる約束をしているので、それまでの間少し寄り道をすることにしたのです。公園に着いたら、ずっとやりたかったことがあるのです。小さい頃、一つだけ遊べなかった遊具。小さな私は、大きな体のくじらさんから滑り下りることがどうしてもできなかったのです。公園に着いてすぐ、滑り台をしたいと言った私に左馬刻さんはついてきてくださいました。そして私が滑り台の階段を上ると反対側に回ります。階段を上りきると、滑り台の先で両手を広げて待っている左馬刻さんがいました。あの日、滑り台の上で尻込みしてしまった私を勇気づけてくれた男の子。その男の子と今の左馬刻さんが重なります。
「ホラ、来いよ」
やっぱり、間違ってなかった。私に生きる勇気をくれたあの男の子は左馬刻さんだったんですね。
私は滑り台を滑ると待ってくれていた左馬刻さんに抱き着きました。
「…私、左馬刻さんに救われてばかりですね」
「…それを言うならお互いサマだろ」
パシャーッ
急に鳴り響いた機械音にびっくりして振り返ると、携帯をこちらに向け構えている左馬刻さんの親父さまが立っていらっしゃいました。
その後ろの道路に黒塗りの大きな車が見えるので、走行中に私たちに気付き、いらっしゃったのでしょうか。
「…何してやがるクソ親父」
「お前が言い逃れできんように証拠写真を撮ろうと思ってな」
「お、親父さま!不束者ではございますが私、左馬刻さんとお付き合いをさせて頂くことになりました!今日はご挨拶をさせて頂きたく…」
「何?!結婚!!?」
「どういう耳の構造してやがんだクソ親父!!!」
ギャアギャアと賑やかに言い争うお二人を見て、思わず声を出して笑ってしまいました。そんな私をとても嬉しそうに親父さまが見るものですから、私の中でずっと可能性としてあったものが確信に変わりました。
いつの日か、親父さまのことを“お義父さん”と、
いいえ…“お父さん”と呼べる日が来るでしょうか?
家族について聞かれたら、自慢の家族ですと…ない胸を目いっぱい張って答えるでしょう。血の繋がりがなくても、目いっぱいの愛情で包んでくれたご主人と女将さん。私を姉のように慕い、支えてくれる左馬刻さんの妹さんの合歓ちゃん。産まれたばかりの左馬刻さん似の男の子を抱き締め、ボロボロと涙を流す左馬刻さんの、そして私のお父さん。それから私を常に柔らかな愛情で包んでくださる左馬刻さん。家族以外にも、たくさんの方に支えられて今の私がいます。色んな方との繋がりに、最大級の感謝を。
私はとても幸せです。
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