碧棺 左馬刻
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突き止めて向かった住所には何の変哲もないアパートが建っていた。
急いで車から出て、二階の部屋へ向かう。部屋のドアは鍵がかかっておらず、すんなりと中に入ることができた。中は家具なども置かれておらず、生活感の欠片もない。左馬刻は迷うことなく一番奥のドアを開けた。するとそこにはチューブを刺された状態で横たわるみょうじさんの姿があった。
「なまえ…!!」
左馬刻は駆け寄って彼女に刺されているチューブに手を伸ばした。
「抜いたら死ぬ。そのまま触れるな」
俺たちの背後、死角になる部屋の隅にその男はいた。部屋に入る前から取り出していたマイクの起動スイッチに指を置く。
「…どういうことだ?」
「抜いた血を戻してるところだ」
嘘を言っているようには思えないが、男から視線を外さずに左馬刻に確認する。
「左馬刻、」
「…あぁ、嘘じゃねェな」
左馬刻がチューブを確認したところで、外からサイレンの音が聞こえてくる。救急車が到着したようだ。
男に手錠をかけようと近づく。俺が近づくと両手を静かに差し出した。
「命の危険を感じれば、自分がいかに恐ろしい奴と付き合ってるかわかると思ったのに…全然言うこと聞かねぇんだもんな」
どこかスッキリとしたような表情で、男は左馬刻に言葉を投げかけた。
「案外、振り回されてんのはアンタなのかもなぁ」
その後すぐに救急隊員が到着し、左馬刻にはみょうじさんの付き添いをするように言った。
男は大人しく連行に応じ、パトカーに乗り込んだ。彼女の安否が確認できるまで気は休まらないが、ひとまず事件は収束に向かった。
ふわふわと意識が漂って、右側にぬくもりを感じます。目を覚まそうとしますが、まぶたがとても重く感じます。このまま眠っていたい、眠ってしまいたい。それでも、なぜか右側に感じるぬくもりが気になってしまって。なんだか早く目を覚まさなきゃいけない気がして。重たいまぶたを必死にこじ開けます。
「なまえ?」
あぁそうだ。私は、この人にもう一度会いたくてたまらなかったのだ。
伝えたいことがたくさんあるのに、うまく言葉が出てこない。そのぬくもりにもっと触れたいのに、うまく身体が動かない。
一筋、また一筋と涙が目から零れ落ちます。左馬刻さんは私の様子を確認するように、私の頬に手を添えて、流れる涙を指で拭ってくれていましたが、私が言葉にならない声をあげてポロポロと泣き出すと、目元を緩ませたあと、ぎゅっと抱きしめてくださいました。
「うー…」
「…悪かった」
そう謝罪する左馬刻さんに言いたいことがあるのに出てくるのは嗚咽ばかりで、私は必死に首を振りました。
泣き止まない私をあやすように暫く抱きしめながらポンポンと頭を撫でてくださった左馬刻さん。不意にぬくもりが離れていく感覚がして追いかけようとすると、唇にぬくもりを感じました。ポカンととても近い位置にある左馬刻さんのお顔を眺めていると、目元を緩めて笑うのです。
「とりあえず診てもらおうな」
涙は気付けば止まっていたのでした。
その後、お医者さまに診察していただいたのですがあまり覚えていません。心がほわほわしてしまって、せっかくしていただいた説明が頭に入ってこなくて…。念のため、今日は入院して、問題がなければ退院ということだけはわかりました。
その日、左馬刻さんはお昼頃まで一緒にいてくださいました。私がお昼ご飯をもりもり食べる様子を見て安心したようです。どうやら私が救急車で運ばれたときからずっと傍にいてくださっていたようです。意識がふわふわとしていたとき、右側に感じたぬくもりは左馬刻さんがずっと手を握ってくださっていたからだったのです。
私がお昼ご飯を食べ終わると、左馬刻さんは仕事に向かわれました。
「とりあえず今日は休め」とのことで、事件については最低限のことだけ話してくださいました。
私を誘拐した男性は、とても素直に供述をしているそうです。そして、私を助けるために色んな方が協力してくださったことも聞きました。早く御礼がしたい、そんなことを考えている間にふわふわと微睡んで、私はまた眠ったのでした。
翌日、左馬刻さんが迎えに来て下さり、私は無事退院しました。
車で自宅まで送っていただき、最低限の荷物をまとめます。車の中で左馬刻さんから、暫くウチに来いとご提案があったのです。正直、家に一人でいるのは心細く感じていたので、ありがたく甘えることにしました。
着いたのは所謂タワーマンションと呼ばれる高い建物でした。その最上階の左馬刻さんの部屋に着くと、そこから見える景色に思わずはしゃいでしまいました。一か月前、連れていってくださった夜景の場所が一望できるのです!
私が窓からの景色に夢中になっている間、左馬刻さんはコーヒーを淹れてくださっていました。私が大好きなミルクたっぷりのものです。淹れ終わると左馬刻さんは私をソファに呼びました。
「なまえ」
口に優しく甘い味が広がったところで左馬刻さんに声をかけられます。カップから左馬刻さんへ視線をずらすと、とても真剣な表情をしていました。
「オレの甘さでお前を危ない目に遭わせた…悪かった」
「謝るのは私です!私のわがままで左馬刻さんを巻き込んでしまって…」
左馬刻さんは私の為に距離を置こうとしてくれていました。それを自分の想いを優先させて傍にいたいとわがままを言ったのです。それでも、一つ決めていたこと。
「私、左馬刻さんの傍にいたいです。でも、それが左馬刻さんのご迷惑となるなら、私は諦めます」
自分に芽生えたこの気持ちは大切にしたかった。でも、大好きな左馬刻さんの気持ちも大切にしたいのです。だから、左馬刻さんが望まないのであれば、私はこの気持ちを大事に自分の中にしまうのです。
「お前にそれを言わせちまうとは、オレも不甲斐ねェ男だな」
私の頬を撫でながら左馬刻さんは言います。
「お前を一生かけて守る。離してやらねェから覚悟しとけ」
左馬刻さんから言われたことが頭の中を駆け巡ります。どうしても自分に都合のいいように受け取ってしまいそうになる。
「左馬刻さん、あの、」
左馬刻さんの言葉の真意を確かめようと口を開くと、左馬刻さんはぐっと私の身体を引き寄せ、強く抱きしめます。
「…好きだ。傍にいろ」
そう耳元で伝えられた言葉にまたポロポロと涙が零れました。
急いで車から出て、二階の部屋へ向かう。部屋のドアは鍵がかかっておらず、すんなりと中に入ることができた。中は家具なども置かれておらず、生活感の欠片もない。左馬刻は迷うことなく一番奥のドアを開けた。するとそこにはチューブを刺された状態で横たわるみょうじさんの姿があった。
「なまえ…!!」
左馬刻は駆け寄って彼女に刺されているチューブに手を伸ばした。
「抜いたら死ぬ。そのまま触れるな」
俺たちの背後、死角になる部屋の隅にその男はいた。部屋に入る前から取り出していたマイクの起動スイッチに指を置く。
「…どういうことだ?」
「抜いた血を戻してるところだ」
嘘を言っているようには思えないが、男から視線を外さずに左馬刻に確認する。
「左馬刻、」
「…あぁ、嘘じゃねェな」
左馬刻がチューブを確認したところで、外からサイレンの音が聞こえてくる。救急車が到着したようだ。
男に手錠をかけようと近づく。俺が近づくと両手を静かに差し出した。
「命の危険を感じれば、自分がいかに恐ろしい奴と付き合ってるかわかると思ったのに…全然言うこと聞かねぇんだもんな」
どこかスッキリとしたような表情で、男は左馬刻に言葉を投げかけた。
「案外、振り回されてんのはアンタなのかもなぁ」
その後すぐに救急隊員が到着し、左馬刻にはみょうじさんの付き添いをするように言った。
男は大人しく連行に応じ、パトカーに乗り込んだ。彼女の安否が確認できるまで気は休まらないが、ひとまず事件は収束に向かった。
ふわふわと意識が漂って、右側にぬくもりを感じます。目を覚まそうとしますが、まぶたがとても重く感じます。このまま眠っていたい、眠ってしまいたい。それでも、なぜか右側に感じるぬくもりが気になってしまって。なんだか早く目を覚まさなきゃいけない気がして。重たいまぶたを必死にこじ開けます。
「なまえ?」
あぁそうだ。私は、この人にもう一度会いたくてたまらなかったのだ。
伝えたいことがたくさんあるのに、うまく言葉が出てこない。そのぬくもりにもっと触れたいのに、うまく身体が動かない。
一筋、また一筋と涙が目から零れ落ちます。左馬刻さんは私の様子を確認するように、私の頬に手を添えて、流れる涙を指で拭ってくれていましたが、私が言葉にならない声をあげてポロポロと泣き出すと、目元を緩ませたあと、ぎゅっと抱きしめてくださいました。
「うー…」
「…悪かった」
そう謝罪する左馬刻さんに言いたいことがあるのに出てくるのは嗚咽ばかりで、私は必死に首を振りました。
泣き止まない私をあやすように暫く抱きしめながらポンポンと頭を撫でてくださった左馬刻さん。不意にぬくもりが離れていく感覚がして追いかけようとすると、唇にぬくもりを感じました。ポカンととても近い位置にある左馬刻さんのお顔を眺めていると、目元を緩めて笑うのです。
「とりあえず診てもらおうな」
涙は気付けば止まっていたのでした。
その後、お医者さまに診察していただいたのですがあまり覚えていません。心がほわほわしてしまって、せっかくしていただいた説明が頭に入ってこなくて…。念のため、今日は入院して、問題がなければ退院ということだけはわかりました。
その日、左馬刻さんはお昼頃まで一緒にいてくださいました。私がお昼ご飯をもりもり食べる様子を見て安心したようです。どうやら私が救急車で運ばれたときからずっと傍にいてくださっていたようです。意識がふわふわとしていたとき、右側に感じたぬくもりは左馬刻さんがずっと手を握ってくださっていたからだったのです。
私がお昼ご飯を食べ終わると、左馬刻さんは仕事に向かわれました。
「とりあえず今日は休め」とのことで、事件については最低限のことだけ話してくださいました。
私を誘拐した男性は、とても素直に供述をしているそうです。そして、私を助けるために色んな方が協力してくださったことも聞きました。早く御礼がしたい、そんなことを考えている間にふわふわと微睡んで、私はまた眠ったのでした。
翌日、左馬刻さんが迎えに来て下さり、私は無事退院しました。
車で自宅まで送っていただき、最低限の荷物をまとめます。車の中で左馬刻さんから、暫くウチに来いとご提案があったのです。正直、家に一人でいるのは心細く感じていたので、ありがたく甘えることにしました。
着いたのは所謂タワーマンションと呼ばれる高い建物でした。その最上階の左馬刻さんの部屋に着くと、そこから見える景色に思わずはしゃいでしまいました。一か月前、連れていってくださった夜景の場所が一望できるのです!
私が窓からの景色に夢中になっている間、左馬刻さんはコーヒーを淹れてくださっていました。私が大好きなミルクたっぷりのものです。淹れ終わると左馬刻さんは私をソファに呼びました。
「なまえ」
口に優しく甘い味が広がったところで左馬刻さんに声をかけられます。カップから左馬刻さんへ視線をずらすと、とても真剣な表情をしていました。
「オレの甘さでお前を危ない目に遭わせた…悪かった」
「謝るのは私です!私のわがままで左馬刻さんを巻き込んでしまって…」
左馬刻さんは私の為に距離を置こうとしてくれていました。それを自分の想いを優先させて傍にいたいとわがままを言ったのです。それでも、一つ決めていたこと。
「私、左馬刻さんの傍にいたいです。でも、それが左馬刻さんのご迷惑となるなら、私は諦めます」
自分に芽生えたこの気持ちは大切にしたかった。でも、大好きな左馬刻さんの気持ちも大切にしたいのです。だから、左馬刻さんが望まないのであれば、私はこの気持ちを大事に自分の中にしまうのです。
「お前にそれを言わせちまうとは、オレも不甲斐ねェ男だな」
私の頬を撫でながら左馬刻さんは言います。
「お前を一生かけて守る。離してやらねェから覚悟しとけ」
左馬刻さんから言われたことが頭の中を駆け巡ります。どうしても自分に都合のいいように受け取ってしまいそうになる。
「左馬刻さん、あの、」
左馬刻さんの言葉の真意を確かめようと口を開くと、左馬刻さんはぐっと私の身体を引き寄せ、強く抱きしめます。
「…好きだ。傍にいろ」
そう耳元で伝えられた言葉にまたポロポロと涙が零れました。