碧棺 左馬刻
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「どういうことですか…?」
「アンタを人質にアイツを呼び出した。今、それにアイツが応じたところだよ」
やはり私は人質に捕られてしまったようです。
理鶯さんにも、入間さんにもこうならないように協力して頂いたというのに…
男性がモニターを私に見えやすいように動かすと、画面には大勢の方に囲まれた左馬刻さんが映っていました。
「左馬刻さん…!」
「安心しなよ。アイツが大人しくボコられてる間はアンタに危害は加えないし、終わったら解放する」
自分の情けなさに涙が込み上げてきます。私のせいで左馬刻さんが危険な目に遭ってしまっている…それを避けるために強くなろうと決めたのに。
「左馬刻さんを、どうするつもりですか?」
「さぁ?俺はアイツに恨みを持ってそうな連中に、アイツの弱点を攫ったから好きにしろって伝えただけ。どうするかは、今アイツを囲んでる連中次第だね」
入間さんからの言葉を思い出します。私の無防備さは私の大切な人も傷つけることに繋がると。まさに今、そんな状況になってしまっていることに、自分の不甲斐なさに悔しさが止まりません。
それでも、諦めるわけにはいかないのです。
私、ずっと独りでした。
自分の人生を悲観したことはありません、なんて、ちょっと見栄を張りました。
でも、悲観しそうになる度に自分を奮い立たせてきました。弱音を吐くことは、幼い時公園である男の子に出会ってもうやめると決めました。
それでもやっぱり独りでした。ご近所の目というのは厳しいもので、私の家庭環境は知れ渡っていて、友達もできませんでした。
中学を出てすぐ働き始めました。そこでご主人と女将さんに出会って、私は独りではなくなりました。それでもどこかで、私はお二人に面と向かって向き合うことができていなかったように思います。お二人の優しさに甘えていたのです。本当は借金がなくなった時点で、私から「もう一度ここで働きたい」と言いたかったのです。でも、私はこわかったのです。本当はずっと、母が何も言わずに家を出て行ったことが悲しかった。さびしかったのです。私はずっと、自分の意志で誰かと一緒にいたいという勇気がなかったのです。だから、ご主人と女将さんにどうしても言えなかったのです。お二人に自身の近況を報告するなんてもっともらしいことを言って会いに行ったりして…どこかで「もう一度働かないか」という言葉をもらえることを期待していたのです。
それでも、飴村さんの話を聞いたときに、そんな自分と決別しようと決めたのです。左馬刻さんと一緒にいたいのなら、きちんと言葉で伝えて、行動しなければダメなのです…!
「…左馬刻さんが来なかったら、私をどうするつもりだったのですか?」
「時間通りに来なかったら、アンタにチューブを刺して血を抜いていくつもりだった」
そう言って男性が見せてきたのは、献血に使われているようなチューブ。
「段々弱っていくアンタをアイツに見せつけてやろうと思って。…おそらくアイツの仲間も現地にいると思うけど無駄だよ。何かあればカメラからの映像でわかるし、映像が途切れればアンタが危なくなるのは向こうもわかってる」
精々何も出来ずに歯噛みしていればいい。そう吐き捨てるように言った男性は、視線をモニターに戻します。
入間さんも理鶯さんも、画面では見えないけれど左馬刻さんの傍にいてくれている。左馬刻さんを守ろうとしてくれている。
私はお二人のように強くない。隣に立って戦うことはできないけれど。それでも、それでも、私は、左馬刻さんの傍にいたいのです。
「向こうで何かあったら、私をどうするのですか?」
「同じだよ、チューブを刺す」
モニターから視線を外さずに告げる男性に、私は一か八かの勝負を挑もうと思います。
腕力も何の力もない私ですが、唯一持ち得るもの。それは言葉。
考えて。思考を止めないで。今、持ち得る武器を持って現状を打開して。
とても器用とは言えない優しいあの人を、絶対に傷つけさせたりしない。
「私にチューブを刺してください」
「…は?」
ゆっくりと振り返る男性を見据えます。
私がいる限り、左馬刻さんたちは何もできない。左馬刻さんは自分の身を守れない。それならば、私が人質をやめてしまえばいい。
「私の、人質としての価値をなくします。チューブを刺してください」
「…アンタ、正気か?あんな奴のために死ぬつもりかよ」
「死ぬつもりはありません。あなたを説得します」
「説得?そんなのできる訳、」
「私と、どなたを重ねているのですか?」
「…は、」
「母はよく、私を通して父を見ていました。その目にそっくりなのです。私に重ねて、どなたをあなたは説得しようとしているのか…お話、聞かせていただけませんか?」
「…話を聞くだけならこのまま、」
「それではダメなのです。左馬刻さんを守れません」
「っ、なんでそこまでするんだよ!アイツはヤクザだ!命張ってまで守る価値ねぇんだよ!!」
「私は左馬刻さんにたくさん救われました」
「騙されてる…きっと後悔する」
「しませんきっと、自分で決めたことです。もともと、左馬刻さんの傍にいたいというのも私のわがままなのですから」
「…どいつもこいつも、どうしようもねぇな…」
左馬刻さんごめんなさい。あなたはきっと怒るでしょう。
それでも、どうか、戦わせてください。守られるだけはもう嫌なのです。
「そこまで言うなら、わからせてやるよ」
乱数から電話があった時、先延ばしにしていたけじめをつける時がきたと思った。ずっと離れなければと思っていた。なまえを大事に思うなら尚更、自分の傍にいれば危ない目に遭わせてしまう可能性が高くなる。チンピラや、最近ではカタギの連中に手を出すだらしねぇ構成員もいるくらいだ。オレが原因でアイツが危ない目に遭う可能性は、上げ出したら切りがない。それなのにオレは、アイツがシブヤにヘルプに行った日、未練たらしく迎えに行った。これで最後にすると自分に言い聞かせて。あの日ももう会わないと決めたなら約束通りに部下に迎えに行かせればよかったのだ。それでも、もうアイツに会うことがなくなると思ったら、最後に一度だけ、顔を見ておきたかった。アイツの声を、笑う表情を、見ておきたかった。柄にもなくそんなことを思って、アイツを迎えに行った。
ドライブに連れまわしていた時に、アイツはオレに感謝していると言った。“出会ってくれてありがとう”と、アイツ特有のふにゃふにゃした笑顔で告げてくるものだから、正直決心が揺らいだ。手放したくねェと思ってしまった。好きな女なら尚更だろ。アイツの言動一つ一つに振り回されるくらいには、オレはもうアイツに惚れているのだと、皮肉にも最後を決めた瞬間に思い知らされた。だが、だからこそ、大切にしたいからこそ、その日を境にアイツに会わないようにしたというのに…結局アイツを巻き込んでしまった。
ずっと踏み出せなかった。
ヤクザなんて職業だ、真っ当に生きてねェ。だから大切なものは遠ざけてきた。妹に対してもそうしてきた。なまえに対しても、アイツがやたら面倒事に巻き込まれるからと、離れるのを先延ばしにしてしまっていたが、最終的に離れることに迷いはなかった。この選択を変えるつもりはないくせに、一度アイツに聞いてしまったのだ。オレといることのリスクを伝えた上で、オレといるのがこわいか?と。アイツはただまっすぐにオレと会えなくなることがこわいと言った。
その時から、オレの中に一つの選択肢が増えた。アイツはいつもまっすぐに気持ちを伝えてくるし向けてくる。アイツの気持ちはわかっていた。(まぁアイツは付き合いたいだのそういうのと関係なく素直に気持ちを向けてきただけなのだろうが)アイツの気持ちに応えてしまいたいと、何度も葛藤した。それでも踏み出せなかったのは、オレがいつ、どんな死に方をするかもわからねェからだ。
生き方も真っ当じゃねェ。死に方もおそらく真っ当じゃねェ。生き抜く為には躊躇はしない。死ぬつもりは更々ないが、死ぬ覚悟はとうにできている。
アイツ泣くだろ、オレが死んだら。
ただでさえ、アイツは一度家族から置いてかれてる。アイツは強いから、いや、強くなったから普段そういう傷をおくびにも出さないが、確実にアイツに傷として残ってる。アイツの隣にいる奴はその傷を、一生かけて治してやれるような奴がいいと思った。
肝心なところで、それを忘れてしまっていたが。
柄にもなくごちゃごちゃ考えちまったが、それももうやめだ。
アイツを守って、オレ自身も生き抜く。やってやろうじゃねェか。
なまえの居場所に関しては、乱数に託すしかない。アイツの情報網の凄さはオレも知っている。だからこそ、なまえが攫われた時もすぐに連絡をした。
オレを囲んでいる連中を見据える。さて、どう切り抜けるか。
するとオレを囲んでいた連中がざわつき始めた。何事だと様子を窺っていると、マイクの起動音とビートが聞こえた。
「左馬刻!!」
振り返ると銃兎がマイクで連中を蹴散らしながらこちらに向かってきている。
「てめ、何して…!」
「左馬刻!ここは俺たちに任せてお前はみょうじさんのところへ行け!!!」
「アイツの居場所わかったのか?!」
「あぁ、だが時間がない!」
「みょうじさんの血が抜かれていってる…!」
「アンタを人質にアイツを呼び出した。今、それにアイツが応じたところだよ」
やはり私は人質に捕られてしまったようです。
理鶯さんにも、入間さんにもこうならないように協力して頂いたというのに…
男性がモニターを私に見えやすいように動かすと、画面には大勢の方に囲まれた左馬刻さんが映っていました。
「左馬刻さん…!」
「安心しなよ。アイツが大人しくボコられてる間はアンタに危害は加えないし、終わったら解放する」
自分の情けなさに涙が込み上げてきます。私のせいで左馬刻さんが危険な目に遭ってしまっている…それを避けるために強くなろうと決めたのに。
「左馬刻さんを、どうするつもりですか?」
「さぁ?俺はアイツに恨みを持ってそうな連中に、アイツの弱点を攫ったから好きにしろって伝えただけ。どうするかは、今アイツを囲んでる連中次第だね」
入間さんからの言葉を思い出します。私の無防備さは私の大切な人も傷つけることに繋がると。まさに今、そんな状況になってしまっていることに、自分の不甲斐なさに悔しさが止まりません。
それでも、諦めるわけにはいかないのです。
私、ずっと独りでした。
自分の人生を悲観したことはありません、なんて、ちょっと見栄を張りました。
でも、悲観しそうになる度に自分を奮い立たせてきました。弱音を吐くことは、幼い時公園である男の子に出会ってもうやめると決めました。
それでもやっぱり独りでした。ご近所の目というのは厳しいもので、私の家庭環境は知れ渡っていて、友達もできませんでした。
中学を出てすぐ働き始めました。そこでご主人と女将さんに出会って、私は独りではなくなりました。それでもどこかで、私はお二人に面と向かって向き合うことができていなかったように思います。お二人の優しさに甘えていたのです。本当は借金がなくなった時点で、私から「もう一度ここで働きたい」と言いたかったのです。でも、私はこわかったのです。本当はずっと、母が何も言わずに家を出て行ったことが悲しかった。さびしかったのです。私はずっと、自分の意志で誰かと一緒にいたいという勇気がなかったのです。だから、ご主人と女将さんにどうしても言えなかったのです。お二人に自身の近況を報告するなんてもっともらしいことを言って会いに行ったりして…どこかで「もう一度働かないか」という言葉をもらえることを期待していたのです。
それでも、飴村さんの話を聞いたときに、そんな自分と決別しようと決めたのです。左馬刻さんと一緒にいたいのなら、きちんと言葉で伝えて、行動しなければダメなのです…!
「…左馬刻さんが来なかったら、私をどうするつもりだったのですか?」
「時間通りに来なかったら、アンタにチューブを刺して血を抜いていくつもりだった」
そう言って男性が見せてきたのは、献血に使われているようなチューブ。
「段々弱っていくアンタをアイツに見せつけてやろうと思って。…おそらくアイツの仲間も現地にいると思うけど無駄だよ。何かあればカメラからの映像でわかるし、映像が途切れればアンタが危なくなるのは向こうもわかってる」
精々何も出来ずに歯噛みしていればいい。そう吐き捨てるように言った男性は、視線をモニターに戻します。
入間さんも理鶯さんも、画面では見えないけれど左馬刻さんの傍にいてくれている。左馬刻さんを守ろうとしてくれている。
私はお二人のように強くない。隣に立って戦うことはできないけれど。それでも、それでも、私は、左馬刻さんの傍にいたいのです。
「向こうで何かあったら、私をどうするのですか?」
「同じだよ、チューブを刺す」
モニターから視線を外さずに告げる男性に、私は一か八かの勝負を挑もうと思います。
腕力も何の力もない私ですが、唯一持ち得るもの。それは言葉。
考えて。思考を止めないで。今、持ち得る武器を持って現状を打開して。
とても器用とは言えない優しいあの人を、絶対に傷つけさせたりしない。
「私にチューブを刺してください」
「…は?」
ゆっくりと振り返る男性を見据えます。
私がいる限り、左馬刻さんたちは何もできない。左馬刻さんは自分の身を守れない。それならば、私が人質をやめてしまえばいい。
「私の、人質としての価値をなくします。チューブを刺してください」
「…アンタ、正気か?あんな奴のために死ぬつもりかよ」
「死ぬつもりはありません。あなたを説得します」
「説得?そんなのできる訳、」
「私と、どなたを重ねているのですか?」
「…は、」
「母はよく、私を通して父を見ていました。その目にそっくりなのです。私に重ねて、どなたをあなたは説得しようとしているのか…お話、聞かせていただけませんか?」
「…話を聞くだけならこのまま、」
「それではダメなのです。左馬刻さんを守れません」
「っ、なんでそこまでするんだよ!アイツはヤクザだ!命張ってまで守る価値ねぇんだよ!!」
「私は左馬刻さんにたくさん救われました」
「騙されてる…きっと後悔する」
「しませんきっと、自分で決めたことです。もともと、左馬刻さんの傍にいたいというのも私のわがままなのですから」
「…どいつもこいつも、どうしようもねぇな…」
左馬刻さんごめんなさい。あなたはきっと怒るでしょう。
それでも、どうか、戦わせてください。守られるだけはもう嫌なのです。
「そこまで言うなら、わからせてやるよ」
乱数から電話があった時、先延ばしにしていたけじめをつける時がきたと思った。ずっと離れなければと思っていた。なまえを大事に思うなら尚更、自分の傍にいれば危ない目に遭わせてしまう可能性が高くなる。チンピラや、最近ではカタギの連中に手を出すだらしねぇ構成員もいるくらいだ。オレが原因でアイツが危ない目に遭う可能性は、上げ出したら切りがない。それなのにオレは、アイツがシブヤにヘルプに行った日、未練たらしく迎えに行った。これで最後にすると自分に言い聞かせて。あの日ももう会わないと決めたなら約束通りに部下に迎えに行かせればよかったのだ。それでも、もうアイツに会うことがなくなると思ったら、最後に一度だけ、顔を見ておきたかった。アイツの声を、笑う表情を、見ておきたかった。柄にもなくそんなことを思って、アイツを迎えに行った。
ドライブに連れまわしていた時に、アイツはオレに感謝していると言った。“出会ってくれてありがとう”と、アイツ特有のふにゃふにゃした笑顔で告げてくるものだから、正直決心が揺らいだ。手放したくねェと思ってしまった。好きな女なら尚更だろ。アイツの言動一つ一つに振り回されるくらいには、オレはもうアイツに惚れているのだと、皮肉にも最後を決めた瞬間に思い知らされた。だが、だからこそ、大切にしたいからこそ、その日を境にアイツに会わないようにしたというのに…結局アイツを巻き込んでしまった。
ずっと踏み出せなかった。
ヤクザなんて職業だ、真っ当に生きてねェ。だから大切なものは遠ざけてきた。妹に対してもそうしてきた。なまえに対しても、アイツがやたら面倒事に巻き込まれるからと、離れるのを先延ばしにしてしまっていたが、最終的に離れることに迷いはなかった。この選択を変えるつもりはないくせに、一度アイツに聞いてしまったのだ。オレといることのリスクを伝えた上で、オレといるのがこわいか?と。アイツはただまっすぐにオレと会えなくなることがこわいと言った。
その時から、オレの中に一つの選択肢が増えた。アイツはいつもまっすぐに気持ちを伝えてくるし向けてくる。アイツの気持ちはわかっていた。(まぁアイツは付き合いたいだのそういうのと関係なく素直に気持ちを向けてきただけなのだろうが)アイツの気持ちに応えてしまいたいと、何度も葛藤した。それでも踏み出せなかったのは、オレがいつ、どんな死に方をするかもわからねェからだ。
生き方も真っ当じゃねェ。死に方もおそらく真っ当じゃねェ。生き抜く為には躊躇はしない。死ぬつもりは更々ないが、死ぬ覚悟はとうにできている。
アイツ泣くだろ、オレが死んだら。
ただでさえ、アイツは一度家族から置いてかれてる。アイツは強いから、いや、強くなったから普段そういう傷をおくびにも出さないが、確実にアイツに傷として残ってる。アイツの隣にいる奴はその傷を、一生かけて治してやれるような奴がいいと思った。
肝心なところで、それを忘れてしまっていたが。
柄にもなくごちゃごちゃ考えちまったが、それももうやめだ。
アイツを守って、オレ自身も生き抜く。やってやろうじゃねェか。
なまえの居場所に関しては、乱数に託すしかない。アイツの情報網の凄さはオレも知っている。だからこそ、なまえが攫われた時もすぐに連絡をした。
オレを囲んでいる連中を見据える。さて、どう切り抜けるか。
するとオレを囲んでいた連中がざわつき始めた。何事だと様子を窺っていると、マイクの起動音とビートが聞こえた。
「左馬刻!!」
振り返ると銃兎がマイクで連中を蹴散らしながらこちらに向かってきている。
「てめ、何して…!」
「左馬刻!ここは俺たちに任せてお前はみょうじさんのところへ行け!!!」
「アイツの居場所わかったのか?!」
「あぁ、だが時間がない!」
「みょうじさんの血が抜かれていってる…!」