碧棺 左馬刻
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左馬刻からその連絡を受けたのは真夜中のことだった。
「なまえが攫われた」そう俺に告げた左馬刻の声色は不気味な程平淡なもので、俺が行くまで待っていろと釘を何度も刺した。今のアイツは正直何をしでかしてもおかしくない、そう感じた。犯人からURLが送られてきて、みょうじさんの拘束されている映像が流れているというので、そのURLを送ってもらう。おそらく細工されているだろうが、部下にURLを調べるよう、電話で指示しておく。
急いで身支度を整え、車を走らせながら理鶯にも連絡をしておく。理鶯が森から出たところで合流してから向かいたいが、今は左馬刻と一刻も早く合流したほうがいいだろう。理鶯に森を出たところで待機しておくように伝えておく。
それにしても、犯人はみょうじさんをどう攫ったのか。理鶯の野営地から彼女の自宅までは俺が送り届け、部屋に入っていくところまで見届けている。ドアが閉まったあと、アパート近くの路上で左馬刻の部下が待機していたことも確認した。不審な人物が彼女の部屋に近づくことなど左馬刻の部下が許さない。外からの侵入は部下を制圧しなければ為しえない。そこまで腕っ節のある人物なのか…もしくは、彼女が家に帰った時点ですでに中に侵入していたか、だ。しかしそれも、彼女のアパート近くで待機している左馬刻の部下の目を盗んで実行しなければならない。見張りは交代で途切れないようにしていると聞いていた。交代の僅かな時間で侵入したとでもいうのだろうか。
「クソが…!」
どちらにせよ、彼女が危険な目にあっていることに変わりはない。
左馬刻の事務所につくと、自身の携帯をじっと見ている左馬刻がいた。俺が来たことに気付くと携帯を渡される。見ると椅子に縛られて俯いているみょうじさんの姿が映っていた。
「…外傷はないな」
「あぁ、体も上下に動いてる。今は眠らされてるだけだ」
「要求は?」
「何もねぇ」
「URLを探らせたんだが、細工してあって居場所はわからなかった」
左馬刻から話を聞くと、夜中に知らないアドレスからURLが送られてきたらしい。件名に“女を攫った”と記されており、URLを開くとすでに椅子に拘束された彼女の映像が流れていたようだ。急いで彼女の自宅に向かうと、見張りの部下が所定の場所におらず、彼女の部屋の中で倒れていたそうだ。その部下も今は目を覚まして話を聞くと、俺が彼女を見送って暫くすると、不自然に玄関のドアが開いたのだという。ドアは空いているのに、彼女が出てくる様子はない。不思議に思った部下は確認のため彼女の部屋のドアの前に行き、玄関から中の様子を確認すると、リビングで倒れている彼女を見て駆け寄ったそうだ。彼女に声をかけて容体を確認しようとしたところで首に衝撃を感じ、気を失ったらしい。首の外傷からして使用されたのはスタンガンのようだ。
彼女の携帯は部屋に残されていたらしく、左馬刻の連絡先の情報を得たあと、我々に情報を漏らさないために故意に置いて行ったのだろう。
こちらはまるで情報を得られていないことに加えて、火貂退紅は今、会合に出ていて留守にしているらしい。新幹線を使ってもすぐには帰ってこれない。舎弟たちにも呼びかけて情報を集めているが、今のところ有益な情報は入ってきていないそうだ。
犯人からの要求もなく、八方塞な状況の中、左馬刻の携帯が鳴る。非通知なのを確認し、左馬刻にスピーカーにしてもらう。
「30分以内にコンテナヤードに来い。さもなくば女を殺す」
それだけを告げてすぐに切られた電話。左馬刻は何も言わずに歩き出す。
「待て左馬刻、この状況で行っても事態は何も変わらない。せめて敵の情報を何か掴まねぇと、」
「情報なんていくら調べても出てこなかっただろうが!!」
振り返って怒鳴る左馬刻の表情を見て、気付く。落ち着いて見えただけで、冷静さを完全に失っている。
「オレが行かなきゃアイツが死ぬんだよ!!!」
「、わかった!ならせめて理鶯と合流させてくれ!もう森を出て待機してくれているはずだ!」
「そんなことしてる間に、アイツに何かあったら…!」
「ヤッホー!サッマトキ~!」
左馬刻が出ようとしていたドアから、この場にそぐわない明るい声が飛び込んできた。
「…は、乱数?」
「失礼するぞ」
「理鶯、なぜ一緒に…?」
「森を出たところで出くわしてな」
「ボクもサマトキのとこに向かうとこだったから連れてきたよ~★」
予想もしていなかった組み合わせに驚かされたが助かった。あの状態の左馬刻は一人では止められない。
「乱数、なんでテメェがここに…ッ、何か掴んだのか?!」
「犯人はわかったよん★ただ、居場所までは掴めてない。今もお姉さんたちに探ってもらってるけど、まだしばらくかかりそう」
居場所はまだわからない、そう聞いて左馬刻はドアに向かおうとする。
「待ってよサマトキ、情報も何も聞かずに行くわけ?」
「30分以内に行かねぇとアイツが危ねぇんだよ」
「このまま行ってもサマトキがボコボコにされちゃうだけだよ?」
「オレはどうでもいいんだよ!!アイツが、」
「どうでもよくねぇから言ってんだよ」
「「…???」」
聞いたことがない重低音が聞こえたんだが…
念のため理鶯を見る。飴村乱数を落ち着いた眼差しで見ている。
左馬刻を見る。俺と同じで状況がわかっていないらしい。がしかし、飴村乱数を見て固まっている。
この場には俺と、左馬刻と、理鶯と、それから飴村乱数しかいない。ということはなんだ、今の重低音は飴村乱数から発せられたのか…?
俺たちが固まっている間に、飴村乱数は左馬刻に近づいていく。そしていつもの聞きなれた調子で話し出す。
「ねぇサマトキ。なまえお姉さんと食事したときにさ、ボク聞いたの。“サマトキの傍にいたら、人質にされちゃうかもしれない。サマトキに守ってもらうか、離れるか。お姉さんはどうするの?”ってさ。そしたらお姉さんなんて言ったと思う?」
その時のことを思い出してか、飴村乱数は面白そうに、そしてどこかあたたかさを滲ませた目で言った。
「“強くなる”って言ったの。“一緒にいたいから”って」
「なのにサマトキってばお姉さんと距離置こうとするしさ~お姉さんはとっくに腹決めてるのに。いい加減腹括れってぶん殴ってやろうと思って、電話じゃなくて直接ここに来たってワケ★」
何も言わない左馬刻を見上げて、飴村乱数は物騒な言葉を使いつつ、それとはそぐわない表情で左馬刻に言葉を投げかける。
「サマトキ、もう一度聞くね。お姉さんの言葉を聞いても、さっきと同じこと言える?自分のことどうでもいいって言える?」
左馬刻は動かない。何かを考えているようだったが、そこに先ほどまでの焦りは感じなかった。
「乱数ァ」
「なぁに?」
「殴れ」
「な、左馬刻?!」
何を言い出すんだと止めに入ろうとするが理鶯に手で制される。
「…いいの?ボク容赦なく顔面にいくけど」
「おー」
「それじゃ、遠慮なくいくね★」
えいっと可愛らしい掛け声とはかけ離れた鈍い殴打音が事務所に響いた。左馬刻が軽く吹っ飛ぶのを見て、俺が今まで認識していた飴村乱数は恐ろしく事実とかけ離れたものであると認識を改めた。
「っつ、…乱数、今回は礼を言う」
顔を押さえながら立ち上がった左馬刻は憑き物がとれたみたいに晴れやかな顔つきをしていた。
「目ェ覚めたわ」
「なまえが攫われた」そう俺に告げた左馬刻の声色は不気味な程平淡なもので、俺が行くまで待っていろと釘を何度も刺した。今のアイツは正直何をしでかしてもおかしくない、そう感じた。犯人からURLが送られてきて、みょうじさんの拘束されている映像が流れているというので、そのURLを送ってもらう。おそらく細工されているだろうが、部下にURLを調べるよう、電話で指示しておく。
急いで身支度を整え、車を走らせながら理鶯にも連絡をしておく。理鶯が森から出たところで合流してから向かいたいが、今は左馬刻と一刻も早く合流したほうがいいだろう。理鶯に森を出たところで待機しておくように伝えておく。
それにしても、犯人はみょうじさんをどう攫ったのか。理鶯の野営地から彼女の自宅までは俺が送り届け、部屋に入っていくところまで見届けている。ドアが閉まったあと、アパート近くの路上で左馬刻の部下が待機していたことも確認した。不審な人物が彼女の部屋に近づくことなど左馬刻の部下が許さない。外からの侵入は部下を制圧しなければ為しえない。そこまで腕っ節のある人物なのか…もしくは、彼女が家に帰った時点ですでに中に侵入していたか、だ。しかしそれも、彼女のアパート近くで待機している左馬刻の部下の目を盗んで実行しなければならない。見張りは交代で途切れないようにしていると聞いていた。交代の僅かな時間で侵入したとでもいうのだろうか。
「クソが…!」
どちらにせよ、彼女が危険な目にあっていることに変わりはない。
左馬刻の事務所につくと、自身の携帯をじっと見ている左馬刻がいた。俺が来たことに気付くと携帯を渡される。見ると椅子に縛られて俯いているみょうじさんの姿が映っていた。
「…外傷はないな」
「あぁ、体も上下に動いてる。今は眠らされてるだけだ」
「要求は?」
「何もねぇ」
「URLを探らせたんだが、細工してあって居場所はわからなかった」
左馬刻から話を聞くと、夜中に知らないアドレスからURLが送られてきたらしい。件名に“女を攫った”と記されており、URLを開くとすでに椅子に拘束された彼女の映像が流れていたようだ。急いで彼女の自宅に向かうと、見張りの部下が所定の場所におらず、彼女の部屋の中で倒れていたそうだ。その部下も今は目を覚まして話を聞くと、俺が彼女を見送って暫くすると、不自然に玄関のドアが開いたのだという。ドアは空いているのに、彼女が出てくる様子はない。不思議に思った部下は確認のため彼女の部屋のドアの前に行き、玄関から中の様子を確認すると、リビングで倒れている彼女を見て駆け寄ったそうだ。彼女に声をかけて容体を確認しようとしたところで首に衝撃を感じ、気を失ったらしい。首の外傷からして使用されたのはスタンガンのようだ。
彼女の携帯は部屋に残されていたらしく、左馬刻の連絡先の情報を得たあと、我々に情報を漏らさないために故意に置いて行ったのだろう。
こちらはまるで情報を得られていないことに加えて、火貂退紅は今、会合に出ていて留守にしているらしい。新幹線を使ってもすぐには帰ってこれない。舎弟たちにも呼びかけて情報を集めているが、今のところ有益な情報は入ってきていないそうだ。
犯人からの要求もなく、八方塞な状況の中、左馬刻の携帯が鳴る。非通知なのを確認し、左馬刻にスピーカーにしてもらう。
「30分以内にコンテナヤードに来い。さもなくば女を殺す」
それだけを告げてすぐに切られた電話。左馬刻は何も言わずに歩き出す。
「待て左馬刻、この状況で行っても事態は何も変わらない。せめて敵の情報を何か掴まねぇと、」
「情報なんていくら調べても出てこなかっただろうが!!」
振り返って怒鳴る左馬刻の表情を見て、気付く。落ち着いて見えただけで、冷静さを完全に失っている。
「オレが行かなきゃアイツが死ぬんだよ!!!」
「、わかった!ならせめて理鶯と合流させてくれ!もう森を出て待機してくれているはずだ!」
「そんなことしてる間に、アイツに何かあったら…!」
「ヤッホー!サッマトキ~!」
左馬刻が出ようとしていたドアから、この場にそぐわない明るい声が飛び込んできた。
「…は、乱数?」
「失礼するぞ」
「理鶯、なぜ一緒に…?」
「森を出たところで出くわしてな」
「ボクもサマトキのとこに向かうとこだったから連れてきたよ~★」
予想もしていなかった組み合わせに驚かされたが助かった。あの状態の左馬刻は一人では止められない。
「乱数、なんでテメェがここに…ッ、何か掴んだのか?!」
「犯人はわかったよん★ただ、居場所までは掴めてない。今もお姉さんたちに探ってもらってるけど、まだしばらくかかりそう」
居場所はまだわからない、そう聞いて左馬刻はドアに向かおうとする。
「待ってよサマトキ、情報も何も聞かずに行くわけ?」
「30分以内に行かねぇとアイツが危ねぇんだよ」
「このまま行ってもサマトキがボコボコにされちゃうだけだよ?」
「オレはどうでもいいんだよ!!アイツが、」
「どうでもよくねぇから言ってんだよ」
「「…???」」
聞いたことがない重低音が聞こえたんだが…
念のため理鶯を見る。飴村乱数を落ち着いた眼差しで見ている。
左馬刻を見る。俺と同じで状況がわかっていないらしい。がしかし、飴村乱数を見て固まっている。
この場には俺と、左馬刻と、理鶯と、それから飴村乱数しかいない。ということはなんだ、今の重低音は飴村乱数から発せられたのか…?
俺たちが固まっている間に、飴村乱数は左馬刻に近づいていく。そしていつもの聞きなれた調子で話し出す。
「ねぇサマトキ。なまえお姉さんと食事したときにさ、ボク聞いたの。“サマトキの傍にいたら、人質にされちゃうかもしれない。サマトキに守ってもらうか、離れるか。お姉さんはどうするの?”ってさ。そしたらお姉さんなんて言ったと思う?」
その時のことを思い出してか、飴村乱数は面白そうに、そしてどこかあたたかさを滲ませた目で言った。
「“強くなる”って言ったの。“一緒にいたいから”って」
「なのにサマトキってばお姉さんと距離置こうとするしさ~お姉さんはとっくに腹決めてるのに。いい加減腹括れってぶん殴ってやろうと思って、電話じゃなくて直接ここに来たってワケ★」
何も言わない左馬刻を見上げて、飴村乱数は物騒な言葉を使いつつ、それとはそぐわない表情で左馬刻に言葉を投げかける。
「サマトキ、もう一度聞くね。お姉さんの言葉を聞いても、さっきと同じこと言える?自分のことどうでもいいって言える?」
左馬刻は動かない。何かを考えているようだったが、そこに先ほどまでの焦りは感じなかった。
「乱数ァ」
「なぁに?」
「殴れ」
「な、左馬刻?!」
何を言い出すんだと止めに入ろうとするが理鶯に手で制される。
「…いいの?ボク容赦なく顔面にいくけど」
「おー」
「それじゃ、遠慮なくいくね★」
えいっと可愛らしい掛け声とはかけ離れた鈍い殴打音が事務所に響いた。左馬刻が軽く吹っ飛ぶのを見て、俺が今まで認識していた飴村乱数は恐ろしく事実とかけ離れたものであると認識を改めた。
「っつ、…乱数、今回は礼を言う」
顔を押さえながら立ち上がった左馬刻は憑き物がとれたみたいに晴れやかな顔つきをしていた。
「目ェ覚めたわ」