山田 一郎
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ふと頭を撫でられる感覚に目を覚ました。
この日は定休日。前日からの生理に苦しめられ、朝からベッドに張り付く生活をしていたのだが。
「…いちろ?」
「おー、起きたか。寝てるとき眉間にしわ寄ってたぞ」
頭を撫でる感覚の正体は一郎だったようだ。
うちは一階がカフェで、二階が自宅スペースになっている。自宅には裏口から階段を上がって入れるようになっており、一郎には合鍵を渡してある。どうやら朝連絡したにも関わらず、既読にもならない私を心配して来てくれたようだ。
「頭いたい…」
「薬は?」
「飲んだ…」
「なんか飲むか?あったかいのか…それかあれ買ってきたぞ鉄分のやつ」
「鉄分の飲む…」
私が生理と言わなくてもなんとなく察してくれる一郎。お休みの日に生理のときはとにかく寝まくるので、時期と連絡が一向につかないことからなんとなく察して買い物までしてきてくれたのだろう。
冷蔵庫から取り出してくれたので受け取って飲む。ベッドをポンポンと叩くと腰掛けてくれたので、すかさず一郎の膝の上に横向きに座って擦り寄る。するとすかさず頭を撫ででくれる。頭痛が少し和らぐ気がするから私も現金な奴である。
「もうちょい寝るか?」
「んぅ」
一郎の体温が温かくて微睡む。このまま意識を手放してしまいたいのだけれど、その前にトイレに行って換えてこないと…二日目だとあっという間に血だらけになってしまうのだ。断腸の思いで一郎から離れてまずトイレへ。血が足りなくてフラフラしながらも無事ミッションコンプリート。一郎の待つベッドへ。
一郎にギュッと抱きしめてもらってベッドに横になる。一郎いつ抱き着いても体温が高くて、生理中はついついくっついてしまうのだ。恐るべき吸引力。変わらない吸引力。
一郎の温度に浸食されて、早くも微睡み始める。
「いちろ、帰る?」
「今日は泊まるって言ってきた」
「平気?」
「あぁ、二郎も三郎も大丈夫だ」
だから安心して寝ていいぞ。一郎の温度が優しく包み込んでくれる。この瞬間どうしようもなく幸せを感じるんだよなぁ。
「天然湯たんぽいちろー…」
「ぶはっ」
耳元で空気が破裂した。しばらくくつくつと喉を震わせたあと、より一層強く抱きしめてくれた。
「お前専用な」
それはとても贅沢な一品だ。一生手放せそうにない。
一郎は一郎で、恋人が普段からは考えられないくらいぐずぐずに甘えてくれるこのときがたまらなく幸せだ。もちろん本人は症状に苦しんでいるので言えないが、このやたらと男前な彼女はこういうときにしか甘えてくれないのだ。彼氏としてはそれが少しさびしくもあり、またそんな彼女にどうしようもなく惚れている。彼女は出会ったときからかっこよかった。
彼女との出会いは二年前に遡る。俺がまだTDDのとき、ひとりでいるところを不覚にも違法マイクの攻撃を受け、窮地に立たされた時のことだ。違法マイクで先制攻撃を受けてからもなんとかやりあっていたが、多勢に無勢。どんどん追い込まれていき、ついに膝をついたときに彼女は現れた。膝をついた俺に気を良くして一度違法マイクのスイッチを切った瞬間を狙って彼女は背後から現れて一人の男の腕を捻りあげて違法マイクを奪った。女だからか、力で制圧できると思った男たちが彼女を取り押さえようとするが、彼女によってことごとく投げ飛ばされていた。その際違法マイクを回収することを忘れない。そんな中、攻撃が当たらないとわかり、残りの男たちが違法マイクのスイッチを入れようとする。咄嗟に耳を塞ごうとする彼女の前に立ち、男たちを見据える。
「させるかよ」
父親が警察官だという彼女は俺のラップに気を失った連中から違法マイクを回収していく。俺もそれを手伝う。
「さっきは庇ってくれてありがとう」
「いや、そもそも俺が助けられたんで…」
辺りをぐるりと一周見て全部回収したことを確認すると、彼女はこちらに近づいてきた。
「気分どう?大丈夫?」
「だいぶマシになりました」
「今はまだ症状出てないものもあるかもしれないから、きちんと病院に行ってね」
「…っす」
いつの間に呼んでいたのかタクシーが俺たちの傍で停車する。タクシーに乗り込む彼女を見送ってから帰ろうと思っていたら背中を押され、タクシーに乗せられた。状況を呑み込めていない俺にお金を握らせ、運転手に近くの病院までと告げてドアを閉めさせる彼女。俺をひとりにしたら病院に行かないことも見透かされていたのだろう。それじゃお大事に、としてやったりな笑顔を浮かべ、名乗ることもなく颯爽と去って行った彼女に、今思えばこのときから惚れていたのだろう。恋とは無縁の生活を送っていた俺は自覚するのに少し時間がかかったのだ。
後日、彼女が先日の連中に囲まれているのを今度は俺が助けて以来、なまえと俺の本格的な交流が始まる。余談だが、この日以来なまえは喧嘩の仲裁に入るときはサングラスをしたり帽子を被ったりという軽い変装をするようになったらしい。(後日絡まれるのが面倒とのこと)
彼氏としては、そもそもそういう場に居合わせても自分の身を守ることだけに専念してほしいものだが、この男前な彼女はそれを聞き入れてはくれないことは今までの付き合いでわかっている。惚れたもん負けとはよく言ったものである。
この日は定休日。前日からの生理に苦しめられ、朝からベッドに張り付く生活をしていたのだが。
「…いちろ?」
「おー、起きたか。寝てるとき眉間にしわ寄ってたぞ」
頭を撫でる感覚の正体は一郎だったようだ。
うちは一階がカフェで、二階が自宅スペースになっている。自宅には裏口から階段を上がって入れるようになっており、一郎には合鍵を渡してある。どうやら朝連絡したにも関わらず、既読にもならない私を心配して来てくれたようだ。
「頭いたい…」
「薬は?」
「飲んだ…」
「なんか飲むか?あったかいのか…それかあれ買ってきたぞ鉄分のやつ」
「鉄分の飲む…」
私が生理と言わなくてもなんとなく察してくれる一郎。お休みの日に生理のときはとにかく寝まくるので、時期と連絡が一向につかないことからなんとなく察して買い物までしてきてくれたのだろう。
冷蔵庫から取り出してくれたので受け取って飲む。ベッドをポンポンと叩くと腰掛けてくれたので、すかさず一郎の膝の上に横向きに座って擦り寄る。するとすかさず頭を撫ででくれる。頭痛が少し和らぐ気がするから私も現金な奴である。
「もうちょい寝るか?」
「んぅ」
一郎の体温が温かくて微睡む。このまま意識を手放してしまいたいのだけれど、その前にトイレに行って換えてこないと…二日目だとあっという間に血だらけになってしまうのだ。断腸の思いで一郎から離れてまずトイレへ。血が足りなくてフラフラしながらも無事ミッションコンプリート。一郎の待つベッドへ。
一郎にギュッと抱きしめてもらってベッドに横になる。一郎いつ抱き着いても体温が高くて、生理中はついついくっついてしまうのだ。恐るべき吸引力。変わらない吸引力。
一郎の温度に浸食されて、早くも微睡み始める。
「いちろ、帰る?」
「今日は泊まるって言ってきた」
「平気?」
「あぁ、二郎も三郎も大丈夫だ」
だから安心して寝ていいぞ。一郎の温度が優しく包み込んでくれる。この瞬間どうしようもなく幸せを感じるんだよなぁ。
「天然湯たんぽいちろー…」
「ぶはっ」
耳元で空気が破裂した。しばらくくつくつと喉を震わせたあと、より一層強く抱きしめてくれた。
「お前専用な」
それはとても贅沢な一品だ。一生手放せそうにない。
一郎は一郎で、恋人が普段からは考えられないくらいぐずぐずに甘えてくれるこのときがたまらなく幸せだ。もちろん本人は症状に苦しんでいるので言えないが、このやたらと男前な彼女はこういうときにしか甘えてくれないのだ。彼氏としてはそれが少しさびしくもあり、またそんな彼女にどうしようもなく惚れている。彼女は出会ったときからかっこよかった。
彼女との出会いは二年前に遡る。俺がまだTDDのとき、ひとりでいるところを不覚にも違法マイクの攻撃を受け、窮地に立たされた時のことだ。違法マイクで先制攻撃を受けてからもなんとかやりあっていたが、多勢に無勢。どんどん追い込まれていき、ついに膝をついたときに彼女は現れた。膝をついた俺に気を良くして一度違法マイクのスイッチを切った瞬間を狙って彼女は背後から現れて一人の男の腕を捻りあげて違法マイクを奪った。女だからか、力で制圧できると思った男たちが彼女を取り押さえようとするが、彼女によってことごとく投げ飛ばされていた。その際違法マイクを回収することを忘れない。そんな中、攻撃が当たらないとわかり、残りの男たちが違法マイクのスイッチを入れようとする。咄嗟に耳を塞ごうとする彼女の前に立ち、男たちを見据える。
「させるかよ」
父親が警察官だという彼女は俺のラップに気を失った連中から違法マイクを回収していく。俺もそれを手伝う。
「さっきは庇ってくれてありがとう」
「いや、そもそも俺が助けられたんで…」
辺りをぐるりと一周見て全部回収したことを確認すると、彼女はこちらに近づいてきた。
「気分どう?大丈夫?」
「だいぶマシになりました」
「今はまだ症状出てないものもあるかもしれないから、きちんと病院に行ってね」
「…っす」
いつの間に呼んでいたのかタクシーが俺たちの傍で停車する。タクシーに乗り込む彼女を見送ってから帰ろうと思っていたら背中を押され、タクシーに乗せられた。状況を呑み込めていない俺にお金を握らせ、運転手に近くの病院までと告げてドアを閉めさせる彼女。俺をひとりにしたら病院に行かないことも見透かされていたのだろう。それじゃお大事に、としてやったりな笑顔を浮かべ、名乗ることもなく颯爽と去って行った彼女に、今思えばこのときから惚れていたのだろう。恋とは無縁の生活を送っていた俺は自覚するのに少し時間がかかったのだ。
後日、彼女が先日の連中に囲まれているのを今度は俺が助けて以来、なまえと俺の本格的な交流が始まる。余談だが、この日以来なまえは喧嘩の仲裁に入るときはサングラスをしたり帽子を被ったりという軽い変装をするようになったらしい。(後日絡まれるのが面倒とのこと)
彼氏としては、そもそもそういう場に居合わせても自分の身を守ることだけに専念してほしいものだが、この男前な彼女はそれを聞き入れてはくれないことは今までの付き合いでわかっている。惚れたもん負けとはよく言ったものである。