山田 一郎
夢小説設定
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今日は朝から最悪だった。
朝寒気で目が覚めてやってしまったと思った。おそらくこれからどんどん熱が出始めるだろうことは予想がついたが、今日は依然うちの会社のミスで迷惑をかけてしまったお得意先への謝罪もこめた訪問を控えているのだ。きちんと謝罪をして、今回の商品の資料を届けなければ今までの信頼関係にひびが入る。失った信頼関係は取り戻すのがとても難しい。ハゲ課長の嫌味も倍以上になること間違いなしだ。
そんなこんなで市販の風邪薬を飲んで出勤。訪問の時間までデスクワークをこなし、お昼近くに訪問先に行くべく電車に乗った。
まではなんとかなったのだが、電車に乗って座ること数分、体調が一気に悪化してきたのだ。寒気と吐き気で冷や汗をとてもかいている。目を瞑ってやりすごそうとするが吐き気はひどくなりえずいてしまう。袋の類も持っていないしこれはまずいと思い、目的の駅ではないが慌てて席を立ち電車を降りる。なんとかトイレを目指そうと歩き出すも視界がくらくらと揺れ始めた。もういっそ気を失ってしまいたい…極限状態でそう思っていると声をかけられた。
「大丈夫ですか?気持ち悪いなら座っちゃいましょう、袋もあるので安心してください」
そう声をかけると男性はその場にすぐしゃがみこんだ。限界が近かったのだろう。口元に袋を持っていくと口を中に入れるが、えずく一方で吐けないみたいだ。背中を摩りながら今日一緒に買い物に行こうと待ち合わせしているジロちゃんに連絡する。するとジロちゃんもこっちに向かってくれるらしい。正直とてもありがたい。
このサラリーマンの男の人は電車に乗ってきたときから具合が悪そうで気になっていたのだ。明らかに顔色が悪いし、途中から口元を抑えてえずき始めてしまったので声をかけようとしたら慌てて降りて行ったので後を追ったのだ。
「姉ちゃん!」
「ジロちゃん~!」
「これ飲み物!必要かと思って…ってドッポ?!」
「知り合い?」
「シンジュクデビィジョンの代表だよ」
「通りで見覚えがあると思った…あの!飲み物飲めますか?」
ペットボトルのキャップを外して渡すと飲んでくれた。しゃがんだことで少し吐き気も収まってきたのだろう、独歩さん(苗字がわからないのでそう呼ばせて頂こう)はポツリポツリと話し始めた。
「あの、すみません。ご迷惑をお掛けしてしまって…」
「全然ですよ」
「二郎くんもありがとう、飲み物…」
「おー!」
するとふらふらと立ち上がる独歩さん。ジロちゃんがすかさず支える。
「あの、少し気分もよくなったのでもう大丈夫です」
「ダメですよ、それはあくまで一時的なもので、まだ体調は回復してないです」
「でも、どうしても行かなきゃいけないところがあって…」
話を聞くと取引先に資料を届けに行かなければならないらしい。謝罪も込めているので絶対に今日の約束を違える訳にはいかないとのことだった。
「…わかりました、その資料私が届けます。場所だけ教えていただけますか?」
「いや、そこまでして頂くのは…これ以上迷惑かけられないですし…」
「何言ってるんですか!体調が悪いのに頑張って出勤して、電車の中でも周りの人のこと考えて吐きたいのを我慢して…もう十分です。いいんですよ、たまには人に任せちゃっても」
でも…と渋る独歩さんにジロちゃんが畳み掛ける。
「ここは姉ちゃんに任せようぜ。つか、俺が強引にでも病院に連れて行くかんな」
独歩さんのことを思って、わざと強い言葉で言ったジロちゃんに独歩さんも折れてくれた。
「そうしたらお願いできますか…?」
「もちろんです!」
独歩さんから資料を受け取り、さっそく電車に乗り込む。ジロちゃんにはタクシー代を渡して近くの病院に独歩さんを連れて行くようにお願いした。また気分が悪くなってきた独歩さんを見て、無理させなくてよかったと思った。ジロちゃんが一郎に連絡し、寂雷さんに独歩さんの病院を伝えると言ってくれたので安心して任せられる。私はまず、この資料を責任を持って届けよう。
ふと意識が浮上する。まだ眠っていたいという気持ちと、何かを忘れているようなそんな葛藤がせめぎ合いつつ目を開ける。すると見知った人物が二人、俺のことを覗き込んでいた。
「独歩くん、気分はどうだい?」
「よかった、目を覚まして」
「先生…一二三?どうして…」
「一郎くんから連絡をもらってね、独歩くんが体調を崩してこの病院にいると」
「それで連絡を受けた先生が僕を連れて、車でここまで送ってくれたってわけさ」
病院ということで看護婦さんたちがいても大丈夫なようにだろう、一二三はいつものスーツを着ていた。
「二人とも…本当にありがとうございます」
「困ったときはお互い様だよ、私たちは仲間なのだから」
「先生…」
一二三を見るととても優しい表情で頷いていた。俺はつくづく、素敵な仲間を持ったんだなと実感した。
「独歩くん、今日一日なら入院もできるみたいなんだがどうする?」
「あ、いや、そこまでは大丈夫です。帰ります」
「なら私の車で送ろう」
「あ、先生すみません。上司に連絡だけさせて頂けますか?恐らく怒り心頭なので…」
結局、二郎くんに連れられ、タクシーに乗り込んだ瞬間意識を手放してしまい、上司にも取引先にも連絡出来ていなかったのだ。どれだけ怒られればいいのだろうと落ち込んでいると先生が笑った。
「その件なら独歩くん、君の上司から今日から5日間程のお休みを頂いているよ」
「え?!!」
「詳しい話は車の中でしよう」
車の中で話されたのは次の通り。
資料を無事届けたなまえさん(先生はTDDの時に彼女と知り合っており、名前を教えてくれた)が病院に着いた時には先生も一二三も到着していたらしい。先生と一二三に挨拶をした彼女は続けて俺の携帯を貸してくれないかと一二三にお願いをしたらしい。俺の上司に今回のことを報告したいからと。彼女の人柄を知っていた先生は大丈夫だよと一二三に伝えて、一二三も了承した。携帯を使用するためにその場を離れた彼女を一二三は念のため後を追ったらしい。ハゲ課長の携帯に電話をかけたらしい彼女は急な連絡をしたことへの謝罪、俺が体調を崩して病院にいること、彼女が資料を届けたことは伏せて俺が漲る責任感で資料を先方に届けたこと、その姿に課長の部下指導が素晴らしいんですねと褒めちぎり、気を良くしたのだろう課長にすかさず俺のお休みを交渉し、無事お休みをもぎ取ったところで忙しい中時間を頂いたことへの感謝を述べ、通話を終わらせたのだと。
その見事な手腕たるや、思わずその場で通話を聞いていた一二三は笑ってしまったという。
「私もその話を聞いて笑ってしまいました。昔から聡明な方でしたが、しばらく見ないうちに更に磨かれていましたね」
「あれなら独歩くんが会社に復帰したときも、角が立たずに済むでしょうし」
「何から何まで…今度お礼をしないとな」
「それなら今度行く釣りでとれた魚で一郎くんたちをもてなすというのはどうだろう?」
「いいですね、それなら僕も料理で感謝の気持ちを伝えられます。大切な友人を助けてくれたお礼を」
「先生…一二三…」
その後、取引先に直接届けられなかったことへの謝罪の電話をしたら、むしろ極限まで自分で届けようとしてくれてありがとうとまさかのお言葉をもらえた。これもきっと、なまえさんがうまく立ち回ってくれたのだろうと想像ができた。なまえさんと二郎くんに感謝を伝えるためにも次の釣りは気合を入れようと心に誓った。
朝寒気で目が覚めてやってしまったと思った。おそらくこれからどんどん熱が出始めるだろうことは予想がついたが、今日は依然うちの会社のミスで迷惑をかけてしまったお得意先への謝罪もこめた訪問を控えているのだ。きちんと謝罪をして、今回の商品の資料を届けなければ今までの信頼関係にひびが入る。失った信頼関係は取り戻すのがとても難しい。ハゲ課長の嫌味も倍以上になること間違いなしだ。
そんなこんなで市販の風邪薬を飲んで出勤。訪問の時間までデスクワークをこなし、お昼近くに訪問先に行くべく電車に乗った。
まではなんとかなったのだが、電車に乗って座ること数分、体調が一気に悪化してきたのだ。寒気と吐き気で冷や汗をとてもかいている。目を瞑ってやりすごそうとするが吐き気はひどくなりえずいてしまう。袋の類も持っていないしこれはまずいと思い、目的の駅ではないが慌てて席を立ち電車を降りる。なんとかトイレを目指そうと歩き出すも視界がくらくらと揺れ始めた。もういっそ気を失ってしまいたい…極限状態でそう思っていると声をかけられた。
「大丈夫ですか?気持ち悪いなら座っちゃいましょう、袋もあるので安心してください」
そう声をかけると男性はその場にすぐしゃがみこんだ。限界が近かったのだろう。口元に袋を持っていくと口を中に入れるが、えずく一方で吐けないみたいだ。背中を摩りながら今日一緒に買い物に行こうと待ち合わせしているジロちゃんに連絡する。するとジロちゃんもこっちに向かってくれるらしい。正直とてもありがたい。
このサラリーマンの男の人は電車に乗ってきたときから具合が悪そうで気になっていたのだ。明らかに顔色が悪いし、途中から口元を抑えてえずき始めてしまったので声をかけようとしたら慌てて降りて行ったので後を追ったのだ。
「姉ちゃん!」
「ジロちゃん~!」
「これ飲み物!必要かと思って…ってドッポ?!」
「知り合い?」
「シンジュクデビィジョンの代表だよ」
「通りで見覚えがあると思った…あの!飲み物飲めますか?」
ペットボトルのキャップを外して渡すと飲んでくれた。しゃがんだことで少し吐き気も収まってきたのだろう、独歩さん(苗字がわからないのでそう呼ばせて頂こう)はポツリポツリと話し始めた。
「あの、すみません。ご迷惑をお掛けしてしまって…」
「全然ですよ」
「二郎くんもありがとう、飲み物…」
「おー!」
するとふらふらと立ち上がる独歩さん。ジロちゃんがすかさず支える。
「あの、少し気分もよくなったのでもう大丈夫です」
「ダメですよ、それはあくまで一時的なもので、まだ体調は回復してないです」
「でも、どうしても行かなきゃいけないところがあって…」
話を聞くと取引先に資料を届けに行かなければならないらしい。謝罪も込めているので絶対に今日の約束を違える訳にはいかないとのことだった。
「…わかりました、その資料私が届けます。場所だけ教えていただけますか?」
「いや、そこまでして頂くのは…これ以上迷惑かけられないですし…」
「何言ってるんですか!体調が悪いのに頑張って出勤して、電車の中でも周りの人のこと考えて吐きたいのを我慢して…もう十分です。いいんですよ、たまには人に任せちゃっても」
でも…と渋る独歩さんにジロちゃんが畳み掛ける。
「ここは姉ちゃんに任せようぜ。つか、俺が強引にでも病院に連れて行くかんな」
独歩さんのことを思って、わざと強い言葉で言ったジロちゃんに独歩さんも折れてくれた。
「そうしたらお願いできますか…?」
「もちろんです!」
独歩さんから資料を受け取り、さっそく電車に乗り込む。ジロちゃんにはタクシー代を渡して近くの病院に独歩さんを連れて行くようにお願いした。また気分が悪くなってきた独歩さんを見て、無理させなくてよかったと思った。ジロちゃんが一郎に連絡し、寂雷さんに独歩さんの病院を伝えると言ってくれたので安心して任せられる。私はまず、この資料を責任を持って届けよう。
ふと意識が浮上する。まだ眠っていたいという気持ちと、何かを忘れているようなそんな葛藤がせめぎ合いつつ目を開ける。すると見知った人物が二人、俺のことを覗き込んでいた。
「独歩くん、気分はどうだい?」
「よかった、目を覚まして」
「先生…一二三?どうして…」
「一郎くんから連絡をもらってね、独歩くんが体調を崩してこの病院にいると」
「それで連絡を受けた先生が僕を連れて、車でここまで送ってくれたってわけさ」
病院ということで看護婦さんたちがいても大丈夫なようにだろう、一二三はいつものスーツを着ていた。
「二人とも…本当にありがとうございます」
「困ったときはお互い様だよ、私たちは仲間なのだから」
「先生…」
一二三を見るととても優しい表情で頷いていた。俺はつくづく、素敵な仲間を持ったんだなと実感した。
「独歩くん、今日一日なら入院もできるみたいなんだがどうする?」
「あ、いや、そこまでは大丈夫です。帰ります」
「なら私の車で送ろう」
「あ、先生すみません。上司に連絡だけさせて頂けますか?恐らく怒り心頭なので…」
結局、二郎くんに連れられ、タクシーに乗り込んだ瞬間意識を手放してしまい、上司にも取引先にも連絡出来ていなかったのだ。どれだけ怒られればいいのだろうと落ち込んでいると先生が笑った。
「その件なら独歩くん、君の上司から今日から5日間程のお休みを頂いているよ」
「え?!!」
「詳しい話は車の中でしよう」
車の中で話されたのは次の通り。
資料を無事届けたなまえさん(先生はTDDの時に彼女と知り合っており、名前を教えてくれた)が病院に着いた時には先生も一二三も到着していたらしい。先生と一二三に挨拶をした彼女は続けて俺の携帯を貸してくれないかと一二三にお願いをしたらしい。俺の上司に今回のことを報告したいからと。彼女の人柄を知っていた先生は大丈夫だよと一二三に伝えて、一二三も了承した。携帯を使用するためにその場を離れた彼女を一二三は念のため後を追ったらしい。ハゲ課長の携帯に電話をかけたらしい彼女は急な連絡をしたことへの謝罪、俺が体調を崩して病院にいること、彼女が資料を届けたことは伏せて俺が漲る責任感で資料を先方に届けたこと、その姿に課長の部下指導が素晴らしいんですねと褒めちぎり、気を良くしたのだろう課長にすかさず俺のお休みを交渉し、無事お休みをもぎ取ったところで忙しい中時間を頂いたことへの感謝を述べ、通話を終わらせたのだと。
その見事な手腕たるや、思わずその場で通話を聞いていた一二三は笑ってしまったという。
「私もその話を聞いて笑ってしまいました。昔から聡明な方でしたが、しばらく見ないうちに更に磨かれていましたね」
「あれなら独歩くんが会社に復帰したときも、角が立たずに済むでしょうし」
「何から何まで…今度お礼をしないとな」
「それなら今度行く釣りでとれた魚で一郎くんたちをもてなすというのはどうだろう?」
「いいですね、それなら僕も料理で感謝の気持ちを伝えられます。大切な友人を助けてくれたお礼を」
「先生…一二三…」
その後、取引先に直接届けられなかったことへの謝罪の電話をしたら、むしろ極限まで自分で届けようとしてくれてありがとうとまさかのお言葉をもらえた。これもきっと、なまえさんがうまく立ち回ってくれたのだろうと想像ができた。なまえさんと二郎くんに感謝を伝えるためにも次の釣りは気合を入れようと心に誓った。