山田 一郎
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「大阪?」
「おう、ちょっと調べたいことがあってな」
そう一郎から聞いた話は、左馬刻さんの妹の合歓ちゃんが行方不明者リストに載っていたという事。そしてジロサブちゃんに協力してもらって、合歓ちゃんの情報を握っているかもしれない人物が大阪にいるという情報を得た事だった。
「…合歓ちゃんが行方不明って…全然知らなかった」
このこと、左馬刻さんは知っているのかな。私が知っている限りでは、二人が離れて暮らすことになったことまで。その詳細も経緯も知らない。
更に気がかりなのは、その情報の断片さ。
「ジロちゃんからの情報だと、合歓ちゃん自身の情報は出てこなかったのに、合歓ちゃんの手がかりを持ってそうな人物の情報は出てきたってことだよね」
「あぁ、そこは二郎も気にしてたところだ」
なんか気持ち悪い。なんか嫌な感じがするな。
「一郎、他に情報がない以上、動くしかないけど…用心してね」
「なまえ?」
誰かが裏で糸を引いているような、そんな不気味さがある。
と言っても、私に情報戦を制するだけの人脈も手段もないしな。
じっとしていても仕方がない。一郎も同じ考えだろうし。
「一郎が大阪に行ってる間、私はジロサブちゃんと一緒にいようかな」
「あぁ、頼む」
一郎をみんなでお見送りした後、急遽入った依頼に向かうジロサブちゃんをお見送りして、私は夕飯の買い物に向かうことにした。今日は特売があるスーパーが三か所あることは既にリサーチ済み。その全てに回る予定だ。優先順位の高い食材が置いてあるところから回る。アプリを入れておけば、色んなスーパーのチラシがチェック出来るのだから便利な時代になったものである。
無事に狙いの食材たちをゲットして、ホクホク気分で山田家に戻ると、何やら事務所が騒がしい。覗いてみるとジロサブちゃんの他にもう一人。
「あれ?お客様?」
「姉ちゃんこっち来ンな!!」
「なまえ姉逃げて!!」
三人ともマイクを構えており、恐らく戦闘の合間に何かしらの会話をしている時に私が入ってきた感じかな。
なんにせよ、普通のお客様じゃないか。
私は静かに買い物袋の中からお目当てのものを取り出し、構える。
「どちら様ですか?返答次第ではこの卵たちを全弾その高そうなコートにぶち込みますよ?」
「…アンタがなまえか。話には聞いてたが肝が据わってンなァ」
やたら声がダンディなお客様(仮)が私を見ると、ジロサブちゃんが私に駆け寄ってきた。
「二人とも怪我はない?」
「あぁ、大丈夫」
「あの人何か言ってた?」
「それは…」
「父親だよ」
「…なんて?」
「親父だ。ソイツ等のな」
「それ、証明できます?」
「家族しか知らねェソイツ等の身体の傷を答えられる」
一郎からお父さんは亡くなったと聞いていたのだけれど。
まぁ、なんにせよ。
「ちょっとそのサングラスと帽子を外して頂いても?」
「?」
少し首を傾げながらも外してくれる山田父(仮)。
「うわ、めっちゃダンディじゃん」
「姉ちゃん!!」
「なまえ姉!!」
珍しく本気で怒っているような顔をして私に詰め寄る二人。というか、初めてじゃないか?
「いや、だって見て?あんなダンディなオジサマ滅多に拝めないよ?」
「姉ちゃん!!こんな時に言うことじゃないだろ!!!」
「なまえ姉!!前から思ってましたが、緊張感がなさすぎるのもどうかと思います!!!」
「何々!そういう遠慮ない意見もっと言って!!」
ダンディなオジサマ(確定)を余所に、言い合う私たちを見て、マイクを再び構える男性。ジロサブちゃんもすぐにマイクを構えて私の前に立つ。
「ソイツ等の言うとおりだ。得体の知れねェ相手に、ちと隙を見せすぎじゃァねェか?」
そう言う男性の目を見て、私は言い返す。
「大丈夫です。私、男を見る目あるので」
そう胸を張ってドヤる私を見て、初めて男性が表情を崩した。
意表を突かれたような顔をして、しかしすぐ不敵な笑みを浮かべて。
「コイツはやられたなァ…もう少し、遊んでいく予定だったんだが」
そこまで言われて、期待を裏切るのは男じゃねぇなァ。そうどこか楽しそうに笑う男性は事務所の出口に向かっていく。
「おい!まだ話は終わってねェぞ!!!」
「俺から言うことはひとまず終わった。後はお前らがどう動くかだ」
そう言うと男性は振り返ることもなく、事務所から出て行った。
ジロサブちゃんは重く口を閉ざし動かない。
無理もない、死んだと思っていた父親が突然姿を現したのだから。
一郎は過去のことをあまり話さない。
今では少し緩和されたけど、昔は自分のこともあまり話さない子だった。言葉よりも行動で示す。それを特に意識せずやってのける子だった。
昔、一郎が輩に絡まれているのを助けて、助けられて。少しずつ接点が増えていって。
経営するカフェに呼んでよくご飯を作った。始めは会話を投げかけても必要最低限の答えしか返ってこなかったのが、少しずつ話してくれることが増えていって。笑うことも増えていった。
そんな一郎は、家族のことは頑なに話さなかった。弟がいて、両親はいない。そう聞いていたのだ。家族の話題を避けているのは察していたから、私も特に聞いたりしなかったのだ。ジロサブちゃんと和解した後は、どこか照れくさそうに弟たちのことを話すようになったけれど、両親のことはもう死んでいるとだけ。
一郎が結果的には嘘をついていたという事になるのだけれど、その背景には色んなものがあるのだろう。ただ、それは私が当事者じゃないからこそ冷静でいられる部分だ。
ジロサブちゃんにとっては衝撃が大きかっただろう。
加えてあのお父さんだもんなぁ。きっと二人の心を逆なでする伝え方したんだろうなぁ。このタイミングの良さは恐らく、ジロちゃんが掴んだ情報元はあの人の可能性が高いだろう。一郎を遠ざけるための策。今まで何の干渉もしなかったのになんで今頃…
一郎に連絡をすべきだろうな。でも、それよりもなによりも今は、目の前のこの二人を抱きしめよう。二人とも大きいから、私が抱き着くみたいな形になるけれど。私がぎゅっと二人を抱き込むと、二人とも少し屈んで抱きしめ返してきた。
家族だから。なんていうのは甘えなのだ。家族だから言葉がいらないだとか、そんなことはなくむしろ逆なのだ。大切にしたいからこそ、言葉を交わそう。家族は元から家族なんかじゃなく、みんなで築いていくものだから。
揺らいだ家族の形。それでも、君たちなら大丈夫。きっと、大丈夫。
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