百回生まれ変わるにかさにの話【ギブアップ済】
で、何だったんだっけ。ああ、次か。次の本丸ではね、この戦いが終わりを迎えたんだ。信じられるかい? 終わるんだよ、この無限に続くような戦は。ちゃんと正しく手順を踏みさえすれば、ね。
まあ、そうなると僕ら刀剣男士も、君たち審神者も、みんなお払い箱だ。むしろ僕らは知りすぎていたからね、政府にとっては邪魔でしかなかった。君たちは記憶を消されて現世に戻されて、僕らは刀解される。そうなるはずだったんだけれどね。僕ら、ふたりで逃げ出したんだよ。
逃げて、逃げて、遠くまで逃げて、どこまでも逃げて、後はわかるね。とても美しい夜明けのことだった。どう考えても、限界まで追い詰められていた。
「青江、偵察」
「一時、三時、七時、十時の方角に敵だ。森の中に紛れている」
「逃げれる?」
「厳しいかもしれないね」
戦いの間は仲良く協力していた政府を敵と呼ぶ日が来るなんて、なかなか痛快だったよ。彼女はそうは思わなかったようだけれど。幽霊よりも真っ青な顔だったからねえ。
僕も他人のことは言えないが、彼女も結構な臆病者でね。肝心なことは何も言えないし、現世に戻る勇気もないし、本丸と心中する覚悟もないし。だからこそ彼女は僕を選んだし、僕は彼女の手を取った。義務感でもない、忠誠でもない、哀れみでもない、それでも、僕にはそれしか選択肢がなかった。お察しの通りだ。
「僕が三つ数えたら、君は真っ直ぐ走るんだ。後から行くよ」
「でも、青江」
「ああ、主」
「青江」
「何か言うことがあるのかい?」
今まで、本当に大切なことは何も言えなかったくせに。言外にそう匂わせると、臆病で、それゆえに聡かった彼女は眉をぎゅっと寄せて、僕の足元をただ見つめていた。
「さん、にい」
「青江」
「いち」
「あいしてた」
彼女は踵を返して朝日に向かって駆け出した。下枝がぱきぱきと鳴っていって、ああこれじゃあすぐに捕まるな、と思った。思ったけれど、最後にちゃんと気概を見せた彼女に応えないといけなかったからね、彼女に襲いかかる敵は全て斬り捨てる覚悟だったさ。
かつての味方の側だった人たち、刀たちを、斬って、斬って、斬り捨てて、斬られて、刺されて。痛い、とは思わなかったけれど、悲しい、とは感じた。彼女を置いていかないといけないことがね。
僕がしばらくは時間を稼いだはずだから、彼女はあの場は切り抜けたはずだ。じゃあその後は。さらにその後は。折れる、というのは別に怖くないけれど、その先を知ることができない、というのはいつまで経っても怖いものだね。
ふふ、知っているよ。幸か不幸か、人間はいつか絶対に死ぬ。そして、全く同じ彼女には、二度と出会えないんだ。
まあ、そうなると僕ら刀剣男士も、君たち審神者も、みんなお払い箱だ。むしろ僕らは知りすぎていたからね、政府にとっては邪魔でしかなかった。君たちは記憶を消されて現世に戻されて、僕らは刀解される。そうなるはずだったんだけれどね。僕ら、ふたりで逃げ出したんだよ。
逃げて、逃げて、遠くまで逃げて、どこまでも逃げて、後はわかるね。とても美しい夜明けのことだった。どう考えても、限界まで追い詰められていた。
「青江、偵察」
「一時、三時、七時、十時の方角に敵だ。森の中に紛れている」
「逃げれる?」
「厳しいかもしれないね」
戦いの間は仲良く協力していた政府を敵と呼ぶ日が来るなんて、なかなか痛快だったよ。彼女はそうは思わなかったようだけれど。幽霊よりも真っ青な顔だったからねえ。
僕も他人のことは言えないが、彼女も結構な臆病者でね。肝心なことは何も言えないし、現世に戻る勇気もないし、本丸と心中する覚悟もないし。だからこそ彼女は僕を選んだし、僕は彼女の手を取った。義務感でもない、忠誠でもない、哀れみでもない、それでも、僕にはそれしか選択肢がなかった。お察しの通りだ。
「僕が三つ数えたら、君は真っ直ぐ走るんだ。後から行くよ」
「でも、青江」
「ああ、主」
「青江」
「何か言うことがあるのかい?」
今まで、本当に大切なことは何も言えなかったくせに。言外にそう匂わせると、臆病で、それゆえに聡かった彼女は眉をぎゅっと寄せて、僕の足元をただ見つめていた。
「さん、にい」
「青江」
「いち」
「あいしてた」
彼女は踵を返して朝日に向かって駆け出した。下枝がぱきぱきと鳴っていって、ああこれじゃあすぐに捕まるな、と思った。思ったけれど、最後にちゃんと気概を見せた彼女に応えないといけなかったからね、彼女に襲いかかる敵は全て斬り捨てる覚悟だったさ。
かつての味方の側だった人たち、刀たちを、斬って、斬って、斬り捨てて、斬られて、刺されて。痛い、とは思わなかったけれど、悲しい、とは感じた。彼女を置いていかないといけないことがね。
僕がしばらくは時間を稼いだはずだから、彼女はあの場は切り抜けたはずだ。じゃあその後は。さらにその後は。折れる、というのは別に怖くないけれど、その先を知ることができない、というのはいつまで経っても怖いものだね。
ふふ、知っているよ。幸か不幸か、人間はいつか絶対に死ぬ。そして、全く同じ彼女には、二度と出会えないんだ。