百回生まれ変わるにかさにの話【ギブアップ済】

 その後の記憶は曖昧なんだよね、気がついたらまた、僕はにっかり青江、って新しい主に挨拶していたんだ。
 次の主はよく笑う人だった。不思議だよね、顔も声も霊力の質もそっくりなのに、中身はみんな違うんだ。君、魂の不死は信じるかい? 人が死んでも魂は生き続けて、地獄に行くなり生まれ変わるなりするんだそうだね。でもさ、仮に同じ魂で生まれ変わっても、僕と出会うまでに全く違う経験をしているんだから、同じ人なわけがないんだよね。だからこの際、魂も霊も生まれ変わりもどうだっていいんだ。
「にっかり、出陣お疲れ様」
 彼女はそう言って、えへへと笑う。部隊全員を出迎えた後、僕にだけこっそり声をかけてくれたものだった。そうそう、彼女は僕をにっかり、と呼んでいたね。この後もたくさんの主のもとに顕現したけれど、そう呼ぶひとは多くなかった。どうしてだろうねえ。
「おまんじゅう、ふたつだけ残してあるから、後で一緒に食べようよ」
「へえ、ふたりきりでかい」
「うん、ふたりきりだよ」
 彼女にとっては面白くて仕方ない思いつきであるらしく、くすくすと笑い続ける。そんな夕暮れが、何度もあった。何度でもあるんだと思っていた。
 確か、その本丸は敵の襲撃に遭ったんだった。部隊は出陣と遠征で出払っていて、警備も手薄だった。そして、ああそうだった、とても綺麗な夕暮れ時だったよ。僕は、主とお高い羊羹を食べる約束で、本丸に残っていたんだよね。
 うん、一瞬だった。主とみんなとの霊力の繋がりがあっという間に切れていって、あっという間に辺りが静かになっていくんだ。どすん、どすんと、無粋な足音だけが響いていてね。逃げるのもおそらく不可能だった。
 そのとき、彼女、どうしたと思うかい?
 ふふ、違うよ。笑ったんだよ、とっても楽しそうに。
「あはは、そっかあ、これで終わりかあ。ねえ、にっかり」
「……なんだい」
「一緒に、地獄まで行ってくれる?」
「勿論。君がそう望むなら」
 ありがとう、とだけ彼女は言って、護身用の刀を取って、そしてまた笑った。夕焼けと、火と、なんだろうね、とにかく紅く染まって、抽象画か何かみたいに艶やかに笑っていた。僕と一緒に最後の悪あがきをするというのも、彼女にとっては面白い思いつきのひとつにすぎなかった、みたいに。うん。残酷だよ、戦なんて。そして、知っての通り、刀は戦に出てこそなんだよ。うん。矛盾してるんだよ、人と刀が一緒に生きるだなんてさ。
 結局、まだ一緒に地獄には行けてないんだよね。地獄のほうも、待たされすぎて焦れてるんじゃないかな。知らないけれど。
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