百回生まれ変わるにかさにの話【ギブアップ済】

 君はどう思うかい? 刀剣男士が折れた後だよ。僕は覚えていないんだよね、長い長い時間が経ったような気がして、気がついたらまた、人の体を得て顕現していた。まあ、これも驚いたよね。
 しかも、主と名乗った人は、その前の主とそっくりだった。声も、顔も、興奮すると少し身振りが大きくなるところも、何もかも。でも、彼女は僕を見るのは初めてだと言うし、何が何だかわからなかったよ。本丸の建物の作りも少し違って、たぶん初期刀も初鍛刀も違って、どう考えても別の本丸だったね。前世の記憶があると言うと、主はたいそう驚いて急いで政府の人と一緒にいろいろと調べてくれた。親切な人だったよ。
 僕としても、顕現したばかりで折れてしまって迷惑をかけてしまったんじゃないかと不安になってね、前の主を探す日々が始まったわけだ。あの夕焼けが、忘れられなかったしね。
 まあ、結論から言うと、駄目だった。今思えば、歴史の改変に近いようなことが起きていて、世界線そのものが違ったんだろうけどね、とにかく、探していたあの人は、どこにもいなかった。
 この件で何ヶ月も主は政府との連絡を繰り返して、本来の職務もこなして、かなり疲れているようだった。
 確か五ヶ月目のことだった。彼女は鉛筆で書類の下書きを作っていて、僕は政府からの書類を読み直していた。
 静かな夜だったよ。突然、びりびりびり、と大胆な音がしたものだから、書類を読むのは中断させられたけれど。
 音の方を見ると、特大の消しゴムを握りしめて、半分に裂けた紙を見て呆然としている主がいてね。親切で、お人好しで、少しお節介で、不器用な人だった。
 何だろうね、それを見ていたら、何だかどうでもよくなってしまってね。見つからないなら仕方ないじゃないか。探すのをやめてから探し物がひょっこり出てくるなんてことも、あるかもしれないからね。まあ、そんなのは詭弁だ。
「君」
「ああごめん、邪魔しちゃった? 新しい紙、持ってこないと」
「もう、いいよ」
「え?」
「うん、君も、気づいてるんだろう。見つからない。どこにもいない。だから、もういいよ」
 彼女はぽかんとして僕を見つめて、しばらく見つめて、急に堰を切ったように泣き出した。ごめんね、ごめんね、としきりに繰り返していたけれど、別に彼女のせいじゃない。僕のせいだったのかもわからない。主はまだかなり若かった。無理をさせて申し訳なかったな、とは今でも思うよ。
 渋る彼女を説得して、政府の方にも説明して捜索は打ち切った。しばらくすると主も明るくなって、本丸の成績も上がって、僕も戦場に出してもらえるようになって、楽しかったね、あの頃は。
 ただ、どうやってあの日々が終わったのか、思い出せないんだよね。あの本丸は楽しかったから、勿体ないことをしたよ。うん、気がついたら、また別の本丸で、最初の名乗りをしていたんだ。
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