百回生まれ変わるにかさにの話【ギブアップ済】

 僕が初めて顕現されたのは、秋の気配が見え始めた頃の、昼下がりのことだった。最初に目に入ったのは、目をまん丸にして僕を見ている、いかにも非力そうなおなごだった。主だと名乗られたときには、驚いたよねえ。まあ彼女の方でも、始まったばかりの本丸で、そろそろ短刀以外の刀も、と思って鍛刀をしてみたら僕みたいな刀が来たんだ、それはそれは驚いたそうだ。後からそう話してくれた。
 確かその後、初めて鍛刀した大きな刀だということで、短刀たちに囲まれて本丸の説明を受けた。始まりの一振りに選ばれたのだというあの刀とも挨拶して、そして、うん? そういえば、初期刀は誰だったんだろう。何しろずっとずっと昔のことだからねえ。ああ、足は崩していいよ。これから長い話になるからね。
 ああそうだ、顕現した後の話だったね。いろいろと説明が終わった後、庭でも見て来いと外に放り出されてね。何しろ人の体を得たばかりだ。何をしたものかもわからなかったけれど、見てみると、一面が真っ赤に染まっているじゃないか。空なんてもっと驚いた。橙になった空を写して真っ赤に染まった雲って、びっくりするじゃないか。これじゃあ鶴丸さんだねえ。火事か、戦か、と思ったけれど、辺りはどうにも静かだったし。
 ぼんやりと突っ立って見ていたら、主が庭に降りてきた。
「わあ、綺麗な夕焼けだね」
「夕焼け、かい」
「そうそう。お日さまが沈むときは、ああいう風に空が赤くなるの。日の出のときもそうだね。曇ってなければ毎日見れるけど、今日は一段と綺麗だよ」
 へえ、今度の主は、こういうものを綺麗だと言うのか。そう思って彼女の真似をして空を見てみると、さっきよりも幾分か鮮やかに見えてきた。
「ねえ、青江」
「何だい」
「いい空でしょう。空だけは、どこに行っても一緒だから。覚えておいてね」
 彼女は確かにそう言った。どういう意味なのかを問い返そうと思ったけれど、彼女の横顔を見たら何も言う気にならなかった。
 だって、夕焼けに照らされて赤くなったその顔は、微笑んでいたのに随分と悲しそうに見えたから。
 本当に、そう思ってるのかい。そう尋ねたくなったけれど、結局僕はそうだね、と頷いただけで、それっきり会話はなかった。臆病だよねえ、僕。今も昔も。
 あれから数日で僕が折れてしまうと知っていたなら、僕はもう少し何か言えたのかもしれない。やっぱり何も言えなかったのかもしれない。戦場での不慮の事故ってやつだったからね。仕方ないさ。だから、君はそんな顔しなくていいんだよ。
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