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中立組織に拾われる話



必死に廊下を走る。任務帰りのあの人に捕まったら最後だ。しばらく解放されない。その上、あの人の知り合いだという二人まで来たら終わりだ。せっかく風邪が治ったばかりだと言うのに。簡単に追いつけるのに、一定の距離を保っているのは遊んでいるつもりなのだろうか。マジで怖い。半泣きになりながら、必死にここから近いチョンユエさんのところへ走る。さっきから人とすれ違ってないけども。こないだ来た時に匂いが落ち着くからお香から教えてとなんとか伝えたら、寂しいと勘違いされたみたいで居ても居なくても入っていいとパスキーを渡された。この人も誰かのテリトリーに入るような人じゃないだろう。だから、あの人の部屋は逃げ込むにはもってこいのはずなんて思っていた時だ。

『逃げるな』

肘までのアームカバーを着けた太く逞しい筋肉質な腕が私の体に巻き付き、そのまま抱き締めるように引き寄せられた。それと同時に耳元で囁かれる甘く低い溶けるような吐息混じりの声に、恥ずかしいやら恐怖やらでぶわりと体温が上がってさぁっと一気に血の気が引く。私は側から見たら器用に顔を赤くして青くしているだろう。ビシリと音を立てて固まる私に気をよくしたのか、それとも早く二人きりになりたいのかはわからないけど、そのまま横抱きにされて早足で部屋に連れて行かれた。気分はドナドナだ…
部屋に着くと先生にSOSを出すための端末は没収された。えん、もうどうにもできない。助けて、もんちゃん。私の頭を軽く甘噛みしてくるよくわからないあのちょいこわ生物が恋しい。こないだはリーさんから助けてくれたのに。もんちゃんは普段は先生のところにいるから、私のSOSは届いていないだろう。走りながら端末で連絡すればいいと思うだろうが、そんな端末に意識を割いてたら速攻で捕まるし、肩に担がれてるならやりようはあるけどこの人はいつも横抱きなのだ。普段は全くと言っていいほど私に関心なんてないのに。たまに目が合うくらいなのに。こういう時だけ私のいるところにピンポイントで来る。この人に限らず猫みたいな耳がある人はよく私のいるところを把握してるみたいだけど、冗談抜きで恐ろしすぎる。特にシルバーアッシュさんとか、黒いフードの人とか。
向かい合うように私を膝に乗せてベッドに座った。そのまま、猫が甘えるように首筋に鼻先を擦り付けてくる。どこに手を置いていいかわからず、少しだけ距離を取るように肩に手を置いた。でも、離れた分の距離を埋めるように、背中に手が回り抱き寄せてきた。ぴたりと隙間が無くなる。するりと私のふくらはぎにふわふわとしたものが撫でたと思ったら、そのまま巻き付いた。居心地が悪いというか、どうしていいかわからず膝立ちのまま、私の胸に顔を埋めている黒い頭を見下ろす。
どうしようと思っていたら、そのまま私を抱きしめながら横になった。体重はかけてこないが、私が抜け出せないくらいの力加減でベッドに縫い付けられる。まずいと思いながら抜け出そうと身じろぐと、叱るようにぎゅっと力を込められた。

『動くな。大人しくしてれば何もしない』

動くなと言う言葉にひしりと固まると、褒めるようにぴるると震える虎のような丸い耳が、私の顎を擽ってくる。尻尾だけでなく、私の足と足を絡めてきて隙間を無くすみたいだった。いつものようにするなら、私も彼を抱き締めなきゃいけないんだけど、今回はどうしたらいいんだろう。とりあえず早く解放してほしい。
はぁっと聞こえた熱を帯びたような息遣いに、少しだけ身じろぐ。収まりのいいところを見つけたのか、小さくゴロゴロと猫が喉を鳴らす音が聞こえてきた。このまま、なんとか抜け出して逃げなくてはと思っていた時だった。

『お?なんだ、連れてきてたのか!邪魔なら出直すけど、俺たちはどうするべきだと思う?』
『ただのグルーミングの一種でしょう。落ち着いた頃に変わって貰えばいいと思いますよ』
『そうかあ?それもそうだな!アオスタ、お前も混ざるか?』
『僕は今回はいいです。仕上げたいものがあるので』

やばい方の確率まで引いた。赤い狐の人と灰色の狼の人。この二人も二人で怖いというか、厄介というか。距離が他の人たちと違うというか、なんだかいろんな危険を感じるというか。ギジリとベッドのスプリングが軋む音がしたと思ったら、後ろから抱きしめるように私と黒い虎の人の間に腕を入れてきた。そして、私を引き寄せたと思ったら、鼻先を髪に埋めて大きく吸い込む音がする。思わず、黒い頭を抱き寄せる。すると、ゴロゴロという音はもっと野太くごるるると音を変えた。

『んー?ああ、悪りいな。驚かせた。でも…ああ"〜、やっぱ、いい匂いだよなあ…』

低く、やけに色のある声に目の前がぐるぐると回る。飛びそうになる意識を必死に繋ぎ止めていると、黒い虎の人がするりと私から離れた。すると、後ろにいる赤い狐の人が私を抱えたまま体を起こして、私を足の間に座らせた。相変わらず腕は私の腹あたりに回っているけども、横になっているよりマシだ。黒い虎の人は手を伸ばして私の頬を撫でてから、手櫛で私の少し乱れた髪を直す。私を捕まえに来た時よりは落ち着いているらしい。あの、怖い雰囲気はもうない。ほっと息を吐くと、体の力も抜けたみたいで赤い狐の人に寄りかかってしまった。

『なんだ?甘えてるのか?かわいいやつめ!』

ぎゅうっ!とぬいぐるみを抱きしめるように抱きしめられて、うぐっと息を呑んだ。苦しいと腕を叩くとごめんと謝りながら緩められた。内臓が全部出るかと思った…
なんとなく灰色の狼の人の方を見ると、何かをいじっているようだった。すりすりと私の頭に頬を擦り寄せている赤い狐の人にもうどうにでもなれと思いつつ、目の前の黒い虎の人を見る。髪の間から目が合った気がした。

『そういや、今日はお前に捕まるまで何してたんだ?』
『いつものように書類を届けて散歩してた』
『そんで、人気の少ないところに誘い出して連れてきたって訳か?相変わらずだなあ!』
『僕に盗聴器作れって言わないだけ、マシだと思いますよ』
『流石にあのやべえイキモン、けしかけられたくねえしな。あと、単純に無言のドクターが怖え』
『それは、確かにそうですね』
『手は出してねえよ』
『"手"、ねえ?』

やや早口でテンポよく交わされる会話は聞き取れず、赤い狐の人は会話をしながらも私の髪をくるくると指に絡めながら話していて頭上でなんだか楽しそうだ。口数が増えてきたので、おそらく三人ともいろいろと落ち着いてきたのだろう。

『アオスタはさっきから何縫ってんだ?俺たちの服でもねえだろ?こいつのか?』
『ええ、デザインしたのがあるのでそれを作ってたところです。まあ、仮縫い程度なんですがね。サイズはこないだ測りましたし、細かい調整は着てもらった時にやります』
『炎国の民族衣装とかいいんじゃねえか!?スリットが深いやつ!きっと似合うぜ、こないだ着てたしよ!細いのは心配になっけど、まあこれから食わせりゃあいいだろ。それに、体のラインがわかるのはたまらねえぜ?こういうのはよお!なぁ、ブローカ!』
『どちらでもいい』
『かーっ、ツレねえなあ!なあ、お前もそう思わねえ?』

いきなりぎゅっと力を入れられて、私の顔を上から覗き込んできた。ひくりと肩を揺らして至近距離にある彼の顔を見上げると、少し驚いたような顔をしてからイタズラが成功した時の子供のような顔でにいっと彼は笑う。
何かを言おうと口を開こうとした時、ピリリと少し高めの電子音のようなものが聞こえてきた。私の端末の呼び出し音だ。三人とも、テーブルに置かれていた端末を見て、テーブルの近くにいた灰色の狼の人がそれを取る。

『ああ、あの女医ですね。どうやら時間切れのようです』
『えー、もうかよー!お前もまだ俺たちといてえよな?』
『返してやれ。また連れてくる』
『ちぇー、けちー』
『捕まえるの間違いでは?』

パッと赤い狐の人は私からあっさりと離れる。それに弾かれるように私はベットから降りて、テーブルのところまで行くと灰色の狼の人から端末を返すように差し出された。それを受け取ると、がしりと手首を掴まれる。そして、ぐいっと引かれて彼の腕の中に飛び込むような態勢になってしまった。彼は一瞬だけ私の首あたりに擦り寄ってからすぐに手を離した。

『では、次こそはうまく逃げれるといいですね』

真面目そうな表情をニヒルとした笑みを浮かべて、ひらひらと私に手を振ってくる。とりあえず一刻も早くここから離れねばと、このまま出ていくのもアレだから小さく頭を下げてから部屋を出た。次がないことを祈りたいけど、また逃げれないんだろうなぁと思いながら、先生のところへ向かった。もんちゃん、ずっと借りれないかな。いや、ダメか…
ちなみに、先生はすごく眉間に皺を寄せてから、私に消臭スプレーを吹きかけてた。どうやら、あの三人のつけているコロンとか香水の匂いが移っていたらしい。ドクターは書類で疲れすぎてたのか、そんな先生を見て笑いすぎて椅子から転げ落ちていた。


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