中立組織に拾われる話
時々だけど、ここの人たちは子どもから大人までなんだか迷子みたいだなって思う時がある。正直迷子なのは私の方なのに、なにかあるから帰りたいところに帰れないんじゃないかとなんとなく思っている。おそらくだけど、先生とドクターが言っていた私の体質とかに関係があるのかもしれない。なんだっけ、体が結晶化して最後には破裂するっていう感染症があるとかなんとか。それの抗体をなぜか私が持っていて、私の血からワクチンや血清、特効薬が作れないかって言ってた気がする。なので、私にはちゃんと健康でいてもらわないと困ると先生に言われたような。体重が増えにくくちょっとしたストレスとか寒くなったりするとすぐに減る体質のせいで、前の世界でも食べたり運動したりして増やした体重を維持するのは大変だった。ほんの少し気を抜くと一瞬で減る。この世界に来てからはその体質がさらに悪化してるのかはわからないけど、先生やドクターが診てくれた結果、怪我したりちょっとでも体調が悪かったりするとものすごく眠くなる。なんなら私は数時間くらいだと思っている睡眠時間は、二人が言うには数日眠っていることもあるらしい。それもあって体重を維持するのがかなり難しいそうだ。それもあって減ったりするとちょっと叱られるし、私の担当看護師さんたちや科学者みたいな人たちからはめちゃくちゃ心配される。難しすぎてよくわかなかったけど、とりあえず私が特効薬の鍵だからちゃんと面倒見ますよくらいと思ってればいいかって終わらせた気がする。
そこらへんは置いとくとして、マイブームである庭園でのんびりするついでに、エンカクさんだっけ、その人に会いに行こうと庭園に足を進めようとした時だった。聞き覚えのある足音に足を止めて、後ろを振り向く。
「ハル!」
たたたっと走ってくるのは私の担当看護師さんの一人だった。極東の出身らしく、日本語と同じ言葉を話せるから担当になった人だ。私より頭ひとつ分高いところにある顔を見上げて、どうしたのと首を傾げる。狐みたいな耳のある女の人。少しだけ息を整えてから、私に持っていた書類の封筒の一つを渡してきた。
「もしかしてドクターのところに行くの?これ、渡してくれる?」
お使いのミッションかな?と思いながら私が渡していいものなのかと彼女の手に書くと、問題ないと返された。むしろ私から渡すと書類にちゃんと目を通してくれるからお願いしたいとまで言われてしまった。ドクターは書類をちょいちょい溜め込むらしい。あと、たまに奇声をあげて書類仕事から脱走するとか。まあ、あの人いつも大変そうだよな。こないだも私のところに来て、いきなり抱き締めてきたと思ったら猫吸いみたいなことして正気に戻るか、戻る前にアーミャさんや黒い輪っかの人とかに連れて行かれてるけど。上の人って大変だなって思いつつ、とりあえず頼まれてたのなら行くべきだなぁと思いながらわかったと頷いた。
「書類落としたら大変だから、この横掛けカバン渡しておくね。ポケットかもあるから、ケルシー先生から渡された端末はここに入れてね。落ちたら大変だから。あ、飴とチョコも入れてあるから、お腹空いたり眠くなったら食べて。ちゃんと食べた数は教えてね」
用意がいいなと思いながら、彼女から渡されたカバンを肩から斜めにかける。私の肩紐を調節して、いい長さになったからうんっと頷いていた。お願いねと言って、他に回らなきゃいけないところがあるからとぱたぱたと走って行った。あの人も大変だ。
ドクターの事務室へ足を進めていると、一人また一人といろんな人にドクターへの書類と一緒に飴やらなんやらを渡される。なんやかんやでそれなりに重くなったカバンを見つめた。どうしようかな、この量の飴とクッキーとチョコといろいろ。さて、ドクターの事務室はどこだっけとキョロキョロとしていると、聞き覚えのある足音が聞こえてきた。重くて小さく鉄のようなものがぶつかる音。足音の方を見ると、黒の中から綺麗な金色の帯のような尻尾のようなものがある男がいた。ムニナール?さんだっけ。私を拾ってくれる馬の女の人に似てる人。目が合うと少し悩んでから私の方へ足を進めてきた。
『また迷ったのですか。ドクターか女医か、今日はどちらまで?』
私を見下ろしながら、手を差し出してきたのでその手にドクターと書くとあいしーと頷きながらそのまま手を引かれた。この人はたまに会う人で、名前を名乗ってくれたんだけど聞き取れずムニナールさんとか心の中で読んでる。難しいんだ…ここの人たちの名前って。なんか名前っぽくない人もいるから、コードネームみたいだったりするのかなって思う時はある。
必ず私の手を取り歩く速さに合わせて、ゆっくり進んでくれるので息切れとかはあまりしないしそんなに疲れない。紳士だよなぁと思いつつ、そういえばと思い出した。大きな手からするりと私の手を抜くと足を止めた。
『どうされた?』
私の方を見てくるけど、カバンの中のお菓子が入ってるポケットからいくつか飴玉を取り出す。そのままムニナールさんの手に取り、出した飴玉を転がした。私の手だと三つでいっぱいになるけど、ムニナールさんの手だとまだまだ乗りそうだった。
『……これを私に?あなたがもらったものでしょう』
なんだか少し困惑しているような雰囲気を出しているけどいつも難しそうな顔をしているから、そういう時は甘いもの食べたらいいとブレイスさんが言ってたし。いっぱいもらったから消費するのは結構大変なのだ。私は甘いものがあまり好きじゃないので。
仕事とか休憩がてらに舐めたらいいよという意味であげると手に書くと、さらに困惑していたが深呼吸してから受け取ってくれた。そこまで?な、なんかごめん。
『…あなたがくださるのなら、受け取りましょう。いらないと返すのはあなたの心遣いに反しましょうから』
新聞の入っているカバンに入れてくれたから、どうやらもらってくれるらしい。ちょっと嬉しくてにへっとすると小さくため息をつかれたが、恐る恐ると手を伸ばされそのまま髪の流れに沿うように頭を撫でられた。恐る恐る手を伸ばした割には、なんだか撫で慣れている手つきだと思いながら受け入れる。
なんだか不器用な人だよなぁと思っていると、そのまま流れるように私の手を取りながら歩き出した。帯のようなものだと思っていた金色はどうらや尻尾のようだった。ゆるりと機嫌が良さそうに揺れていた。
