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知識欲には勝てない話



バロン諸島から出て、トリコさんのところにお邪魔することになった私だが、今に心が折れそうになっている。いや、だって思わないじゃん?普通はさ。

「よく住めますね」
「ん?いいだろ、お菓子の家だ。食えるぞ」
「まさか、一度は夢に見たことのある家に住むとは…」

トリコさんの家は見たまんまである。お菓子の家だった。頭を抱えながら、その場にしゃがむ。正直、選択を間違えた気しかしない。嘘だろと声を上げたくなった。

「何してんだ、早く入れよ」

ひょいっと私を小脇に抱えると、ズンズンと家の中に入っていく。甘い匂いに眩暈がしそうになるが、ふわふわとしたものの上に下ろされた。白いふわふわになんだこれって撫でる。これ、もしかしてマシュマロか?部屋の中を見渡す。本当に食べられるものらしく、トリコさんは普通に食べていた。食べ物を家具にもできるとは。すごいな、この世界の技術は。それに、トリコさんはもしかして、燃費が悪いのだろうか。それよりも。

「すごいですね、この家」

ぽすぽすと私と一緒になってソファを撫でるセビエを抱き上げて、膝に乗せてトリコさんを見る。私にコップを渡してきた。それを受け取る。少し飲んでみると、少しチョコレートのような味がする牛乳のようだった。

「まあな。さて、今後なんだが」
「ああ、そうでしたね」
「お前がまず一番に必要なもんを作ろうと思うんだわ」
「必要なもの?」
「ああ、グルメIDってやつをな」
「ID…身分証みたいなものですか?」
「その通りだ。元の世界に戻るにしろ、この世界を調べるにしろ、必要なもんだろ」

コップに口をつけながら、トリコさんの話を聞く。トリコさん曰く、グルメIDというのは私が思っていた通り身分証みたいなものらしい。それがあれば、何かと便利なんだそうだ。私たちのところでいうジムバッジみたいだな。

「ジムバッジ?なんだそれ」
「口に出てましたか。見ますか?」
「いいのか?」
「ええ、構いませんよ」

カバンからバッジケースを出す。私は仕事に必要だったから、カントーからパルデアまで集めてある。これを何に使うかわからない人でも、おそらくこの量とデザインがあると圧巻だろう。バッジは地方で違うから、一種の免許のような扱いになっている。

「すっげぇな、これ!?」
「ふっふっ…自慢ってほどではないんですがちょっとした自慢です」
「どっちだよ!」

トリコさんはその中の一つを手に取り、しげしげと見ていた。それに思わず、ふふんっと鼻を鳴らしてしまった。

「あ、これとこれ、あとこれはなんとなく元のデザインがわかるぜ。水だろ?」

そう言って、ブルーバッジとウェーブバッジ、ジムバッジみずをテーブルに置いた。ぱちりと瞬くと、合ってるかと言うように私を見てきた。にっと片頬を上げている。

「ええ、合ってます。すごいですね」
「なんとなくな。色と形が似てるし、雫みたいだからわかりやすかったぜ」
「なるほど」
「そう言えば、ポケモンにはタイプがいるんだっけか」
「そうですよ」

このバッジはトレーナーとしてのライセンスだと伝える。私はフィールドワークを主にしているが、一応ポケモンを鍛えて戦わせるトレーナーでもある。ポケモンリーグには興味はないが、バッジがあるとないとじゃ手に入る道具や使える道具、入れる場所が全く違うのだ。だから、どちらかというとあった方が何かと便利だったりする。

「セビエは何タイプなんだ?」
「こおりとドラゴンです」
「だから、ひんやりしてたんだな」
「そうですね」

ころんと私の膝の上に転がって、暖を取るようにくっついてくるセビエの頭を撫でる。トリコさんはどこか優しい表情で、セビエを見つめていた。

「…そいつのこと、本当に大事なんだな」
「ええ、これでも強い子なので頼りにしてるんです」
「……そうか…」

撫でていた手を止めるとやめるなと言うように手に戯れてきたから、うりうりとお腹を撫で回すと楽しそうに鳴いた。何かを噛み締めるような声に、視線をトリコさんに向ける。困ったような、怒っているような、泣きそうな。まるで迷子のような顔をしたトリコさんがこちらを見ていた。

「…それなら安心だな」

その言葉になんて返したらいいかわからなくて、曖昧に笑って返しておいた。彼の触れてはいけない柔らかいところなのでないのかと、そう思ったから。そう言うのは、安易に触ってはいけないものだ。本人がちゃんと見せるまでは。


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