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不良に世話を焼かれる話


私は今、とりあえず自分の目の前に広がる現状の把握から始めなきゃいけないと思う。人というのは、自分の理解を超える現状に遭遇した時、思考が止まるらしい。あと、眠くなる。まあ、そこらへんは置いておこう。ややこしくなる。


私はついさっきまで、散歩をしようと外に出た筈だ。それで、昨日はバケツをひっくり返したような大雨だったから、あちらこちらに水溜りが出来ていた。深い水溜りではないが、飛び越えれるほど小さくないので仕方なしに出来るだけ、浅いところを踏んで渡った。その瞬間、体がガクンと落ちて、ドプンッと水の中に落ちる音が耳元で聞こえた。
なのに、なのにだ。私の体は濡れておらず、視界も少し低い。極め付けには私の四方八方、高校生に囲まれていた。どう考えても、これって入学式じゃね?嘘だろ、悲しみ。新入生代表の挨拶をぼんやりと聞いてると、式が終わればそのままクラスに戻り解散ということなのだろう。クラス会も終わっている筈だ。私はどうしたらいいんだろう。というか、私さ、24だぜ?高校生と混じるには、かなり無理がある気がするんだが。しかも、この学校の制服、なんか私みたいなモブ顔が着ると浮かね?マジやべえよ、これ。

ただぼーっと成り行きを見ていたら、くんっと腕を引かれた。なんだろうと思って見ると、黒髪に頭の真ん中だけ金髪に染めた見るからに不良のような男子生徒が、どこか心配そうに私を見ていた。

「春風さん、やろ?式、もう終わっとるで。体調悪いんやったら、腕貸すから一応教室戻らな」

彼はそう言いながら私を立たせる。動こうとしない私に、彼は首を傾げた。いや、移動しなきゃいけないのはわかってるんだけどさ、頭が追いついてないというか、なんというか。
少し俯いたままの私に、あからさまに心配そうな顔をして、一言謝ると熱を測るように私の額に手を置いてきた。え、何。このトサカヤンキーくん、超優しいんだけど。見た目だけなの?

「熱はなさそうやな、人が減るまで待つか?顔色青いし、保健室寄った方がええんやないか?」
「…えっと、大丈夫、だから」
「………そんな風に見えへんけど、」
「大丈夫だから、教室に戻らないと」

そう言えば、納得いかないような顔をされたけど、すぐに何かあったら言ってくれと言いながら、トサカヤンキーくんは私の前を歩いていた。あ、やべえ。彼の名前、わからねえや。

その後、教室に戻り軽く挨拶を済ませて、各々帰っていった。何か言いたげだったトサカヤンキーくんは、ピンク髪と坊主の子に連れてかれてった。小さく手を振っておく。生徒の波に流されながら、歩いているとどうやらこの学校は学生寮があるようだ。歩きながらカバンを漁ってみると、メモ帳を見つけた。そこには私の部屋の番号が書かれていた。
その番号の部屋の行い扉を開けると、二人部屋でのようで、真ん中から分けられていた。左右対称にベッド、本棚、机、タンスがあって、真ん中は一人がけのソファがテーブルを挟み向かい合っていた。荷物が置かれている方が私のスペースなんだろう。反対側の方を見ると何もなく、同室の人はいないようだ。
それは願ったり叶ったりだと思いながら制服を脱ぎ、着替えてからぽすんとベットに横になった。

夢なら、私のベッドの上だろう。そう思いながら目を閉じた。


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