合縁奇縁
やっぱり、夢ではなかったようで。今日も今日とて、私は高校生活を一からやっている。
私のクラスはどうやら特進科らしく、なんか眼鏡が多い。眼鏡が七、裸眼が三って感じだ。裸眼の中にはきっとコンタクトはいるんだろう。
そんなことを思っていると移動教室のようで、みんな動き出す。ぼんやりと眺めていると、少し周りが暗くなった。顔を上げると、トサカヤンキーくんもとい勝呂くんがなんともいない顔で私を見ていた。彼から少し離れたところに、新入生代表の奥村くんもいた。どうしたんだろう。
「次、移動教室やて。早よ行かんと、遅れんで」
「あ、ありがとう」
次の授業はなんだかわかってるから、教科書にルーズリーフと下敷きを挟み、上に筆箱を置いて立ち上がる。その時、椅子に少し足を取られフラつくと、腕をいつかのように支えるように掴まれた。
勝呂くんの眉間に徐々にシワが寄っていって、怒っているような、心配しているような、不安そうな、なんとも言えない顔をしていた。
「…やっぱり体調良うないんやろ?一度、保健室行った方がええて」
違うんです、足取られただけなんです。別に体調悪くないです。最近、食べれてないけど、全然平気なんです。そんな勝呂くんに大丈夫だからと言いながら、私の腕を掴んでいた彼の手をやんわりと外す。小さく頭を下げてから、教室へ向かう。不思議なのはなぜ、彼が私に構うかだ。私なんかに構っても、いいことはないだろうに。
「って事が今日もあった。不思議でならない」
《ふーん。そのスグロくんは可哀想ね》
「え、なんで?」
《教えてしまったら面白くないでしょ?せいぜい悩みなさい》
「除草剤って悪魔に効くのかな」
《なに怖いこと言ってるのよ、憑くわよ》
「そっちも怖いよ」
目の前の喋るパンジー、山魅(デックアプル)と呼ばれる悪魔に小さなジョウロで水をかける。開花時期が過ぎても枯れる事なく綺麗に咲いているパンジーがあると思いながら、眺めていたら話しかけられたのがこの花との交流の始まりだ。たまに緑男(グリーンマン)と呼ばれる土塊(ゴーレム)に苔とか植物が生えたものをそう呼ぶらしい。全部、このパンジーが言っていたことだ。悪魔だとか言ってたけど、よくわからなかったがとりあえず見える人には見える不思議生物だと思うことにした。ここは平行世界の異世界だったらしい。なんてこったい。
とりあえず、自分でも悪魔について調べてみたけどよくわからなかった。もういっそうのこと、このパンジーに聞いた方が早いなと速攻で匙を投げた。ぶつかって痛いから夢でもないし、寝ても戻れる気配もないし、気長にやろう。いちいち悩むのめんどくさい。
すると、スカートをちょいちょいと引っ張られて、引っ張った犯人を見るといつもの緑男が私を見上げていた。こいつは初めて会った時は人間くらいの大きさだったのだが、なぜか端末サイズまで小さくなっていた。そして、ヘアピンくらいの大きさのやつに靴や足に群がられた。パンジーもそうだけど、こいつらも謎だ。
「どうしたの?」
《こないだ教えた薬はちゃんと飲んでるのかですって》
「ああ、あのスムージーみたいなのか。飲んでるよ、ちゃんと」
そう答えると、肩までよじ登って頬をペチペチと叩かれた。痛くない。逆になんだか可愛い。一匹、持って帰ろうかな。
《…顔色良くないから疑ってるみたいよ。私たち、悪魔を騙そうなんて百年早いわ。本当のことを言うことね》
「本当なんだけどな。ちゃんと飲んでるし、食べてるよ」
《………そう》
パンジーがそう言うと予鈴が鳴った。昼休みが終わったなと立ち上がると、私に戯れていた緑男達はコロコロと転がったり、ぴょんと飛び降りたりしていた。肩に乗っていたやつを下ろし、ランチボックスとジョウロを手に取る。
「じゃあね、また来る」
《ええ、期待しないで待ってるわ》
パンジーはそう言うと、緑男達は手を振っていた。それに小さく手を振る。午後の授業ってなんだっけな。そんなことを思いながら、教室へ戻った。
窓から、誰かに見られていたことを知らずに。