「ぎゃぁ！やばしやばし。
恵さんは葡萄の達人なのさ」

「武道だろ。栽培でもすんのかよ」

桑原は梓が言っているのが武の道ではなく果物だと察知してすかさずツッコミをいれる。

「おぉ、キミいいヤツだね。ちゃんとツッコんでくれる」

梓のボケに桑原がツッコミをいれているうちにも話は進行している。

「特に雅治、いい加減にしなよ」

恵は仁王を見て、睨む。普段は穏やかな恵は義妹の澪菜のことになると人が変わる。

「別に見るくらい構わんじゃろ」

「確かに見るくらいは…いいかな？けどね、雅治の目つきが問題なんだよ」

(アタシは侑士の目の方ががヤバいと思ったよ)

梓は心のなかでツッコんだ。

「ん…？
どうしたの、何かあった？」

澪菜が目を覚まし、ぼんやりとした目で恵を見る。

「澪菜、起きたのか。騒がしくしちゃって、ごめんな」

恵は澪菜の頭を優しく撫でる。

「ううん、大丈夫。それで、どうしたの？」

「ちょっと雅治に問題があってな。澪菜、俺と席代わってくれないか？」

「おいおい、恵さん…」

「え、うん、いいよ」

折角澪菜の隣の隣の席になったのに。仁王は恵の言葉に反論するが、澪菜はあっさりと承諾した。


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数十分後、跡部の別荘に到着した。

「スッゲー!!でかい!!」

建物を前に梓はこれでもかと言わんばかりにはしゃぎまくる。

「うるせぇ!!」

夏希はそんな梓を鬱陶しく感じ、彼女の頭に手刀を浴びせる。その様子を横で由良と澪菜は微笑ましそうに見ている。

「二人とも、元気ね」

「そうだね。でも梓がはしゃぐのも分かる気がする。
別荘って普段使わない筈なのに、こんなに大きなお屋敷なんだね」

金持ちの人間には無駄が多い。よく考えてみると由良の別荘もかなり広かったことを澪菜は思い出す。

「ねぇ、見取り図みたいなのってあるの？」

「あ、また澪菜迷っちゃうもんね!!」

梓は合宿前の話し合いで氷帝の校舎で迷子になったことを言っているようだ。

「それはお前だろが!!」

普段よく迷子になるのは梓。流石に自分のことを棚にあげすぎだ。